ファンクラブ特典の話(誕生日編)*
七月十三日の文香の誕生日の話の過去話になります。
今日は、文香の誕生日だ。四十一歳おめでとう、と言ったら、ぽこぽこ怒りながら、頬を引っ張られた。いやいや、私だってちゃんと誕生日来るよ? 数ヶ月先だけどね。
夜に待ち合わせをして、個室のあるおしゃれなお店にいる。嘉くんが選んでくれたので、今日は嘉くんも一緒だ。私と二人だけで、飲もうと言っていたんだけど、サプライズで嘉くんも誘った。嘉くんは、楽しそうに、お店を予約してくれた。
「!」
なんで、いるの、って言うのが目を見て直ぐに分かった。嘉くんは、悪戯が成功したのが嬉しい様で、周りに人がいるので、猫を被ったまま、にこにこと微笑んでいる。
「文香、こっち」
「うん、で、なんで、いるの?!」
「喜ぶかなって」
「心臓止まるかって思った」
「そこまでか」
個室に移動した途端、嘉くんは通常通りに戻った。文香、相変わらず、きょどっていておもろ、って言っている。あはは、嘉くんは楽しい事が好きなのも相変わらずだね。
『happy birthday 文香ちゃん』
うーあー、と言って文香が困った様に私に抱き付いてきた。文香にバースデーソングを歌ったのは、嘉くんだ。嘉くん、最後にファンのみんなを呼ぶ様に『ちゃん』付けしてくれたのだが、それ文香にわざと言った。前に、私、文香に、公私混同しないで、って怒られたばかりだ。流石に嘉くんを怒れないので、私に抱き付いてきたわけだ。
「それ、反則ぅぅぅ」
「あははは、文香、良い反応してくれてありがとう。と言うか、その動画見たんだね」
「うん。見たよ。だって、ファンクラブ特典で送られてくるしね」
誕生日にそんな事しているのか。でも、ファンには嬉しい事だろうね。ちなみに、私のファンクラブでは、月に一度、その誕生日の人にメッセージカードが送られる。昭和みたいだ、って絵美には突っ込まれたけどこれ、好評なんだよ。だって、残るものだしね。ただし、転売されない様にカードにはしっかり、ファンの子たちの名前も入っている。いないと思うけど、対策だって言われた。転売されたら悲しいからね。
「動画の方は、無断でアップロードとかあるから、麻衣の様にカードの方が良いかもね」
「やっぱり、されるんだ」
「悪い事だって分かっていない子が善意でアップロードしているパターンもあるね」
ああ、そうだよね、その辺、対策はやっぱり難しいのかな。あまり、酷いと動画を配信するのをやめるかもしれないね、って言ってる。残念だけど、仕方が無いのかな。その辺、取り締まる事は難しいね。
「で、これ。こないだ、嘉くんと遥くんと一緒に選んだんだよ」
「麻衣って、高校の頃も真面目にプレゼント贈ってたよね」
「高校生のお小遣いの範囲だし大したものじゃ無いけどね。流石に、仲の良く無い子のまでは、受け取らなかったけどね」
そう言ったら、嘉くんに、高校でも女の子にプレゼントされそうになっていたのか、と言われた。ちゃんと、断りましたからね。もらったのは、絵美と文香ぐらいだよ。男子とは、そんな事しなかったしね。
「開けていい?」
「どうぞ」
「お、香水?」
「うん、嘉くんがね、文香の名前から、香水を思い浮かべてくれたんだ」
「え、嘉くん?!」
「あはは、文香、反応良いなぁ。うん、喜んでくれるといいな」
「ありがとう」
嘉くんが香水を選んでくれたわけでは無いんだけど、そこは言わなくての良いかな。嘉くんは何か言いたそうだけど、そこは見なかった事にした。嘘は付いていない。嘉くんが文に香りを付ける事を言ってくれたのは本当の事だ。
「麻衣が選んだの?」
「すごく、意外そうな顔するね」
「だって、麻衣だよ?」
「そりゃあ、昔から優柔不断だけどさ」
「でも、嬉しい。ありがと」
「気に入ってもらえて良かった」
「これさ、紙に付けると良い香りがするんだよね」
「練り香水でも、出来るんだ」
「液体の香水よりも滲みとか無くて良いよ。液体だと、アルコール使われていたりするから、アルコールって滲むでしょ」
「ああ、なるほど。練り香水はアルコールは使われていないんだね」
「アルコールに弱い人とかに向くね。ただ、香りは数時間で落ちちゃうんで、何回も付け直す事になるけど」
「詳しいね」
「飲むアルコールは平気なんだけど、少しだけ肌弱いんだ。練り香水で良かったよ」
「すっかり、その辺の事忘れていた。ごめん」
「いや、私も何も言ってなかったし。ほんと、ありがとね。えへへ、早速、つけちゃお」
普通の香水にしなくて良かった様だ。嘉くんは、私と文香の会話を聞いている。柑橘の香りはこれからの時期に良いよね。爽やかな香りは、飲食店にいるんだけど特に気にはならないね。
「柚子って、良いよね。私、好きなんだ」
「柚子って冬のイメージだよね」
「まぁ、季節問わず使われているから気にしないよ」
「そっか、なら良かったよ。もう一つは、イベントにでも、付けて行って」
「うん、来月付けて行くよ」
「来月あるんだ」
少しづつ、イベントの準備で忙しくなっていくと言っていた。詳しい事は聞かないけどね。東京であるレーゲンボーゲンのライブが九月で良かったって言っている。まぁ、流石に八月にある広島でのイベントには行けないか。
「麻衣、ありがとー、元気もらったよぉぉ」
「え、俺は?」
「嘉隆くんもありがとうございます」
「ファンクラブ関係無しに、お祝い言うからね」
「そっちも、良いものなんですよ」
「そっかー、それはしょうがないかな」
やっぱり、嘉くんは怒れなかった様だ。文香には文香なりの考えがあるのも分かる。私こそ、そう言ってくれる友人は大事にしたいね。
「でもさ、参考にさせてよ。ファンなら何が欲しい? 俺たち、麻衣がファンの子たちに接するより、ずっと、冷めている自覚があるんだ」
「どう言う事?」
「麻衣は、肩を組んで、一緒に写真に写ってくれるし、握手だってしてくれる。でも、俺たちってそう言うこと、やらないからね」
「肩を組むのは、やっぱり、恐れ多いので、握手ぐらいならあっても良いです」
「そっか、参考になったよ、ありがとう」
嬉しそうに、嘉くんは、わざと文香の手を取ると、にこにこと微笑みながら握手をした。案の定、文香は声にならない悲鳴を発した。
その後、レーゲンボーゲンは、ファンクラブイベントで握手をする事にしたのは、また先の話だ。嘉くんたちも、色んな事に挑戦を実践しているようです。
この後、レーゲンボーゲンのファンクラブイベントで、握手会が行われました。




