歴史に祈りを捧げて(sideレーゲンボーゲン)*
八月仙台で冷やし中華を食べる時の話で過去話です。戦争の話をしていますので、苦手な方はご注意下さいませ。
【追記】予定通りタイトを変更しました。
レーゲンボーゲンのデビュー日が一月十日から三月にずれ込んだ。それは、その時、芸能界を駆け抜けている大きなニュースが一月の年初めに報告されたからだ。デビュー公表発表の一週間前に、急遽、デビュー日をずらすことになった。理由は、スカウトからデビューまでの期間が短かかったからだと言われているが、本音は、そのニュースがあったからだ。慌てて二月にずらす事もないだろうと判断されて、三月になった。四月に入ると遥は大学四年生になるので、三年生のうちにデビューさせたかった様だ。
そして、その日を告げられて、遥は手元の資料を覗き込んでいたが、社長の言葉に視線をあげた。表情は少し硬い。隣りの嘉隆は気付いていない様子だった。
そして、新しく発表されたデビュー日は、三月十日に決まった。
「古川くん?」
「いや、なんでもないっす」
首を振って遥はそう答えたが、明らかに何かある素振りだった。それには、社長も誰も気付いていない様だった。そして、その話は、その後、一度も出る事は無かった。
* * *
来年の三月で、レーゲンボーゲンはデビュー二十周年を迎える事になる。不意に、遥がその話を話題に出したのは、仙台で冷やし中華を食べていた時の事だった。その場に円もいたが気には留めていない様だった。
「なぁ、嘉。六日の日は祈ったの?」
「ん、ああ、うん。地元じゃ無いけれど、七夕に祈ったよ」
「そうか」
「何か、気になる事あるの?」
少し、言いにくそうに遥は一瞬だけ、悩んだ様だが口を開いた。嘉隆は知らない事だった。サポートメンバーは浅草の出身なので、もしかしたら知っているかもしれない。
「来年のデビュー日さ、俺も祈っても良いか?」
「何に? 東日本大震災は次の日だよね」
「う、三月十日ってさ、下町大空襲があった日なんだ」
「それ、なんで、今まで言わなかったの」
驚いた様に、目を瞬かせて、嘉隆は遥を見る。その日は、東京大空襲があった日だ。そして、今日十五日は終戦記念日だ。もうすぐ、十二時になり、街中にサイレンが鳴り響くだろう。
遥の実家は関東大震災で被害を受けた。そして、戦争でも被害を受けた。しかし、また、浅草に戻って再建して今でも浅草に住み続けている。
「普通に知っているんだと思ってた。だって、広島なら、戦争に関しては俺より詳しいだろ」
「俺がそこまで、詳しいと思ってるの」
「威張る事か」
「戦争の事は知っているよ。授業でもやっているしね。でも、東京大空襲の日付までは流石に分からなかった」
「なる」
質問が麻衣に振られそうになったが、麻衣は首を左右に振って、遥に笑われている。仙台空襲がいつあったかななんて、麻衣が知っているわけは無い。後から調べたら、七月十日だった。
「だって、学校の歴史の授業って、そこまで辿り着かなかったんだよ」
「そんな事、あるのかよ」
「あったんだよ、先生の時間配分が間違ったせいかもしれないけど。その辺、駆け足で終わって、なんにも覚えていない」
多分、小学校の六年生の時の話だって言っている。最後まで、教科書が終わらないまま卒業した。そして、中学の歴史の授業も同じ様な終わり方だったらしい。
「遥くん、私も祈りたい」
「ああ、さんきゅ」
すると、円が説明してくれた話に三人は耳を傾けた。円の出身は秋田で、地元では無いが、知っている様で教えてくれた。
「土崎大空襲は、終戦前夜の昭和20年8月14日の午後10時半頃から15日未明にかけて、約4時間にわたり激しい空襲を受けた。 この空襲は『日本で最後の空襲』と呼ばれている」
「それ、秋田の事っすか」
「ええ、秋田市の土崎地区っていうところで、旧日本石油秋田製油所が被害にあったようね」
「そうなんっすね」
「終戦が一日早ければ、って言われた」
「じゃあさ、祈るのは今日?」
「ええ、終戦記念日と一緒に平和を祈りましょう」
終戦記念日に祈るのは、鎮魂と世界の平和だ。食事が終わり、移動したアーケード街で、立ち止まる。ちょうど、お昼になったところだ。少し早めに店に入ったので、サイレンの音に間に合った様で足を止めた歩行者たちと一緒に四人は黙祷を捧げたのだった。
この話もいつか、深掘りしそうと思っていました。




