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虹の架け橋  作者: 藤井桜
本編
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青かった、その心と消えかける夢にしがみ付く事しか出来ない



 四月、地元の高校を卒業した私は、地元を離れて、一人上京した。私の背中を押してくれたのは、絵美だ。家族と絵美は何時も私を全力で応援してくれる、かけがえなのない存在だ。


 たまたま雑誌で見つけた、映画の主役を決める、役者向けのオーデションに応募して合格する事が出来たのだ。本当は、歌手向けのオーディションに応募したかったが、色々と探したがそう言ったオーディションは開催されていなかった。そのオーディションで、主役に選ばれれば、何曲か歌も歌う、それがオーディションを受ける決め手になった。そして、そのオーディションに合格する事が出来た。


 社長から説明があって、合格の決め手は民謡をやっていた時の、音楽の基礎がしっかりしていて、踊りも良かったという理由と、これは、余談だが、ヒロイン役に、求められたのが、身長だけは高いが、女性らしさの薄い、少年の様な体型という、少し異質な見た目を重視して選ばれたらしい。


 公開された映画が普通ので良かった、と心から安堵しました。


 そして、私は、本宮ありすと言う芸名で、この映画で女優デビューしたのだった。この話を聞いて、民謡と踊りを教えてくれた祖母に心から、感謝したのだった。



 仕事を初めて、女優として活躍の場を広げて、ファンもそれなりに付いてきた時期だった。その、驕りに私は甘えすぎていたのかもしれない。少し、演技が上手だったから、少し見た目が良かったから、そんな人は芸能界には、大勢いる、自分だけではない。そんな事にさえ、私は、気付いていなかったのだ。



* * *



 そして、デビューから三年後、TVドラマで共演した、若手イケメン俳優である城咲(しろさき)広大(こうだい)くんとビートルズや洋楽が好きだという共通の話題に意気投合してしまった。中学生から、芸能活動を初めて、アイドルとして、活動をしていた彼は、若手俳優として、ドラマや映画に出るようになったばかりだった。

 女性ファンも多く、そんな彼に趣味がきっかけで、近付いてしまった私は、その時ばかりは周りが全く見えていなかったのだ。


 東京に出て来て、仲の良かった絵美とは、暫く連絡を取る事もなかった。きっと、絵美なら叱ってくれたかもしれない。でも、絵美には、相談出来ない事があった。高校の時のその話題を思い出して、私は何時も絵美に「ごめん」と心の中で謝るのだった。



「周りにビートルズ、好きな子、なかなか、いないから、話が出来るって嬉しいな」

「僕もだよ。女の子で好きな子なんて、初めてみたよ。ありすちゃんは、誰が好き? やっぱり、ジョン・レノンかな?」

「曲も有名なのから、マイナーものまで、色々好きだよ。広大くんもジョン・レノンなんだね、私と一緒だね」



 お互い、趣味が合うとなると、時間を忘れた。最初は、芸名呼びだったが、そのうち本名で呼ばれる様になった。休みの日には、お互いの部屋を行き来して、プライベートでも付き合うようになった頃には既に遅かった。

 彼を好きという気持ちは、微かにあったのかもしれない。それよりも広大くんと一緒にいるのが楽しくて、ずっと、一緒に共通の音楽の話題で盛り上がっていたかった。絵美と一緒にいた頃を思い出して、会えないその寂しさもあったのかもしれない。


 事務所側が私を案じて、再三、忠告もしてくれたし、二人の関係を隠し通してもくれた。


 それなのに、私はその忠告も聞かずに、彼との楽しい時間しか見えていなかった。「ずっと、一緒にこうして、いろんな話をしたい。麻衣ちゃんと一緒に居たい。そう、思うんだ」そう言った、広大くんはすごくきらきらしていて、広大くんからの、流されるままの、プロポーズの言葉を受け入れて、同棲じゃ外聞が悪いということで、二十一歳で、同い年の広大くんと結婚したのだった。


 子供のまま、大人になったような、広大くんもまた、私と同類だったのかもしれない。



 しかし、その結婚は長続きはしなかったのだ。その後は、楽しい結婚生活というわけには、当然、行かなかった。人気絶頂のアイドルと、新人女優との結婚は世間の話題をさらった。そして、庇いきれなくなった事務所は私を見限り、仕事は一気に減り、マスコミは引っ切り無しにやってくる。

 そんな、生活ばかりが続いた。引退するしかないと、追い込まれるほどに。誹謗中傷に晒されて、二年の結婚生活はあっさりと、終わりを告げた。本当は、もっと、短かったかもしれない、二年と少しの間、続いたのは、離婚に踏み切れなかった私の臆病さと、誰にも話せなかった弱さ。


 若かった、それだけではなかったはずだ。目先の幸福だけに囚われて、周りを見る事さえ出来なかったのだ。そして、最後に私は、最後の望みを賭けて、マネージャーの酒井莉子さんに頭を下げたのだった。



* * *



 離婚後、絵美から連絡があった。ずっと、連絡を取りたい思っていたらしい。莉子さん経由で、連絡をもらった。携帯番号もメールアドレスも既に変わっていて、連絡の取りようがなかったらしい。実家の兄に聞いても何も教えてくれなかった。その時の兄は、兄だけではなく、家族みんな、相当怒っていたらしい。


 それさえ、気付けなかった。家族に迷惑を掛けてまで、私が本当にやりたかった事はこれなのか、絵美の一言に私は、気付かされた。



「絵美、ごめん」

『なんで、私に謝るの? 麻衣がちゃんと、気付けて良かったって、思うの。だって、麻衣は、私にとってかけがえのない友達で、そして、私は麻衣のファン第一号なんだよ、麻衣、頑張ったね』



 絵美の声は涙声だ、泣かせている、大事な友達を泣かせている。失いたくないかけがえのない友達。その友達を泣かせている。その、罪悪感に私まで、苦しくなる。ごめんね、絵美。


 絵美の説得で、兄は、渋々だが、事務所と連絡を取ってくれたらしい。莉子さんは絵美と相当話し合ったらしい。私がもう一度、立ち上がれるように、最後のチャンスを与えられるように、行動してくれたらしい。莉子さんに感謝だ。



「絵美に言えなかった事があるんだ。私が絵美に結婚の報告が出来なかった理由」

『私こそごめんね、きっと、高校の時の私の何気ない一言が真面目な麻衣を困らせたんだと思う。私、広大くんの事好きだけど、あれは、グループの中で誰が好きっていう些細な会話だったと思う。特に、熱狂的なファンでもなかったから、この中ならこの人かな、ぐらいの気持ちだったの。それなのに。きっと、麻衣は私を思って、言えなかったんだよね』

「私こそ勘違いしてごめんね」

『結婚の事はすごく驚いたし、相手が広大くんで、ああ、歌の趣味合うからかな、って単純な考えだった。うん、もう、この話はこれで、終わり。ねぇ、麻衣、歌ってくれるんでしょ? 私のために歌ってよ。やっぱり、麻衣が歌ってる時が一番きらきらしてる。だって、麻衣は、時計ウサギに扮した私の王子様だよ?』



 そう言って、絵美は電話越しにからりと笑った。泣いてなんていられない。私は、絵美のために歌いたい。誰よりも私を応援してくれる絵美のために歌いたい。それは、私にしか出来ない事だと思った。これからは、迷わない。

 真っ直ぐに先の未来を見つめて歩いて行くのだ。



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