凍てつく
その女の瞳は光を拒み、世界を拒否した顔がやけに冷たかった。
彼女は北の荒野をひとりで歩いていた。
夜、倒れかけた廃教会で、彼女は焚き火を見つめていた。
唇の端に笑みを浮かべた。
笑う感情さえ、もう痛みに似ていた。
やがて吹雪の夜。
小さな足音が雪を蹴った。
ボロ布を纏った子どもが、薪を拾いに来たのだ。
彼女に気づくと、恐怖で後ずさる。
彼女は黙って火を見つめたままだった。
けれどその子の指先が、凍えて真っ青になっているのが見えた。
彼女は指を鳴らした。
火がひとつ、暖炉に移り、部屋全体が柔らかい光に包まれた。
子どもは戸惑いながらも近づく。
「どうして……助けるの?」
女は答えなかった。
ただ、火の色を見ていた。
それは、かつて愛した人の髪の色に似ていた。
―――
吹雪の翌朝、子どもは息をしていなかった。
魔女の膝の上で、小さな手が氷のように冷たくなっていた。
火を与えたのに、間に合わなかった。
命を救う魔法など、もう信じていなかった。
愛も、人も、信じていなかった。
だが――彼女は、その亡骸を抱きしめた。
自分の胸が、痛いほど締めつけられるのを感じながら。
「……なぜ、泣いているの」
独り言のように呟く。
涙なんて、とうに乾き果てたはずだったのに。
彼女は震える指で、子の頬に触れた。
そのとき、掌が淡く光を放った。
知らぬ間に、魔力が溢れていた。
凍った血が流れ、肌に色が戻る。
けれど、もう魂は戻らない。
[命を返す]という行いは、神でさえも許さない。
彼女は目を閉じ、唇に触れた。
「あなたに……もう一度、春を見せたかった」
その言葉のあと、彼女の白髪がまたひと筋増えた。
その日から、彼女は旅を続けながら、
傷ついた者たちを癒やすようになった。




