その夜と、その後のお話*
遥くんと内田くんおすすめのバーで飲むお話です。基本、来るのはこの二人だけでした。嘉隆くんが来る様になったのは、バーテンダーの榊さんが結婚した頃からです。ちょっとだけ、過去の話になります。
遥くんが行き付けのバーは、落ち着いたジャズが優しく流れる、素敵なところだった。昔から、顔馴染みだと言うバーテンダーのお兄さんは、私たちよりも三つほど上で、内田くんの知り合いだと言う事だ。内田くんもよく来ると言う行きつけのバーだ。
「晃さ、ここで唯一、お酒の飲まない客なんだよ」
「え、ああ、そっか。内田くんってお酒飲まないものね。でも、ここに入り浸っているって事はお酒以外を飲むって事だよね」
「ご飯も美味しいよ」
バーテンダーの榊さんが結婚した頃から、奥さんが調理師免許を取って、お店を手伝う様になったようだ。内田くんは、どちらかというとそっちが目当てな様です。
「内田さんが来る様になって、お酒を飲まない人も来て複雑ですよ」
「料理も美味しいバーで有名になりつつあるよ」
美味しいお酒も飲めて、そして、美味しい料理も食べれるお店って良いね。なので、前はカクテルなどメインに取り扱っていた様なんだけど、最近は、美味しい日本酒やクラフトビールなども出すそうです。
「あれ、内田くん、お酒飲めないんじゃ?」
「ああ、これは、ノンアル」
「なるほど」
気になったのが分かったのか、榊さんは私のために同じもので、アルコール入りのものを出してくれた。綺麗な赤と青が出来ていて、かき混ぜると境界が紫に溶けた。
「レーゲンボーゲン」
「この、カクテルの名前ですか?」
「うん、遥が付けた」
そう言って、内田くんはカクテルを飲んでいる。これ、見た目じゃ分からないので、お酒飲んでいるのかな、とも見える。それで、ノンアルなのは、内田くんだけの特別メニューだそうだ。
「遥くん、素敵だね」
「まぁ、虹を意識していないけどな」
「確かに夕空であって、虹では無い。赤は遥くん、青は嘉くんの色だから、ユニット名から来たカクテルだね」
「うん、そう言う事」
「で、美味しいんだけど、レモンといちごの味がする」
「ああ、赤がいちご、青がレモン」
「赤がいちごなんだ。じゃあ、なんで、青は遥くんの好きなものじゃ無かったの?」
「青いもの、思い付かなかったらしいよ」
そう言って、榊さんを見ると苦笑していた。青い色素って言うと、お祭りのかき氷のブルーハワイを思いだすね。そう言ったら、遥くん、かき氷はメロンだろ、って言っている。え、いちごだよね、って嘉くん、話が逸れていますよ。ちなみに、内田くんはレモンだった。
「アルコール低めですよね」
「それは、嘉のため」
「ああ、確かに。嘉くんは、お酒弱いからね」
麻衣ちゃんには、物足りなかったかー、と言われてしまった。いや、美味しいよ? もっと、飲みたくなるくらいにはね。
夕焼けを閉じ込めたカクテル越しに嘉くんがこっちを見た。言いたい事は分かる。だって、カクテルじゃ無いけど、私も同じ様なものを作った事があるからだ。広島のローカル番組で、野球選手の人と一緒にオリジナルドリンクを作ったよね。その時、アナウンサーのお姉さんに私の曲から『blend』のようですね、って言われた。
「マスター、それ、『blend』じゃダメー?」
「俺の付けた名前にケチつけるのかよ」
じゃあ、これで、と言って、榊さんは妥協案を出してくれた。青が上で赤が下の夕空を思わせるアルコール入りが『blend』で赤が上で、青が下のノンアルが『レーゲンボーゲン』になった。それに、遥くんは不満げだ。嘉くんがわがまま言って申し訳ありません。
とろんとした気だるげな表情、これ、確信犯じゃ無いか。その手には乗らないけれど。それに、気付いた遥くんが、お開きだ、と言った。早く嘉をお持ち帰りしてくれ、って言われた。
最後に、榊さんが教えてくれた。いつも、ここで酔い潰れると、持ち帰るのは遥くんの役目だったらしい。遥くん、ご迷惑をお掛けしてすみません、と謝ったら、なんで、麻衣ちゃんが謝るの、って言われた。
最後に、遥くんも内田くんも彼女は連れて来ない、発言に、私は? って聞いたら、嘉くん、俺は連れてきていないよ、と答えたのだが、遥くんは悪びれもせずに、彼女じゃないでしょ、と言われたまぁ、確かに遥くんの彼女では無いけど、それ、屁理屈って言わない?
昨日のお話から、若干続いています。麻衣は、もしかしたら、遥くんにとって、気心の知れた男子扱いかもしれません。




