嘘だって構わないから
2015年あたりに書いて、下書きに埋もれていたお話を発掘。
それは、登校時間のひと時。
学校に向かう人が多い中、君は逆行するように駅へと向かう。
きっと地元がここで、学校が違う駅にあるんだろう。
ブレザーの制服の波を縫うように歩いていく黒の学ランは、はた目からでもかなり目立っていた。
そんな、春。
梅雨も終わり夏が近づくころになれば、最初は指定バッグを持っていた一年だって、校則に引っかからないくらいの服装や持ち物になっていく。
そんな中、革の学生鞄と大き目のスポーツバッグを背負って歩いていく姿は、やはり目を惹くのには変わりなかった。
重そうだな……とか、部活なんだろう……とか。
他愛のない想像をほんの少しだけして、すぐに自分の日常に意識は戻っていた。
残暑厳しい季節も過ぎて、再び迎える衣替え。
ブレザーの中を逆行していく学ランは見慣れていたはずだったのに、なぜか私の意識をごっそりと持ち去っていった。
ほんの少し、君との日常が重なっただけ。
自転車を避けようとよろけた私を、ただそばにいた君が咄嗟に支えてくれただけ。
「大丈夫?」
その言葉に、唯々頷くしかできなかった。
初めて、気づいた。自分の中の、君への気持ち。
視線が合えば会釈する仲になり、近くにいれば声をかけるような仲になった。
ぐるぐる巻きのマフラーが、君の首元を寒さから守るようになったある日。
――幸せそうな二人を、ホームで見つけた。
ぐるぐると巻いたマフラーに、幸せそうに顔を埋める君と。
ぐるぐると巻いたマフラーの端を、恥ずかしそうに指先で軽く引っ張る女の子。
ぐるぐると、ぐるぐると。
私の視界も、巻かれていった。
今までの全てが嘘だって構わないから、そう言われても構わないから。
今までの自分の気持ちが、全て消えてしまっても構わないから。
今見た全ても嘘にして欲しいと、心から願った……とある冬の日。




