夜と好きになった人(side葉月)*
遥くんと葉月ちゃんもお話。葉月ちゃんがバーに行って、真実を知りました。
葉月はどうしたら、良いか分からなかった。あの日、彼氏に振られて、勢いだけで、バーに飛び込んだ。おしゃれをして、見返してやろうと思ったまでは良かった。誕生日だから、お酒を飲んだ。しかし、思い通りにはならない。望んでいない人に絡まれるし、お酒は飲んだけど、やっぱり、飲み慣れないのか酔ってしまって、気持ち悪い。
バーテンダーの人と、お店の常連さんは優しかったけれど、その後の自分の行動に呆れる。だって、その常連さんに送ってもらったのだ。タクシーで至近距離で、覗き込まれた瞳がとても優しかった。
* * *
その後、葉月は友人にその事を話していた。最初に、言った言葉に友人の美香は驚いた。怒って良いはずの話の内容なのだが、葉月は違った。
「一目惚れかもしれない」
「はぁ? そんな、送り狼するやつのどこが良いの? 葉月、騙されていない?」
「私を見てくれた目が優しかった。それと、他にも色々と優しかった。私、コンタクトから、いつもの眼鏡に戻したんだけど、それでも、優しかった」
「本気なの?」
「うん、でも無理かもしれない」
そう言って、葉月が美香に見せたのは、おしゃれの参考にした雑誌だ。表紙は、レーゲンボーゲンの二人だ。葉月は向かって右側の人を指さして、この人と告げた。
「え」
「バーテンダーのお兄さんもそう呼んでいたので、多分本人。実際、写真で見るよりも、もう少し、コワモテ感あったけど、そのギャップで笑うと優しそうに笑ってくれた」
「一度きりなんて、騙されたんじゃないの?」
「だから、美香ちゃんにお願いがあるの。そのバーに一緒に行ってくれない? そうすれば、また会えるかもしれない」
「それは、良いけど」
ずっと、一緒に付き合ってきたのだ、頑固なのも知っていた。美香は、了承すると、ただし、用事があるから、待ってと言われた。
* * *
その待ってが、叶ったのは、三ヶ月も後になってしまった。大学の課題にバタバタしてしまったり、美香の祖母が倒れたりしたからだ。ごめんと謝る美香におばあちゃんの方が大事だよ、と言った。美香の祖母にも良くしてもらったので葉月も、その祖母が亡くなったのは悲しい事だった。
ようやく、落ち着いた頃には、すっかり夏から秋に変わっていた。今日は、用心して髪は下ろしているがコンタクトでは無く眼鏡だ。
毎日いるとは思っていない。いたら、良いな、ぐらいの気持ちでいたのだが、でも、いないと少し寂しい。バーテンダーのお兄さんは変わらず、今日はかっこいいお兄さんがいた。美香が小さく、おお、イケメン、だと呟いた。美香はミーハーでイケメン好きだ。
聞くと、彼女が出来た様で、遥はこの店に彼女は連れて来ないと言う話だった。そう教えてくれたのは、レーゲンボーゲンのサポートメンバーの一人の内田晃と言う人だった。あからさまにがっかりした事が分かったのか、美香はお礼を言って、違う話に切り替えてくれた。
ふと、話の流れで俯いていた葉月が視線を晃に向けた。思わず呟いた葉月の「サイテー」と言う言葉に、晃は説明してくれた。美香も怒ってくれたようだが、話の内容にちょっとほっとしていた。
確かに、好きになる好みは同じだと思う、隣りの美香はイケメン好きで、背の高い人、晃のような人がタイプだ。だから、遥の好きなタイプだったことが素直に嬉しい。
しかし、レーゲンボーゲンが芸能人だと言うことを再認識させられた。会いたいけど会わない方が良いと思った。大好きな人たちを困らせたくない。遥も好きだが、それと同じくらい家族のことも好きだ。鞄からスケジュール帳からメモを切り離すと、遥宛のメモを頼む。それを、美香に読んでもらって添削してもらって、晃に渡した。それを、遥に渡して欲しいとお願いした。
払うと言ったお会計は払わせてはもらえなかった。頑なに晃は遥に払わせると言っているが、それが本当の事かは分からない。外に出て、見上げた、涙で滲む夜景だけが虹の様にきらきらして、とても、綺麗だった。
* * *
今日は、葉月の部屋に泊まるよ、と言った美香は途中のコンビニで色々と買い込んだ様だ。好きになって、告白できずに失恋してしまった親友を慰める手段は一緒にいることだ。
「恋って難しいね」
「うん、美香ちゃん、ありがと」
「私も葉月が騙されていなくて良かったと思ったよ」
「私、お姉ちゃんに似てる?」
「古川さんの中のお姉ちゃんは高校時代の姿のままなんじゃないかな。その時の、面影はある」
「え、私高校生に見られていたの?」
「流石にさ、うちのお兄ちゃんとお姉ちゃんが結婚したって言うのは言えなかったよ」
「美香ちゃん、下のお兄ちゃんのことしか言っていなかったね」
美香には二人の兄がいて、五つ上の兄は葉子と同級生だ。さらに、二つ上の兄がいて、その兄が葉子の結婚相手だ。そこまで、言う必要な無いと思った。なので、二人は義理の姉妹だ。
「美香ちゃん、レーゲンボーゲン応援する」
「うん、私もそう思っていた。浅生さんがかっこよすぎて、そう思っていた」
「あは、美香ちゃんイケメン好きだよねー」
「おおう、イケメンは世界の宝だからね!」
そう言って笑う、親友に葉月は腕を伸ばして抱き付いた。こうして、一つの恋が終わった瞬間だった。
葉月ちゃんの心のうちを掘り下げてみました。




