遥くんへの告白
その日、事務所で打ち合わせが終わった時間、応接室には、私と遥くんしかいない。嘉くんは、今日は、ソロの仕事があり、地元の広島のTV局の出演で、日帰りだそうだが、帰りは随分と遅くなる様だ。
遥くんとは、四月の東京の下町での写真撮影に関する打ち合わせがあった。東京下町、桜が見頃の時期に合わせて、着物で撮ろうと言う案が出て、遥くんが着物に詳しかったからだ。事務所側でレンタルになる事が決まり、スタイリストの美月さんも一緒だ。
嘉くんは、特に希望が無かったので、遥くんが見立ててくれる様だ。うん、嘉くん、遥くんなら似合うものを見ててくれるって、思っている様だ。信頼関係きちんと構築されているって良いよね。
その打ち合わせも程なくして終わる。美月さんは、レンタル屋さんに連絡を取ってくれるという事で、資料を持って応接室から出て行った。まだ、半年と随分先の事だが、レンタルに関しては早い方が良い。
自分の事務所に顔を出して帰ると言う遥くんに、不意を着いて後ろから抱き付いた。しかし、すぐにそれは、遥くんの腕で引き離された。どきどきも、切ない苦しい気持ちさえない。
それは、かつての広大くんに、対する気持ちと一緒で、ああ、あの時の事は、恋ではなかったんだと改めて気付かされた。
わくわくとか、一緒にいるとすごく楽しくて、でも、それだけだ。それだけでしかない。
「俺、何か試されてる?」
「最近、気付いた事があるの。というか、嘉くんに気付かされたんだけどね」
あ、遥くんの目を真っ直ぐにみつめていたら、逸らされた。ダメだった、嘉くんに、それは、男にはするなと言われたばかりだった。その癖は中々、抜けない、気を付けないと。
「私ね、遥くんが好きだよ」
「それ、嘉が言ったのかよ」
「うん、でもね、それで、気付いた。遥くんへの好きは、広大くんへの好きと一緒だった。二十年近く経って気付くなんて、笑えるね」
遥くんはすごく良い人で、嘉くんと同じくらい大事な人だ。だから、本当は広大くんと一緒にしちゃダメな人だ。それを知れたのが嬉しい。
抱き付いたのは、嘉くんには内緒でと言ったら、デコピンされた。遥くんが私に触れる時は、いつも容赦がない。
「なんか、俺が振られてるみたいな状況なんだが」
「いや、そういうわけじゃないよ」
「冗談だよ」
「遥くん、ひど! 遥くん、好きだよ」
「うん」
おでこにされたのは、柔らかな温もり、それは直ぐに離れたが、慌てて、困る私の頭を撫でて、遥くんは笑った。「嘉には内緒な」その言葉を呟いて。そして、改めて私に告げる、その言葉はとても嬉しいものだった。
「俺にとって、麻衣ちゃんは、兄であり姉であり、弟であり、妹でもある、そんな感じの好きだな」
「ああ! きっと、私もそう」
家族のような、そんな暖かい好き。きっと、そんな感じだ。そうやって、私たちを見守ってくれる、遥くんが大好きだ。じゃあな、また来る、そう言って遥くんは帰って行った。
私の答えをあっさりと導き出して。この人は、本当に頭の良い人だ。
遥くんからのデコピンされた場所へのキスは多分、これが最初で最後です。




