夜とその人の面影(sideレーゲンボーゲン)*
遥くんと葉月さんのお話の過去話です。葉月さんがバーに来た後のお話で、その後、晃くんが遥を問い詰めています。
あの夜のことを、晃に問い詰められて、遥は悪かった、と思っていると心痛な表情で告げた。コワモテと言われる顔つきもあってか、無理やりでは無いと、言っても信じてもらえそうには無かった。
葉月から、詳しい事も聞けずに、晃は遥を責めることしか出来ない。可愛いと思ったのも、本当のことだし、頭の片隅に昔のあの子の顔がよぎったのも本当のことだ。
やってはいけない事をした自覚もある。晃と榊から、その話を聞いて遥の表情からは、相当落ち込んでいるのも見て取れた。取り返しのつかない事をしたと自分でも理解しているようだった。
「それでも、健気にお礼を言いに来ていたよ」
「そっか、謝っても謝りきれない事をした」
「怒ってはいなかったけど、遥のしたことは、彼女を傷付けることだ」
「ああ、俺はどうしたら良いと思う? 会わないって、言われたらどうする事も出来ない」
「これ」
最後に、メモ書きで、もらったのは、スケジュール帳から、破った一枚の紙。綺麗な字が並んでいる。丁寧な文章が並んでいた。
『古川さんへ。好きです。でも、手の届かない人だと思うから、会いません。古川さんが、もしも、心のどこかで、私に謝罪しているとしたら、気にする事はありません。同意の上でのことでした。助けてもらったから、送ってもらったから、いくらあの時、酔っていたからと言って、それだけでは、私も誰かに抱かれるなんて事にはなりません。好きだから、応えました。それだけは、伝えておこうと思います。では、さようなら。Augustより』
「彼女の方がずっと大人だ」
「葉月ちゃん、良い子だよ。遥を責めることも無かった。本当にお礼だけ。それとさ、遥がいないこと、本当に残念そうだった。表情を見る限り、好意を持っている感じだったよ」
「名前、『葉月』って言うんだな。それさえ、知らなかった。ちゃんと、話し合っていれば良かった」
「ああ、本当に遥は間が悪いな」
項垂れる遥が、そのメモに書かれた、文字を眺めていた晃が、「八月か」と呟いた。『August』はドイツ語で『八月』を意味する単語だ。『葉月』は『八月』のことだ。
「俺、『Fluss』って書き置きしたからかな」
「そっか、俺さ、今もだけど、絶対に付き合う子に酒飲ませない」
「うん、俺も気をつける」
「遥って、今回付き合っていた子って、どんな子なの?」
「映画行った。普通。でも、それだけだ。晃の方が好きだな」
「俺が基準かよ、それ、長続きしないね」
「ああ、まぁ、誘われたから、映画行ったけど、会話は普通。あの子だったら、どんな会話出来ていたんだろうな」
「ジャズが好きだってよ」
「聞いたのか」
自分では、そんな話さえ出来なかった。少しだけ、晃が羨ましい。『ずりぃ』と呟いて、遥は手にした、メモ書きを綺麗に折りたたんだ。そして、遥はその気持ちに蓋をしたのだった。
遥くんがあまりにも悪い人だったので、色々と言い訳させて下さい、と思って書いたものです。遥くんの恋愛の失敗はこれくらいでしょうか、これから、更に、付き合う人には慎重になります。




