君と奏でるその歌*
五月六日の、過去話になります。
まず、最初に私が思ったのは、レーゲンボーゲンのライブとはまた、違った雰囲気だなと思った。照明は少し暗い。ライブ会場もレーゲンボーゲンよりもずっと狭いが、観客席との距離が近いので、それが、すごく良い。こんな感じでファンと接する事が出来るって良いよね。
嘉くんのソロライブのコーラスの仕事を受けた。レーゲンボーゲンのライブの場合、愛夢ちゃんが引き受ける事も多いんだけど、愛夢ちゃんにも仕事があるし、ほら、嘉くんと愛夢ちゃんだとどうしても牽制し合っちゃうから一緒の仕事は向かない。中山くんや遥くんが緩衝材になっているので、レーゲンボーゲンで一緒に出来ているのだ。
今回は、サポートメンバーは奏子ちゃんだけで、サポートメンバーをしてくれるのは、森本くんたちとは違う人たちだった。でも、嘉くんは何度か一緒にライブをしている様で、すごく、仲が良かった。隣りに立つ、奏子ちゃんが珍しいよね、と囁いた。うん、ちょっと、驚いた、だって、今回のドラムの人は、マチさんって言って、かっこいい女性だ。
「妬いちゃう?」
「いや、別に」
「あはは、麻衣ちゃんらしい。まぁ、マチさんも既婚者だけどね」
打ち合わせの時に、私の肩を抱いて、私を紹介するのだけはやめて欲しかった。それ、かなり、恥ずかしかったよ。
レーゲンボーゲンのファンの子もいると思うんだけど、見る限り女の人ばかりだ。遥くんのファンには男性もいるんだけど、嘉くんのファンは女性しかいないと思う。
今回のセットリストは、最近、曲を出していないので、前に出したソロアルバムの中の曲とレーゲンボーゲンの曲、カバー曲がメインだ。しっとりとしたバラード曲が多いかもしれない。なので、照明が雰囲気に合わせて少し暗いのだろう。
トークも、いつもの相方の遥くんがいないので、コントをする事も無い。なんだろう、すごく大人っぽくて、レーゲンボーゲンとは全く違う雰囲気なので驚いた。実は、今回サポートメンバーとして出演するのは、初めてだ。
照明が暗い事もあるし、嘉くん以外は衣装は落ち着いたものになっているから、私とバレにくいかもしれない。いや、直ぐにバレるって、と奏子ちゃんには突っ込まれた。白のシャツに黒のスラックス、胸元は黒のリボンとモノクロだ。サポートメンバーはみんなお揃いの格好だ。私のメイクはいつもの派手なものでは無く、服装に合わせて落ち着いたものだ。
バレない様に、サポートメンバーの紹介もみんな、苗字で呼ばれた。最後の曲が終わって、とりあえず、ここまででライブは終了だ。お決まりのアンコールがあるのもどこのライブも一緒で、一度、ステージ袖に移動したが、アンコールの大合唱にサポートメンバーがステージに戻ってくる。そこまでは決まっていることだった。
「ありがとう、アンコールはデュエットしようか」
嘉くんのその一言に観客から、黄色い声が上がった。嘉くんが私と奏子ちゃんの方を振り向いて、「どっちが歌う?」と聞いて来た。ここは、じゃんけんで決めて、って事前に言われていた。そこも最初から決まっていた。
観客の視線が私と奏子ちゃんに集まる。あ、やば。お客さんの声に私の名前が混じった。そこでも、旦那呼びかーと突っ込んでいると、奏子ちゃんがにっこりと笑う。
「麻衣ちゃん、じゃんけん!」
「え、え? 奏子ちゃん、早い!」
ぽんと言う掛け声と共に、出したのは、私がチョキで奏子ちゃんはグーだった。あ、奏子ちゃんが勝ったので、奏子ちゃんが歌うものだとばかり思っていた。
「わぁい、私の勝ちね。じゃあ、歌うのは麻衣ちゃんで」
「へあ?」
いやいや、ちょっと待って。流れ的に勝った方が歌うんじゃ無いの? 自分の出したチョキのままの手を見つめていると、近くまで来ていた嘉くんにその手を取られた。
「勝った方が歌うんじゃないんですか」
「勝った人が決めるの」
そう言って、にこにこと笑顔を浮かべる奏子ちゃんのお尻に黒い尻尾が見える様だった。嘉くんを見ると笑いを堪えなくなったのか、笑いながら説明してくれた。
「勝っても負けても、麻衣に歌わせようと思っていたんじゃ無いかな」
「え」
勝ったら、奏子ちゃんが決めて、奏子ちゃんが負けたら勝った私が歌う。だ、騙された。奏子ちゃんは、最初から、私に歌わせるつもりだったのか。
うううう、アンコールで私は、愛夢ちゃんと中山くんのデュエットソング『星に捧げるノクターン』を歌ったのだった。
奏子ちゃんも嘉くんも私の名前を呼ぶからバレたじゃ無いの、そう言ったら、みんな最初から気づいているよ、と言われた。
夫婦で、旦那のライブにコーラス参加。お互い音楽関係の仕事をしているとあるあるですよね。まだ、照れが捨てきれていません。




