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第1話 能力

昔に書いた作品なのですが、時間が経って色々と忘れてしまった部分もあり、今回あらためて少し修正と加筆をしながら書き直していこうと思います。

大きな流れや世界観はそのままに、キャラクターの心情や演出を中心に、より読みやすく、より楽しんでもらえるように調整していく予定です。


もしよろしければ、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします!


その力は、確かに“願い”に応えてくれた。

代わりに、ボクの一部を奪って。


ドクン!!!!


「ヤット……ミツケタ……」


────────────────


この世界は、願えば

特殊能力も、魔法も、なんでも習得できる。


ただし。


必ず、代償が支払われる。


五感。

体の一部。

時には、命さえ。


対価は釣り合わない。

公平でも、等価でもない。


すべては、神様の気まぐれ。

そんな世界だ。


────────────────


~ある洞窟~


薄暗く、べったりと湿気が体にまとわりつく洞窟内。

一人の少年が、今にも泣きだしそうな顔で逃げ回っていた。


空気は生温かく、鼻を突くのは血と腐臭が混じった最悪の匂い。

湿った岩肌のカビ臭さと、モンスターの獣臭が混ざり合い、

息をするだけで吐き気がする。


「……くっさ……最悪……」


思わず鼻を押さえながら、ハツキは走った。


「はぁ、はぁ……ヤバい! ヤバい!!

 今度こそ死ぬ~~~!!!」


ボクの名前はハツキ。

トレジャーハンター、15歳。男。


洞窟で――

絶賛、死にかけ中!!!


背後には、


ゴブリン三匹。

スケルトン五体。

そして、ブタ顔で異様にデカい鬼が一匹。


「……うん、これ完全に詰んだな……」


その瞬間。


カチッ!!!


「……え?」


嫌な音。


ガシャァァァン!!!


頭上から、無機質に鈍く光る巨大な檻が落ちてきた。


「ま、まさか……ここでトラップ!?」


モンスター。

トラップ。

逃げ場なし。


「……完全に詰んだ……」


ここなら、すぐには襲われない。

でも――


餓死ENDか。

捕食ENDか。


「……どっちみち、死ぬなら……」


少年は、静かに立ち止まった。


心臓が、耳元でうるさい。

息が、やたらと浅い。


死ぬ。

このままだと、本当に死ぬ。


何も残らない。

何も守れない。

何も――なかったことになる。


「……嫌だな……」


小さく、そう呟いて。


一点を見つめ、

指と指を、強く絡める。


「この状況を打破できるチカラを――

 ボクに、ください……!!!」


願った。

それだけを。


────────────────


次の瞬間。


ハツキの足元に、青白い魔方陣が浮かび上がる。


「……うわ……」


赤く、眩い光。

視界が、焼き潰される。


────────────────


・・・《スキル習得》

罠・強奪(トラップ・スティール)


・・・ 習得者:ハツキ ・・・

・・・ 現在の習得者 1名 ・・・

・・・ 代償は支払われます ・・・


────────────────


頭の中に、

優しく、どこか懐かしい声が響いた。


「……なに、いまの……?」


体を確かめる。


「手もある。足もある。

 声も出る……」


鼻をくすぐる、獣臭と死臭。

洞窟のカビの匂い。


「……嗅覚も、ある……?」


ひとまず、安心。


「さてと……この状況を打破してもらおうか♪」


ハツキは叫んだ。


「ト・ラ・ッ・プ・ス・ティ~~~ル!!!!」


世界が、モノクロに変わる。


座標。

数値。

――自分を閉じ込めていた檻が、

引き剥がされるように宙へ浮かび上がる。


「……え、ちょっ……!?」


────────────────


ガコンッ!!!!


巨大な檻が、

重力を思い出したかのように落下する。


ドゴォォォン!!!!


