父の背中を見つめる瞬間(side奏子)*
佑くんと奏子さんの結婚式が行われる少し前の話です。
奏子の父はデビュー曲が爆発的に売れた歌手だった。そして、その背中を見て来た奏子も歌うのが大好きな子に育った。それと、隣りに住む佑もまた、音楽が好きで、奏子の父にギターを触らせてもらう事もあった。しかし、高校では遥がギターをやりたいと言った事もあって、ギターでは無くベースを始めた。
* * *
レーゲンボーゲンのサポートメンバーとして、活動する様になると、父に、もし良かったら、一緒に歌わないか、と言われた。カレンダーに視線を走らせた父を見て、言いたかった事が分かった。もうすぐ、母の誕生日が近いからだろう。
「良いけど、歌うのパパの歌?」
「それは、なんでも。奏子の好きな曲でもいいよ」
「じゃあ、ママの好きな曲がいいかな」
「うん、それでも良いね。じゃあ、一緒に歌ってくれるか?」
「うん」
母には内緒で、父と二人で練習をした。しかし、父にとって、他にも意味があったようだ。練習をしていた時に、誕生日に佑くんも呼んで、って父が言ったのだ。
その日は、母の誕生日だから、ご飯を作らせてとお願いしていた。数年前から家を出て、佑と同棲をしていたので、実家に戻ったのは久し振りだ。
「奏子、ちゃんと食べているの?」
「ちゃんと、食べているよ」
レーゲンボーゲンがデビューをして、サポートメンバーとして仕事を始めた佑と、マネージャーの仕事をする様になった奏子は、同棲を始めて、共働きと言う事もあって、家事は分担している。今日は母の好きなナポリタンにした。ナポリタンは父と一緒に食べた思い出の食べ物で、作ってくれるならそれが良いと言っていた。
夕ご飯には父母と佑だけでは無く佑の父母も呼んだ。隣りに住んでいるのでいつでも行き来が出来る距離で、母の誕生日だけでは無く、色んな行事も一緒にやるほどの仲良し振りだ。そして、呼ばれれば直ぐに来てくれる。
「この歌を、佑くんに。これからも、奏子を宜しくね」
「パパ」
「ほら、奏子。泣いてたら歌えないぞ」
「もう、パパったら。ありがとう」
サプライズだった。父が、佑のために心を込めて歌ってくれた。母が好きな、ラブソングだ。母の好きな歌を選んでいる時に思いついたらしい。
「奏子、結婚おめでとう」
結婚式はまだ、先だが、父はサプライズで歌ってくれた。パパ、泣かせないで、そう言って、奏子は佑と母に寄り添われながら泣いていた。その後ろには、佑の父母も一緒だ。父が奏でるギターの音はいつも優しい。奏子はそんな、父が歌うのが好きだった。
「ママもありがとう。そして、ママも誕生日おめでとう」
「ふふ、最高の誕生日プレゼントだわ」
そう言って、母は嬉しそうに微笑んだ。父の歌うラブソングと、奏子と佑の結婚祝い、と嬉しい事が続いたのだ。後から、父から連絡が入っていた様で、サプライズで兄からもメッセージをもらった。
「パパ、お願いがあるの。これからも、この日、ママの誕生日に一緒に歌わせて」
「ああ、これからも一緒に歌おう」
それから、毎年、母の誕生日に父と奏子は一緒に母の大好きなラブソングを歌うのだった。それは、ずっと、奏子と両親、佑と佑の両親とみんな一緒だった。その後、佑は歌に専念出来るようにと奏子の父からギターを変わった。その心遣いに父は、『良い息子が出来た』と嬉しそうだった。
森本家と中村家はこれからもずっと仲良しです。




