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第16話 旅立ち

お祭りの後、ハツキは村を暫く空ける事を皆に告げ、

代理を立てた。


代理になった青年はキナ。

村1番の俊足を誇り、

隠密行動と策敵能力に長けた青年だ。


昨日、ハツキとヒジリを木の上から観察していたのも彼だった。

2人が家から出てきたのを確認し、

そのまま村の皆に報告して回っていたのである。


そして今朝。

彼は昨日ハツキとヒジリが購入した大量の荷物を、

1人で家まで運んできていた。


「ちょっとこれ、買い過ぎなんじゃないですかね……」


ボヤきながらも、

風を纏い、軽やかに少し離れた家へと向かう。


「マスター!荷物、置いておきますからね!

ちゃんと届けましたよ。

それと、村を出る時はちゃんと声掛けて下さいね」


そう言い残すと、

キナの姿は風と共に消えた。


外からの声でハツキは目を覚ます。

良い朝だ。

旅立ちには、これ以上ない天気だった。


ヒジリの拘束。

抱き枕になっていなければ。


幸せと恐怖が入り混じる。

……いや、恐怖が勝っている。


「あぶないよ…ハツキ…」


来た!!!


反射的にヒジリの手を払い、

ソファから一気に飛び降りる。


「いい朝だ。ヒジリ、そろそろ起きて」


平静を装い、ヒジリを揺らす。


「おはよう。ハツキ」


まるで何事もなかったかのように、

ヒジリは目を擦りながら体を起こした。


朝食は簡単に済ませ、

2人で買った荷物をまとめ始める。


「ねえヒジリ?ちょっと買いすぎなんじゃない?」

「備えあれば憂い無しよ」


ヒジリは鼻歌交じりに、

大量の服を綺麗にたたみ皮袋へ詰め込んでいく。


その皮袋もマジック・アイテムなのだろう。

見た目の容量を完全に無視して、

衣類が吸い込まれるように消えていった。


「忘れてた!はい、これお願いね」


ヒジリから渡されたのは、数枚の紙。


紙には全て [ハツキ様] と書かれ、

金額が記入されている。

合計金貨22枚。


……ちょっと待って。


昨日の飲食代と自分の装備・アイテムで金貨20枚。

金貨1枚あれば、一週間の旅に必要な道具は揃う。


「アイテムとか食料はボクが揃えたよね?

なにをそんなに買ったの?」


「え!?お洋服だけど?これとか?」


ヒジリはくるりとその場で回り、

スカートが軽やかに舞った。


闘いの正装(バトル・ドレス)ですか?」

「うん。この村の装備、カワイイのが多くて迷っちゃった。

さすがトレジャーハンターの村よね。品揃えがすごい♪」


ヒジリが身に纏う黒色の闘いの正装(バトル・ドレス)は、

肩から手首まで大胆に肌を露出し、

胸元には赤い宝石が埋め込まれている。

腰には短いスカート、

その下には太腿までの短いズボン。

足元は膝上まであるブーツ。


透き通るような白い肌。

手入れの行き届いた銀髪。

蒼紫色の瞳が、柔らかく輝いていた。


……反則だ。


「ハツキ?どう?かわいい?」

「は、はい。カワイイです」


思わず敬語になるほどの破壊力だった。


「それにね、錬金術師にちょっと仕込んでもらったから

楽しみにしててね♪」


満足そうに笑い、ヒジリは荷造りを終える。

ハツキも覚悟を決め、

家にある全ての金貨を皮袋に詰め込んだ。


村を回り、金貨を払いながら挨拶を済ませる。

錬金術師が明らかに寝不足そうだったが、

……深く考えない事にした。


正面の門の前。

高台を見上げる。

父と母にも、しっかり別れは告げた。


村人全員が、2人を見送っている。


「「 行ってきます!! 」」


深々と頭を下げ、

ハツキとヒジリは村を後にした。


目指すのは、北にあるリーネ

地図通りなら、7~8日ほどの道のりだ。


太陽が傾き始める。

夜までに休める場所を確保したい。


ヒジリは眼帯を外し、楽しそうに歩く。


「ずっと独りだったからさ、なんか楽しいね。遠足みたい♪」

「しばらくは安全な宿は無いけど、大丈夫?」

「ハツキと一緒なら、どこでもいい~♪」


さらっと言われて、

心臓が無駄に跳ねる。


見通しの良い場所で足を止め、

ハツキは魔方陣の描かれた羊皮紙を広げる。

指先を噛み、血を一滴垂らした。


「お~~!一夜限りの宿(ディスポ・コテージ)

