その瞳に映るきらきら*
がっつり、麻衣の推しの話をしています。特定のアーティスト名、曲名が出てきますので苦手な方はご注意下さいませ。
この話題は、間違ったとは思っていなかった。だって、いつもこの人は嬉しそうに、にこにこと甘い優しい笑みを浮かべながら、この話を聞いてくれる。他の男の人の話をすると機嫌が悪くなるのにだ。
久し振りの休みで、私は、作業部屋でギターに触っていた。何を歌おうか。ソファの隣りに座る嘉くんは何かを期待する様な目でこちらを見ている。
「麻衣が一番好きなのは『素直な虹』と『君の声で、君のすべてで…』だよね。俺は、『夢の続きへ』が好きかな」
「おお、それ、すごく元気がもらえる歌だよね。活動再開した頃のレーゲンボーゲンに通じるものがある歌だと思う」
「うん、その頃に聞いていたら、また違った気持ちで聞いていたかもしれないね」
「この歌は、私がsurfaceさんを聞くから?」
「有名な曲は結構、知っていたよ。『さぁ』とか『それじゃあバイバイ』とか『なぁなぁ』も有名だね。どれも、言葉遊びが楽しくて、つい口ずさみたくなる歌詞ばかりだったね。麻衣が好きなのを知って、俺も聞く様になって、バラードも良いな、って思った」
「だよね、私が好きなのってバラードが多いから。もちろん、全部好きだよ」
他にも『その先にあるもの』も好きだし、『フレーム』も好きだって、言ったら、それ全部、バラードだねと言われた。確かにそうかもしれない。少し切ないけれど、しんみりした曲の方が好みなんだよね。有名曲はやっぱり、明るく前向けで、そして、どこかおどけたようなそんな感じの歌が多い。前に、奏子ちゃんと歌った『ゴーイングmy上へ』は明るくて元気になる曲だ。嬉しいな、『フレーム』も聞いてくれているんだね。一緒に聞くのは、セトリが多過ぎて、ピンポイントで聞けるわけじゃ無いからね。
「歌って、って言ったら歌ってくれる?」
「うん、『夢の続きへ』を歌う?」
「うん、それが良い」
これさ、文香が好きなアニメの曲だよ、って言ったら嘉くんに笑われた。文香は相変わらずだね、って言われた。今頃、文香はくしゃみしているかもしれない。
「surfaceさんに会いたいって思わないの?」
「実は、一度だけお見かけした事がある」
「会った事無いって言ってなかった?」
「会ったっていうほどじゃ無いから」
「どう言う事?」
「音楽番組で一緒になって、遠くから、頭を下げたくらい。話したことは無い」
「なるほど」
「人見知り、発動してきっと話すどころじゃ無いと思う」
「可愛いな」
「どこが?!」
「surfaceさんだけは、仕事でもどうにもならないんだね、って思うところ」
ああ、確かに前に、好きなミュージカル俳優さんと一緒に出演する事になった時は、練習の際にちゃんと『川村麻衣』を演じる事が出来たけれど、椎名さんに会える、ってなったら一ファンの私はかなり挙動不審なる自信がある。
「あのね、なんとなく、って言った事あるけど、黙っていた事があるんだよね」
「麻衣は嘘を付くのが下手だから、黙っているのは、正しいね」
「椎名さんって、『ラビットマン』なの」
「どう言う事?」
「卯年生まれだからだと思う」
なので、ファンクラブのロゴもウサギだ。私のウサギのモチーフはそれを意識しているところがあった。ちょっと、恥ずかしいから今まで話していなかった。
「あ、ほんとだ」
「ね、ウサギでしょ」
「可愛いか、って言われたらちょっと分からないけれど、ウサギだね」
「うん、勝手にお揃いだな、って嬉しくなってる」
「あはは、勝手になんだ」
「勝手になんです。それを、言ったのは、嘉くんだけなんで、内緒にしてもらえると嬉しいです」
「うん、OK」
ロゴが似ているなんて事はない。ただ、私もウサギを使っているって言うだけだ。黒にしたのも対照的にしたかっただけ。私の『虹』が勝手に、『素直な虹』に向けた歌だって言うのも内緒で、話したのも嘉くんだけだ。
約束通り、私は嘉くんが好きな『夢の続きへ』を歌う事にした。ギターを引っ張って、永谷さんの様に上手ではないけれど。そう言えば、これも、バラードだね。surfaceさんの歌を歌っている私はきらきらしているって言われた。
優しいバラードの調べは、私と嘉くんの心に優しく溶けたのだった。
麻衣が何故、自分自画像にウサギを使っているかの謎が解明されるお話。




