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第11話 告白

散らかった部屋。

傷だらけの壁。


床には解錠道具、鍵付きの宝箱、擬似トラップ。


……そして、たくさんの写真。

写真の中では、三人の家族が楽しそうに笑っている。

けれど、それらはすべて、何度も握り潰されたかのようにクシャクシャだった。


どれくらいの時間が経ったのだろう。

窓の外はすでに明るく、人の声が聞こえる。

鳥の囀りさえ、やけに遠く感じた。


部屋の隅で座り込む少年。

布団を掛けられ、静かに横たわる、目を覚まさない少女。


「ん……ん~~……体が……痛い」


全身を覆う倦怠感と、鈍い痛み。

ヒジリはゆっくりと目を開けた。


「あいつは……!!?」


昨日見た“それ”を探すように、必死に視線を走らせる。


「あの男なら、もういないよ。逃げた……いや、逃げたって言い方も違うか。

何かを確認して、帰っただけだ」


なにも出来なかった。

記憶は途切れているのに、本能がそう告げていた。

また、逃げられたのだ。


意識がはっきりしてくるにつれ、異様な部屋の様子が目に入る。


トレジャーハンターに憧れ、きっと何度も練習したのだろう。

散らかった道具、未完成の擬似トラップ。


それ以上に、目を奪われたのは写真と壁だった。


何度も写真を見て、涙を流し、握り潰したのだろう。

悔しさと寂しさに耐えきれず、何度も拳を叩きつけた壁。

皮膚が裂けても、血が滲んでも、やめられなかった痕跡。

血は乾き、黒く変色し、壁には無数の穴が残されている。


――あたしの、せいだ。


胸が張り裂けそうになる。

洞窟で出会ったあと、一緒に行動すべきじゃなかった。

遠くから、隠れて見守るだけでよかったのに。


全部、遅い。

いつもそうだ。

人を傷つけてから、気付いてしまう。


全部打ち明けよう。

そして、これからは隠れてでも護ろう。


「ハツキ……? あのね……」


座ったまま、恐る恐る声をかける。


「なに?」


その一言が、牢獄の塔でのやりとりをフラッシュバックさせる。

怖い。でも、言わなきゃ。


「あのね……あたしね……三年ま――」


不意に、ハツキが立ち上がり、こちらへ歩いてくる。


「ヒッ……」


足が竦み、動けない。

――ああ、ハツキになら殺されてもいい。

そう思えてしまった。


「ヒジリ……」


次の瞬間、首元に温もりを感じた。


ハツキがヒジリを抱きしめ、静かに囁く。


「ヒジリ。知ってるよ。気付いてた。最初から。

キミみたいに綺麗な子、忘れるわけないだろ。

真っ白の鬼がヒジリだったとは思わなかったけどさ」


優しい微笑み。


「うん……うん……ごめんなさい……ごめんなさい……

言い出せなくて……。

あたし、ハツキを護りたかった……だから願ったの……」


ヒジリはハツキの胸に顔を埋め、泣いた。


ハツキはもう、人の温もりも鼓動も感じられない。

それでもヒジリは、その温もりにすがり、落ち着きを取り戻していく。


「……少し、このままでいさせて」


ハツキは答えず、ただ抱きしめ続けた。


気が付けば、太陽は真上まで昇っていた。


ハツキはそっと離れ、隣に座る。


「まったく……ヒジリの人生なのに、ボクのために棒に振るとか。

やっぱノウキンなの?」


「だって、あたしがハツキの人生壊したんだよ。

護りたくなるじゃない」


そう言って、肘で軽く突く。


落ち着いたのを確認し、ハツキが切り出した。


「さて、そろそろ本題に入ります!」


「うん。もう大丈夫。ちゃんと話せる」


「まず、あの男は何者だ?」


「あの男は人間じゃない。何者でもない。

何者にもなれない、ただのモノ……

そして、あたしを攫って、ブラン=エールを壊滅させた」


「なるほど。全部の原因はあいつ、か」


メモを取りながら頷く。


「次。ヒジリの能力と代償は?」


ヒジリは俯き、もじもじしながら、小さく答えた。


「……狂……神……化……」


「は!? 聞こえない!!!」


「……狂神化……」


「ちゃんと! はっきり!」


「だ~か~ら~!

狂神化バーサーカー!!」


ハツキが噴き出し、その勢いで壁に吹き飛ぶ。


(さすがバーサーカー……)

そう口に出しかけて、必死に飲み込んだ。


戻ってきて、続ける。


「代償は?」


ヒジリの顔を覗き込んだ瞬間、ハツキは固まった。


「……ヒジリ、目が……」


左眼。

本来はとても綺麗な碧紫だった瞳。

白目が黒く染まり、瞳は紅く変わっていた。


「あ~……もう始まってたか~」


「代償は――侵食」


あの声が蘇る。


の声を思い出す。


・・・《スキル習得》   『狂神化(バーサーカー)』 ・・・


・・・ 習得者:ヒジリ ・・・


・・・ 護衛対象者:ハツキのみ ・・・


・・・ 尚、習得者・対象者が死亡した場合、このスキルは永遠に失われます ・・・


・・・ 《代償    使用者本人への侵食》     ・・・

            

・・・代償は支払われました ・・・


「そして使用回数制限、あるみたいなの」


「なんで……そこまで……」


「言ったでしょ?

壊しちゃった分、償うためにお願いしたって」


ヒジリは笑っていた。


「ヒジリだって被害者だろ! 悪いのは全部あいつだ!」


「いいの。決めたことだから。

それにね、能力使わなくても護れるように修行したの。

わかるでしょ? 生身のあたし、強いんだから」


澄んだ声。嘘はなかった。


「……わかった。ありがとう」


俯いたハツキに、ヒジリが言う。


「じゃあ次は、あたしから」


「ハツキは……どんな能力なの?」


「……代償は、痛覚がなくなる、でしょ?」


ハツキは息を呑む。


「ボクの能力は《トラップ・スティール》。

罠の移動と解錠。

代償は……感覚の喪失だ」


手を握ったり開いたりする。


それを見た瞬間、ヒジリの顔が青ざめた。


「……なにそれ……

もう能力使わないと解除できないじゃない……」


涙が零れる。


「なんでヒジリが泣くんだよ。

大丈夫。次から感覚なしで出来るようにすればいいだけだ」


希望に満ちた瞳。


――諦めてない。


それだけで、ヒジリは嬉しくなった。


「……最後の質問です」


真剣な声。


「あたし、諦めない。どんなことがあっても。

次の道を見つけるハツキが、好きになってます。

どんどん、好きになってます。


《バーサーカーなあたし》ですけど……


これからも、側にいてもいいですか?」

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