粉塵。

悲鳴。


――そして、一瞬の静寂。


「……勝った……?」


確かに、生きている。


ふふふ~♪


独特すぎるポーズを決め、

ハツキは満面の笑みを浮かべた。


「やったぞ~! 一網打尽♪」


檻の中で、モンスターが暴れている。


ギイギイ。

グワァァ。


指を折って数える。


「1、2、3……」


一匹ずつ。

確実に、生きている数。


「……7、8……9匹。よし」


胸の奥に溜まっていたものが、

ようやく少し抜けた。


――勝った。


……はずだった。


(……あれ?)


匂いが、薄い。


さっきまでしていた血の匂い。

獣臭。

洞窟の湿った空気。


「……?」


息を吸う。

深く、もう一度。


「……感じない……?」


喉が、ひくりと鳴る。


「……代償、か……」


口に出した瞬間、

胸の奥が、冷えた。


「……命じゃないだけ……マシ、かな……」


自分に言い聞かせるように呟き、

ハツキは宝箱へ向かった。



この地獄みたいな状況で、

唯一“報酬”と呼べる存在。


「……取りに行くか」


一歩、踏み出した瞬間。


グニャリ……


足元の土が、不自然に歪んだ。


「……っ!?」


反射的に後ろへ跳ぶ。


次の瞬間、

さっきまで立っていた場所が崩れ、

ぽっかりと穴が開いた。


「……落とし穴……」


今回は慎重に進んでいたおかげで、

すんでのところで回避できた。


……が。


ハツキは、腑に落ちなかった。


こんな初歩的な罠に、

今さら引っかかるはずがない。


(……疲れてるんだ……)


さっきの戦闘とトラップで、

判断力が落ちてるだけ。


そう思う。

思い込む。


普通の状態なら、問題ない。


「それでは~、熟練の解錠技術をお見せしましょ~」


わざと軽い調子で呟きながら、

白の皮袋の中を探る。


……が。


「……あれ?」


解錠道具が、見当たらない。


皮袋をひっくり返す。


カラン……と、

金属音がして、

床に道具が落ちた。


「あった、あった……。

 そろそろ道具袋の中、整理しないとな……」


その瞬間。


ハツキの頬を、

何かが伝った。


「……?」


地面に落ちた水滴で気付く。

涙だ……


しかも――

今度は、はっきり分かる。


「……ハハ……バカだな……ボク……」


触った感覚が、ない。


床に落ちた道具を掴んでも、

指に“重さ”も“硬さ”も伝わってこない。


握っているはずなのに、

掴んでいる実感が、ゼロだった。


声が、頭の中に響く。


・・・《代償》 体性感覚及び嗅覚 ・・・


「……そ、っか……」


涙が、止まらない。


「……ダイジョウブ……

 触感なんて、なくても……

 開けられる……」


自分に言い聞かせるように呟き、

鍵穴に道具を差し込む。


カチ……

カチカチ……

カチャカチャ……


でも。


本来なら感じるはずの、

“シリンダーが押し上がる感覚”が、

一切、分からない。


どこを押しているのか。

今、どの位置なのか。


何も、掴めない。


「……開かない……

 開けられない……うう……」


視界が、滲む。


お父さん。ごめんなさい。


お父さんに助けてもらった命。

お父さんの跡を継ぎたかった。


天才トレジャーハンターとして、

世界に名を馳せた、父のように。


――ハツキ、冷静に。


幻聴かどうかは、分からない。


でも、その言葉に、

ハツキは深く息を吸った。


スー……ハー……

スー……ハー……


「……うん。もう、大丈夫」


無理やり、笑顔を作る。


そして、静かに呟いた。


「……トラップ・スティール」


・・・トラップ・スティール 発動条件確認・・・

・・・対象:宝箱 鍵・・・

・・・移動対象がありません。鍵は消滅しますが宜しいでしょうか?


「……YES」


良かった。

罠だけじゃなく、鍵にも使えるらしい。


安堵の息を吐き、

宝箱に手を伸ばそうとした――その時。


背後から、咆哮が響いた。


グオオオオオオ!!!!