ハツキ君、やりますな~」


顎に指を当て、感心したように頷くヒジリ。


「一応、10日分は用意してきたから」

「これ、なかなか手に入らないのよね~。さすがマスタ~」

「お父さんの遺産みたいなものだからね。仕入先は不明で~す」


何も無かった場所に、

木造のログハウスが姿を現した。


中はダイニングキッチンに整った食器棚。

リビングには毛足の長いラグと大きなソファ。

奥には浴室と寝室まで備わっている。


「ほえ~!

こんなに快適な一夜限りの宿(ディスポ・コテージ)初めて♪」


ヒジリは大はしゃぎだ。


「お父さん、依頼が長引く事多かったから

こういう所は拘ってたんだと思うよ」


話を聞いているのかいないのか、

ヒジリはソファへダイブ。


「フカフカ~♪

ねえハツキ、ここ寝やすそうだよ?」


……最初からソファ前提なのか。


「夕御飯とお風呂、どっちがいい?」

「あ~~!それ、あたしが言いたかった!

ハツキのバカ~!!!」


クッションが飛んでくる。

理不尽だ。


ため息をつきながら、夕食の準備を始めた。


ハツキは皮袋から材料を取り出し、鍋で煮込み始める。


「何作ってるの?」


いつの間にか、真横にヒジリがいた。


「お父さん直伝

“ハル特製・肉と野菜の旨煮”ハツキバージョン」

「お~~!おいしそう♪

でも名前は改善の余地ありね」


鍋には豚肉、芋、人参、玉葱、牛乳、香辛料。

部屋中に、優しい匂いが広がる。


初めて、ヒジリに振舞う料理。


皿に盛り、テーブルに並べる。

パンとサラダも添えて、完成だ。


「出来たよ」

「ありがと。ハツキ」


「「 いただきますっ 」」


「ん~~~!おいひい♪

やるじゃないハツキ」


幸せそうに頬を緩めるヒジリを見て、

胸の奥が温かくなる。


「おかわり~~♪」


その声が、何度も響いた。


進路、危険への対処、

両思いの石フィーリング・ストーンの使い方。

話し合いながら、夜は更けていく。


「「 ごちそうさまでした 」」


洗い物をヒジリが引き受け、

ハツキは浴室へ向かった。


湯船に浸かり、考える。


「1人旅だったら、きっと寂しかった。

ヒジリが居なかったら

秘密の日記シークレット・ダイアリーにも辿り着けなかった……」


「でも、あたしのせいで

ハツキを独りにしちゃったんだよ…」


……だから、なんで入ってくるんだ。


「ゴメン…なさい…」


限界だった。


「ヒジリ!聞け~~!!

あれはボクが勝手に罠に掛かっただけだ!

ヒジリは何も悪くない!


感謝してる!

恨みなんて一切ない!


だからもう、その話は終わりだ!

ヒジリは十分、苦しんできた!


ボクはヒジリの笑顔がスキだ!

だから、笑っていてくれ!」


……言い切ってしまった。


恥ずかしさに耐えきれず、

再び湯に沈む。


顔を上げると、

浴槽の縁に手をかけ、ヒジリが覗いていた。


「エヘヘ……ありがとうね、ハツキ。

約束する。もう言わない」


優しく頭を撫でられる。


「ねえ……

ハツキも、あたしの事スキ?」


……悪魔だ。


「それとね」


「ハツキの、見ちゃった。。。 」


そう言い残し、

ヒジリは勢いよく浴室を出て行った。


……一糸纏わぬ姿だった事を、

今になって思い出す。


こうして、

リーネを目指す旅の一日目は終わった。


ハツキは久しぶりの2人旅。


ヒジリは初めての2人旅。


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