第18話 冒涜する魔狼《カース・ウォルフ》
暗闇の中、銀色の光だけが煌いていた。
それは美しく、そしてあまりにも冷酷で、見る者すべてを魅了してしまう。
――ただ一人を除いて。
――男の両隣、一気に倒すわ。
皮袋の中から、ヒジリの声が響く。
嫌な予感が背筋を走った。
止めないといけない。
――前にも、あの目を見たことがある。
敵を見ていない。ただ、命を数えているだけの目。
あの瞬間、ヒジリは強い。
でも同時に、どこか遠くへ行ってしまう。
ボクは――
あの顔を、もう見たくなかった。
「ヒジリ! 止まって~~!!!」
ハツキの叫びが届いた瞬間、
銀色の光は男たちの眼前でぴたりと止まった。
「どうした。臆病風にでも吹かれたか?」
頭と呼ばれる男が、不気味に口角を吊り上げる。
「ヴォルズ様、こいつらどうします?」
「変更無しで宜しいですかい。男は殺す。女は嬲る」
その男の名は――ヴォルズ。
腕には、骸骨を踏みつけ、遠吠えするかのような狼の刺青。
村にいた頃、聞いたことがあった。
『冒涜する魔狼』――。
獲物のためなら死すら厭わない盗賊集団。
当時は「どこにでもいる賊」だと思い、聞き流していた。
だが、目の前の光景がそれを否定する。
仲間が倒れている。
それなのに、誰一人として動揺していない。
ヴォルズは足元に転がってきた仲間の首を、無造作に踏みつけた。
――ボキッ。
「俺の役に立てぬのなら、せめて邪魔をするな」
そう言って、蹴り飛ばす。
殺した。
邪魔だから。
ただ、それだけの理由で。
「ライズ。レイズ。
お前たちは……俺の役に立てるよな?」
感情の欠片も浮かべず、両隣の男たちに告げる。
「もちろんです。お任せください」
二人はニヤニヤと笑いながら、ヒジリを頭の先から爪先まで舐め回すように見つめ、舌なめずりをした。
「うわ! キモっ!!!」
ヒジリが思わず後ずさる。
「キモいからさっさと倒す!
もうこの空間がイヤ!」
地を蹴ろうとした、その瞬間。
ヴォルズが口を開いた。
「男はトラップ系の能力。
女は……人じゃねえな」
ぞくり、と背筋が凍る。
「お前ら、男の方は狙うなよ。
女が凶暴になる。……残り、あと二回くらいか?
先に女をやっておけ」
ライズとレイズに指示を出し、
ヴォルズはその場にどかりと座り込んだ。
――なんで、能力のことを知っている?
完全に、バレている。
マズい。
冷静にならなくては。
そう思うほど、動揺は隠せなかった。
――大丈夫よ、ハツキ。
――あたし、強いから。秘密兵器もあるしね。
皮袋から、優しい声。
……そうだ。
ボクとヒジリなら、きっと。
ヒジリはヴォルズに向かって、一直線に殴りかかった。
「お前は人をなんとも思ってない!
許さない!!!」
――しかし。
ヴォルズの目の前で、ヒジリの動きが止まる。
「え……?」
足元に魔法陣が展開し、眩い光を放つ。
「絡まり付く蔦」
レイズの呟きと同時に、
黒い蔦がヒジリの身体に絡みついた。
「きゃ~! なにこれ!?」
手足を縛られ、身動きが取れない。
「罠・強奪」
ハツキは即座に腕を伸ばし、呟いた。
世界が、モノクロに染まる。
……やっぱりトラップ系。
間に合った。ヒジリを助けられる。
……対象:絡まり付く蔦……
……移動しますか? 消滅させますか?……
移動しても、使用者が解除すれば意味がない。
なら――。
「消滅」
……発動確認 YES・NO……
「YES」
黒い蔦は霧散し、
ヒジリはドサリと地面に落ち、尻餅をついた。
なにか言っているが、それどころではない。
「いい! すごくいいね!
楽しめそうだな!!」
ライズとレイズが、声を揃えて笑う。
「ふぅ~。やっぱり冷静さを失ったらダメね」
ヒジリは振り返り、ペロっと舌を出した。
「ゴメンね、ハツキ。
ちょっとだけ、足引っ張っちゃった」
「よ~し……」
ヒジリは一度、深く息を吸った。
「本気で行く。
――でも、越えないから」
ハツキの視線に、まっすぐ答える。
「ちゃんと、戻る。約束」