背筋が、凍る。


嫌な予感がする。


ゆっくり、振り返ると――


檻の奥で、

“何か”が、立ち上がっていた。


「……宝箱は……あと、だな……」


────────────────


近づいて、気づく。


血。

床一面に、広がっている。


「……え……?」


数える。


「……1……?」


足りない。


檻の奥。


一匹だけ、立っていた。


筋肉が異様に盛り上がり、

皮膚が黒く、硬質に変質している。


……進化

……鬼神オーク・デーモン……


「……共食い……進化?」


檻が軋む。


ピシィ……。


「……嘘だろ……」


檻が、悲鳴を上げる。


ガンッ。

ガンッ。


逃げ場は、ない。


「……死ぬ」


そう思った瞬間、

不思議と頭の中が静かになった。


――ああ。

これが“代償”の続きなんだ。


生き延びたはずなのに、

結局、もっと酷い形で殺される。


「……まだ、死にたくない」


声にならない声が、

胸の奥からこぼれた。


────────────────


その瞬間――


洞窟の音が、すべて消えた。


オークデーモンの咆哮も、

檻の軋む音も、

自分の心臓の鼓動さえも。


世界が、真っ白に塗り替えられる。


そこに――立っていた。


白い。

ただ、それだけで異常だった。


光っているわけでもない。

発光しているわけでもない。


なのに、影が存在しない。


人の形をしているのに、

人だと認識できない。


――白い鬼。


その存在は、ゆっくりとこちらを向いた。


目が合う。


なぜか、怖くなかった。


まるで、

「大丈夫だ」

そう言われた気がした。


次の瞬間。


一閃。


音もなく、

オークデーモンは“そこに居なかった”。


血も、肉も、悲鳴もない。


ただ、

最初から存在しなかったかのように、

空間だけが残っていた。


白い鬼は、

もう一度だけこちらを見ると――


何も言わず、

洞窟の奥へと溶けるように消えた。


────────────────


「…………」


しばらく、指一本動かせなかった。


耳鳴りがする。

心臓の音が、頭の中でやたらとうるさい。


「……助かった……?」


喉から出た声は、自分のものじゃないみたいに震えていた。


確かに、生きている。

手も、足も、ある。


なのに――


世界が、現実感を失っていた。


さっきまでの地獄が、

あまりにも唐突に終わりすぎて、

脳が追いついていない。


「……なんだよ……今の……」


白い鬼。

一瞬の視線。

音もなく消えた怪物。


全部が、夢だったみたいだ。


でも、床に残る血と、

砕けた檻だけが、

それが現実だったと主張している。


「……生きてるのに……」


胸の奥が、妙に寒い。


助かったはずなのに、

何か大事なものを、

“置いてきた”気がしてならない。


――これは、ただの幸運じゃない。


代償を払って、

無理やり延命しただけだ。


「……最悪だな……」


そう呟いた瞬間、

膝の力が抜けて、

その場に崩れ落ちた。


────────────────


少しして、ようやく視線を上げる。


洞窟の奥。

さっき開けた宝箱の横。


――倒れている、人物。


「……え……?」


銀色の髪。

やけに小さな体。

布切れ一枚、身に纏っていない。


「……いや……情報量、多くない……?」


近づくと、わかる。

呼吸している。


生きている。

間違いなく。


「……女の子……だよな……?」


年は、たぶん自分と同じくらい。

でも、やけに細くて、

壊れそうなほど白い。


さっきの“白い鬼”と、

どこか、重なる。


「……まさか……」


胸の奥が、ざわつく。


自分を助けた存在と、

この少女が、

無関係だとは思えなかった。


「……君……大丈夫……?」


そっと声をかける。


返事は、ない。


でも――

その瞬間。


少女の指が、

わずかに、動いた。


「……!」


ハツキの心臓が、跳ねる。


この出会いが、

ただの偶然じゃないことを、

本能が理解していた。


そしてハツキは、まだ知らない。


あの白い鬼が、

この少女の“もう一つの姿”であり、

自分を“護るため”に現れた存在だということを。


それが、これからの運命を、

取り返しのつかない方向へ

大きく変えていくことも。


――まだ。


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