僕の名前を記して
私のサインは、デビュー当時から、変わらない。正確には、一度変わってはいる。ほとんど書く機会は無かったんだけど、俳優時代にもサインは存在していた。これは、自分で考えたものでは無い。『本宮ありす』ひらがななんですごく可愛いので、自分で書くのに違和感があった。使ったのって、雑誌のプレゼントぐらいだったかな。イベントに出る事も無かったしね。
その後、歌手として、改めてサインが出来た。『本宮ありす』は漢字とひらがなで可愛い感じだったんだけど、新しいのは、ローマ字でカッコよくする事にした。そして、性別を非公表にしていたので、女性名である『Mai』を避けた。朝川さんも『Mai』の字が入っているんだけど、『Maito』さんなので、女性に間違われる事はないね。誤魔化すつもりは無かったんだけど、私のデビューが男性か女性か分からないような曖昧な感じにしたかったと言う事があって、『M.Kawamura』になった。この『M』実は、ウサギの耳をモチーフにしてあって、『Kawamura』の苗字がウサギに挟まれている。そう思うと、かっこいいと可愛いが共存しているのが正しいかな。
嘉くんは名前が長いので、バランスも考えて『Yoshi Asoh』になっている。遥くんは、漢字で『古川遥』となっていて、達筆で習字も習っていた遥くんらしいサインだ。それに、するって言われた時に、事務所では、驚かれた様だ。でも、シンガーとして、唯一無二感があって、良いね、と納得されて、それで採用されたようです。二人ともサインにするとすごくかっこいいね。レーゲンボーゲンの綴りは、遥くんが書いていて、自分のサインとのギャップがすごいね。
そう言えば、嘉くんに名前で悩まなかったの、って言われた事があった。結婚して、戸籍では『浅生麻衣』になったから、芸名も同じにしても良かったのだが、私は特に変える事は考えていなかった。少しだけ、嘉くんは残念そうだったけどね。サインが面倒だと言うのもあるのですよ。川村を浅生に変えないといけないじゃ無いですか。
「だって、私は『川村麻衣』でしょ?」
「そうだね、麻衣のそう言うところぶち好きだよ」
他にも、莉子さんも美月さんも仕事では旧姓のままなので、私も特に気にしていなかったと言うのもある。ずっと、川村でやってきたのも大きい。たまに、プライベートでも『川村』って言っちゃうんだよ。
「莉子さんたち、公に名前出るわけじゃないでしょ」
「そうなんだけど、公によりも事務所にいた時の方が苗字で呼ばれる機会が多いからね」
「いや、でも、麻衣って『マリ姐』か名前呼びされる事の方が多いよね」
「それは、仲の良い人だけだよ。事務所の男性からは、社長以外は基本苗字が多いよ。それと、外部の人も苗字で呼んでくれるね』
そう言ったら嘉くん、ちょっと嬉しそうだった。まぁ、私も嘉くんが身内以外の人に『嘉くん』呼びされるのちょっと嫌かな。最近、そう思うようになってしまったよ。嘉くんファンの人、ごめんなさい。
「ね、麻衣。サインちょうだい」
「なして?」
「だって、麻衣は僕の推しだからね」
「もう、嘉くんのその『僕』呼びはやっぱり、反則だよ」
「あはは、麻衣から、もらえるものはなんでも嬉しいんだよ。サインはもらっていなかったって思ってね」
「サインなんて、夫婦でやり取りするのって私たちくらいだよ」
「そう言うって事は、麻衣も俺のサイン欲しいって事?」
ああ、そう言っちゃうとそう言う事になるかな。サイン色紙は無いし、それを飾るのちょっと違うな。私は、タブレットを開くと、それを、嘉くんの前に広げた。そして、一緒にペンを渡す。お絵描きにも使う専用のものだ。
「ここにちょうだい?」
「ああ、それは、良い考えだね。俺のもタブレットにもらおうかな」
そう言って私たちは、お互いサイン交換しあったのだった。これ、後で、遥くんに言ったら、何やってるんだよ、と笑われた。やっぱり、夫婦でサイン交換なんてしないよね? 相変わらず、流されているな、って言うお言葉もちょうだいしました。ううう、じゃあ、遥くんのサインもちょうだい、って言ったら更に笑いながらもちゃんとサインをくれました。
タブレットにデジタルでサインも楽で良いですね。




