24.隠されていたこと
日が暮れる頃、ルイーズは庭にいた。
イネスと彼女から話を聞いた仲のいいメイドたちが協力をしてくれたおかげで怪我ひとつすることなく、バルコニーの柵に結んだカーテンを伝って降りることに成功したのだ。
「皆、ありがとう」
「最初に作戦を聞いた時には驚きましたけど……頑張ってくださいね、ルイーズ様」
「うん、行ってくるわ」
皆に別れを告げ、こっそりとガゼボへ向かう。
作戦を聞いたオーブリーが呼び出してくれたおかげで、そこには既にクロードの姿があった。髪が揺れる中、一歩近づく。
「クロードさん、お待たせしました」
「ルイーズ様」
呼びかけに反応して立ち上がったクロードを、もう一度座るように促す。ルイーズも、その隣に腰を下ろした。
「私にお話があると聞きましたが」
「はい。先日のお話の続きを聞かせていただきたいと思いまして」
「やはり、そのお話でしたか。まさかルイーズ様から出向いてくださるとは思いませんでした」
そう言いながらも、クロードはすべてを想定していたかのように微笑む。
「ではまず、私の立場について。もうお気づきだと思いますが、私はあなたの本当の故郷であるリオラシス国と繋がっています」
「……!」
予想していたこととはいえ、本人からはっきりと打ち明けられるとさすがに身構える。
「どうして私がリオラシス国と繋がったのか――それはあなたと私、それから殿下が生まれる前まで遡ります。あなたはレオン国王陛下の悪行をどこまでご存じですか?」
「悪、行……?」
城に来てからレオンの知られざる怖い面を知ったものの、ただの国民だった頃は特に悪い評判を聞いたことはなかった。
周辺の国を合併してはいるものの、リオラシス国以外とも良好な関係を築いていることも大きい。
「陛下とそのお父様――先王は、賄賂や暗殺などあらゆる汚い手を使ってこの国をここまで大きくしたのですよ」
「え……」
「もっとも対外的には平和的交渉だと思われているので、あなたや国民は知らないことだと思いますが。そんな中平和を重んじるリオラシス国はだけは、頑なに汚い手から逃れ、今に至るまで合併を拒んでいますが――その汚い手の中に、あなたのお母様が絡むとある襲撃事件があったのです」
「襲撃事件ですか?」
穏やかでは無い話に目を見開くと、クロードが軽く頷いた。
「はい。あなたのお母様は幼い頃、馬車で外出中、先王の指示でこの国の騎士たちに襲われかけたのです」
「!」
「目的は誘拐でした。お母様を交渉の材料にして、合併を進める気だったのでしょうね。ですが、その際事前に危険を察知したお供の騎士たちにとってお母様は逃がされました」
ルイーズは口を挟むことができず、ごくりと息を呑む。
「一人の騎士が一緒に逃げたようですが途中で襲撃を受け亡くなり、なんとか一人逃げ延びたお母様はリオラシス国とララモーテ王国の狭間で倒れていました。そこに偶然ロベール卿とクラルティ家の執事が通りかかり、看病の末ご回復なさったのです」
「じゃあ、孤児だと言っていたのは……」
「騎士たちに硬く口止めをされていたのです。リオラシス国のことを言えばまた危険な目にあったり、祖国を窮地に立たせるかもしれない。そのままロベール卿の優しさでクラルティ家に住み、やがて恋に落ち……あなたが生まれました。先王やリオラシス国の当時の国王たちも必死に行方を捜しましたが、お母様を見つけることはできず……先王はあらゆる手を使ったようですが志半ばで病に倒れ、後をレオン国王陛下に託しました。あとは……わかりますね?」
「……陛下は何かのきっかけで私を見つけて、リオラシス国の王族だと気づいたのですか?」
「その通りです。そして合併交渉の材料として、シリル様と結婚をさせたのです」
(シリル様が言っていた通りだわ……)
今までの話がようやく繋がるけれど、まだひとつ大きな疑問が残っていた。
「私の母の話はわかりました。ですが、それとクロードさんとの関係は……」
「それは私の父にあります」
「お父様……?」
混乱の中目を瞬かせると、クロードの眉が微かに寄る。
「ええ、先王によってそれはそれは厳しく育てられ国のために生きていたレオン国王陛下には、たった一人心を許せる友人がいました。それが私の父――アルベールです」
(アルベール……?)
聞き覚えのある名前に、ふと内心首を傾げる。
「父は私と同じく王宮騎士団に所属していました。十八の時にあなたのお母様の誘拐作戦にも参加させられ、そこで国に対して違和感を覚え始めたようです。先王が亡くなった後、友人を裏切ることにはなると悩みましたがどうにか平和な世のため、そして最終的に友人のためになるようにと、先王と陛下の悪行の証拠を必死に集め、陛下に詰め寄ったのです」
熱が入ったのか、響く声が次第に大きくなっていく。
「けれど、その証拠は闇に葬られ父は処刑されました。レオン国王陛下の手によって」
「……!」
(そうだわ。幼い頃にお父様から聞いた覚えがある。国に反逆した王宮騎士が一人、牢に入れられた後、処刑されたと……)
「父は正義の行いをしたというのに反逆者扱い。処刑直前まで牢に入れられていたから、最後に会うこともできなかった。それに国を信頼している国民たちも父の言葉には耳を貸しませんでした。もちろん殿下も――シリル様もこのことを知って止めることはなかった」




