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第12話 日記

ヒジリは、自分が口にしてしまった言葉に動揺していた。

いつもそうだ。先に気持ちが走って、あとから後悔する。


「あ、あの……」


顔を真っ赤にしたまま、ヒジリはやっと声を絞り出す。

ハツキの顔を、まともに見ることができなかった。


一方のハツキも、同じように顔が熱い。

生まれてこの方、異性から真正面で「好き」だなんて言われたことがない。

それも――ヒジリのような、誰もが振り向く可愛い子から。


「……は、はい……」


ハツキも、ようやく声を出した。


視線が合う。

そして同時に、お互いの顔が真っ赤になっていることに気づき――。


「……ぷっ」

「……あははっ」


堪えきれず、二人同時に吹き出してしまった。


「ヒジリ、ありがとう」


ハツキは、少し照れたように笑う。


「そこまで想ってくれるヒジリの気持ちを、ボクは無下にはできない。

男なのに、ヒジリを護ってあげられないかもしれない。

弱いボクだけど……一緒に、アイツを探そう。これから、よろしくね♪」


伸ばされたハツキの手は、優しくて、暖かい。

緊張で冷え切っていたヒジリの手を、そっと包み込む。


「……ありがとう、ハツキ」


ヒジリは、ぎゅっと握り返す。


「ハツキが弱くても、あたしが強くなるから。

あたしが護るから、心配しないで。

これからも、よろしくね」


暖かい涙が、ヒジリの頬を伝って落ちた。


「なんか、ヒジリってすぐ泣くよね」

「うるさい! 嬉しくて涙が出るのは、しょうがないでしょ!」


そんなやり取りに、二人はまた笑う。

失われていたはずの、幸せな時間が戻ってくる。


まだ暖かい日差しが、二人を包み込んでいた。


「そういえばさ」


ハツキは、ずっと気になっていたことを口にする。


「なんで、ボクの代償がわかったの?」


「そんなの、意外とすぐよ」


ヒジリは指を立てながら説明を始めた。


「まず昨日。あんなに暑かったのに、キミは一度も『暑い』って言わなかった」

「我慢してただけかもしれないじゃないか?」

「それだけじゃないわ。汗はかいてた。でも、目に入っても何の反応もない。

普通なら条件反射で、瞬きくらいはするでしょ?」


そして、少し間を置いて。


「それと――」


にやっと笑う。


「あたしがいくら殴っても、痛がらなかった。これが一番の理由かな♪」


「でも、ダメージはあるんだよね?」

「たぶんね。だって殴られると体がだるくなるし」

「……今度から、もっと手加減して殴ろう」


ヒジリは、心の中でそう誓った。


「おい! 今、口に出てたぞ!

誓う前に、まずボクを殴らないで!!!」

「殴らせるようなこと言わなければいいのよ」


出た。

反論を一切許さない、あの目だ。


「……気をつけま~す」


ハツキは、ひらひらと手を振った。


「あたしからも質問していい?」

「どうぞ」


ハツキは、差し出すように手を前に出す。


「さっきからハツキがメモ代わりにしてるそれ。

それも、マジックアイテムだからね」

「……な、なんだと……」


深いため息をつきながら、ヒジリは続ける。


「《秘密の日記シークレット・ダイアリー

ランクはB。割と流通してるけど、持ち主との契約次第で効果が変わるの」


なるほど、とハツキは頷いた。

父からもらった皮袋の特殊保管場所に入っていた本。

いつの間にか使用者が自分に変わり、取り出せるようになっていた。


最初は白紙だったから、ただのメモ帳代わりに使っていたのだ。


ハツキは、そっと本を床に置く。

そして、その前に手をかざした。


「ヒジリ、見てて。これが……ボクの能力」


「《罠・強奪トラップ・スティール》」


視界が、モノクロに変わる。

練習用の鍵付きの宝箱、仕掛けられた罠――そして、床の本。


確かに、本にも反応があった。


「やっぱりトラップ付きか。じゃ、解除するよ」


――対象を移動しますか? 消滅させますか?

――尚、マジック・トラップは現在、移動・消滅できません。


(なるほど……)


前より選択肢が増えている。

だが、マジック・トラップは別枠らしい。


――発動確認 YES / NO


「消滅。YES」


呟いた瞬間、本が宙に浮き、鈍く光って――ドサリ、と床に落ちた。


「すご……なにこれ」

「終わったよ。トラップは解除した」


ハツキは本を手に取り、床に座り込む。

気づけば、ヒジリがすぐ隣にいた。


――怖い。

親の秘密を知ってしまうかもしれない。

変なことが書いてあったら、どうしよう。


それでも――。


(ここまで来たんだ。見るしかない)


意を決して、本を開く。


「「……えっ!?」」


二人の声が、ぴたりと重なった。


そこにあったのは――

ハツキがさっき書いた、メモの文字だけ。


「……上書き、されちゃった?」

「いいえ。そんなことはないわ」


ヒジリは、本の中央を指さす。


「ほら。ここから、紙の色が違う。

持ち主が変わって、契約が更新されたのよ」

「確かに……マジック・トラップも、そこにあったな」


ページをめくる。


白紙だと思っていた部分に、文字が浮かび上がっていた。


――――――愛する我が子 ハツキへ――――――


懐かしい字。

父の字だった。


「……お父さん……」


涙が、こぼれ落ちる。

続きを読みたいのに、視界が滲んでいく。


ヒジリはそっと本を閉じ、床に置いた。

そしてハツキを抱き寄せ、優しく頭を撫でる。


「本は逃げないわ。落ち着いてから、ゆっくり読みましょ」


「……うわぁ……お父さん……」


声を上げて、ハツキは泣いた。

ヒジリは、ただ静かに抱きしめ続ける。


赤い夕陽が、窓から差し込む。

暖かい――感覚はなくても、確かにそう感じた。


やがて、ハツキの涙は止まる。


「くちゅん」


ヒジリが小さく、くしゃみをした。


「……夜かな。寒くなってきたのかも」


そう言って、ハツキは気づいてしまう。


「……ヒジリ、ずっと裸だもんね」


次の瞬間。


「――あんたねぇぇぇ!!!」


華麗で完璧な回し蹴りが炸裂し、

ハツキは部屋の外へ吹き飛ばされた。


着替えを終えたヒジリは、本を手に取る。


「どうする? 今日読む? 明日にする?」

「……いや、今日読むよ」


もう、泣かない。

父が託してくれた本だから。


ハツキは、そっとページをめくった。

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