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第14話 満月の夜に

すっかり辺りは暗くなり、

昨日と変わらない、綺麗な満月が夜空を照らしていた。


ハツキとヒジリは《秘密の日記シークレット・ダイアリー》を読み終え、

名残惜しそうに、それを静かに閉じる。


「……お父さん、お母さん。ありがとう」


ハツキはそっと目を閉じ、呟いた。

その隣で、ヒジリが鼻をすする。


「良かったね、ハツキ……」


「まーた泣いてる。ボクはちゃんと我慢できてたよ?」


「うるさい! あたしは我慢できないの!」


ヒジリはそう言って、いつものように肘を入れようと——

その瞬間、ハツキの右腕に目が止まった。


「ハツキ! ハツキ! ハ〜ツ〜キ〜!!」


「なに? 一回呼べばわかるよ……」


「腕! 右腕!!」


ハツキの右腕が淡く煌めき、

黄金色の紋章が、ゆっくりと刻み込まれていく。


《宝箱と竜の紋章》


——トレジャーハンターマスターの証。


「……これが、マスターの証か」


ハツキは、愛おしそうにその紋章を指でなぞった。

父の腕にも刻まれていた、同じ印。


これで、お父さんと同じだ。

……だけど。


(紋章が同じなだけで、力も技術も、全然足りない)


感覚を失った自分が、本当にマスターでいいのだろうか。

——いいはずがない。


(だから、努力しなきゃ。認められるくらい、強くならなきゃ)


ハツキは、胸の奥で強く誓った。


「あたしたちの次の目的地、決まったわね。リーネの街」


「ちょっと遠いけど……なんとかなるでしょ」


二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。


「あ、そうそう。新マスターさんに、ヒジリちゃんからお祝いをあげましょう」


「え……キ、キスですか?」


「ん〜ん。違うよ」


ヒジリはそっけなく言い、皮袋を取りに向かう。


(……期待したボクがバカだった)


ハツキは顔を真っ赤にし、床に突っ伏して身悶えた。


「何やってるの、ハツキ?」


「だって今の素っ気なさ、ひどすぎませんか!?

恥ずかしすぎて、穴があったら入りたいんですけど!!」


「なんか言ってるのは聞こえたけど……

知識不足のハツキには、どうせわからないと思って」


「……ボク、泣いてもいい? 知識不足のボク、泣いてもいい?」


「ご、ごめんって! 知識なんて勉強と経験でどうにかなるから!」


ヒジリはうなだれるハツキを慰めつつ、

皮袋から二つの石を取り出した。


「じゃーん! ハツキにこれを一つあげます♪」


「……なにこの、灰色の石」


「これはね……」


ヒジリは顔を赤くし、もじもじし始める。

一度深呼吸をしてから、意を決したように言った。


「恥ずかしいから、一回しか言わないわよ」


「これは《両思いのフィーリング・ストーン》。

基本効果は、持ち主同士がいつでも相手の側に行けること。

想いが強いほど、効果は上がるの」


「薄い蒼色は家族用。親が子に持たせたりするわ。

ただし、室内や天井のある場所では使えない」


「次の段階が黄金色。この色になると、念話ができるの」


「最終段階は紅色。

この色になれば、場所を選ばず移動できるし、相手の居場所も見える」


説明を終えたヒジリは、顔を真っ赤にして一息ついた。


「……今から契約するわ。

ハツキ、目を閉じて、あたしの前に座って」


「は、はい! 今すぐ!」


ハツキは淡い下心を抱えつつ、きっちり正座した。


二人の間に、柔らかな光が降り注ぐ。


「我が名は、ヒジリ=ブラン=エール。

ハツキ=サンブライトに愛情を注ぐ者。

いついかなる時も傍に居たいと願う」


「両思いの石よ——

その悲しき想いを繰り返さぬよう、力をここに」


——唇に、冷たいものが触れた。


「もう、いいわよ」


(キスした……!?)


ハツキは勢いよく目を開ける。


……しかしそこにあったのは、

紅みを帯びた黄金色の石。


ヒジリの口元にも、同じ色の石が浮かんでいた。


「……終わり……?」


ヒジリは石を見つめ、ぱちぱちと瞬きをする。


「……もう、この色なの?」


両手で顔を覆い、真っ赤になるヒジリ。

それを見て、ハツキまで恥ずかしくなり、顔を背けた。


「と、とりあえず契約は終わり。

こっちがハツキのね」


「……これ、願いに入らないの? 代償は?」


「この石そのものが代償よ。

代償はもう支払われてて、願いも叶ってる」


「ランクは幻A。作り方は不明、だそうよ」


(……とんでもない物をもらった気がする)


「ありがとう。大事にするね」


胸の奥が、くすぐったい。


「出発はいつにする?」


「明後日かな。明日は村で買い出ししよう」


「オッケー! じゃあ明日は一緒にお買い物ね♪」


二人は顔を見合わせ——

同時に背を向けて、心の中で叫んだ。


((それってデートじゃない!?))


月明かりが、二人を優しく照らしていた。


「……月、綺麗だね」

「……うん。綺麗」


満月の下、二人の影が、そっと重なった。


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