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虹の架け橋  作者: 藤井桜
本編
33/414

二年目の冬、近付く距離に戸惑う心に



 年が明けて、本格的な全国ツアーが三月から始まる。北から、札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡、最後に東京の七都市を回るのだが、準備もあるし、強行なので、かなり忙しい。七は私にとって、かけがえのない数字。七都市公演はどうしても、譲れなかった。


 虹が好きで、昔から虹に勇気と元気をもらっていた。そして、レーゲンボーゲンはドイツ語で虹を意味する言葉で、出会えた事が本当に嬉しかったと言う事もある。二月に発売された新しいアルバムを提げての、大規模なツアーだ。そして、彼らと会って、もうすぐ、二年を迎える。



 仙台公演には、杏も来てくれる事になっているので、少しでも会う事が出来るかもしれないので楽しみだ。(あん)も四月から忙しくなるので、息抜きになってくれると嬉しい。公演終わりに、みんなで牛タン食べに行こうと約束した。


 ご当地のローカル番組にも何回か出演させてもらえるようで、緊張するが、地元の人たちが待っていると思うとやっぱり嬉しい。時間の合間に、莉子さんを誘って仙台観光もして来ようと思っている。仙台も色々と美味しいものがいっぱいあるからね。


 公演は本当に大きなもので、私の中で、全国七都市を回る事は初めての経験だった。それも、事務所からの要請で、その土地に縁のある人たちも呼ぶと言う大掛かりなものだった。数日前から現地入りして、リハーサルを繰り返して本番に挑む。


 ツアー始まりの場所である。札幌は流石にまだ、寒かった。これくらいなら、慣れた寒さぐらいで、問題は無かった。暖かいラーメンを食べてくる事も出来ました。醤油派なんだけど、バター乗せた味噌味も美味しかった。色々な土地にツアーに行くと現地の美味しいものが食べれて良いよね。

 三月の札幌はまだ、雪が残っていました。北から順番に、じゃなくても良かったかもしれない。北海道に縁のある芸人さんが来てくれて、とても楽しいステージになってくれて、私の緊張もほぐれた様に思う。


 仙台公演は、絵美も来てくれた。基本、ライブは、休みの日が多いので、仕事が休みなので来てくれた。学くんも一緒だ。子供達は、実家に預けて来たらしい。

 ちなみに、杏を乗せて仙台まで来てくれたようで、絵美に感謝だ。流石に家族を呼ぶのは、恥ずかしいのでやめました。悠兄目立つから呼びたくない。

 仙台もまた、ご当地の芸人さんで、私を妹の様に可愛がってくれる人だ。普段は、芸人さん歌わないのに私のために一緒に歌ってくれました。本当に感謝しかありません。


 名古屋は、有名なピアニストの方でした。私の歌に合わせての、ピアノの音色はとても素敵で、私の曲、ピアノとも相性が良いね、と言われました。バラード曲が多めだし、どれもアレンジが聞く曲が多いので、それが、ピアノとの相性が良い要因だったのかもしれません。

 そして、名古屋といえば、美味しいもの! 普段、あんまり食べる方じゃないのに、美味しいものの誘惑には、抗えませんでした。これが、ツアーの醍醐味だって言う人もいますよね。


 大阪もまた、美味しいものいっぱいあるんだよね。覚悟して現地入りしました。実は週末ごとにライブツアーで回っているので、体重かなり増えたような気がする。散歩の歩く範囲を広げるか、少しスピード上げないとこのままでは、大変な事になる。走りたくはない。

 大阪はご当地の芸人さんでした。面白い事、振られても咄嗟に出てこない東北人なので、その節はご迷惑お掛けしました。



 札幌、仙台、名古屋、大阪、と無事にツアーを終えて、五つ目の広島公演は三日前から現地入りすることになる。広島のゲストは、浅生(あそう)くん、でも、レーゲンボーゲンの方が良いだろうと言う事になり、古川くんは、単独の仕事の都合で、前日、現地入りするようです。忙しくてごめんなさい。

 リハーサルだけではなく、他にも仕事があって、広島のTV出演を予定していたからだ。同じく、広島で仕事のある浅生くんから声を掛けられたのは、移動する前日だった。



「え?」

「うちに来ないかって行った」

「浅生くんの実家?」

「うん、良かったらだけど。会場まで、送るよ」

「あー、迷惑じゃない?」

「そんなことないよ」



 突然のお誘いに戸惑う。なんで、私誘われている? ぱちぱちと目を瞬かせて、驚いてしまった。何かと誘われるなとは思っていたし、周りからは付き合っている認定されている節がある。否定しているはずなんだけどな。いまだに付き合う事に抵抗のある私だが、なんだか外堀が埋められているような気がする。

 ホテルの部屋は基本、莉子さんとは別なので、どうしようか悩んだのだが、そんな事気にしないで、と言われた。

 詳しい説明は出来ずに曖昧に説明するが莉子さんは何も言わずに、ただ、彼女の瞳はきらきらと輝いていた。何かを察しているような瞳だ。言葉にはされていないが、励まさせているように思う。

 絵美は、特に何も言わずに、goodの可愛らしい猫のスタンプのみが送られてきた。うん、知ってた。こっちも何か、察した様だ。



 ほとんど、帰る事はないが、広島で仕事をする際はたまに、実家に戻るようだが、広島から距離があるので、基本は、面倒なので、駅前のホテルに泊まるらしい、今回もそっちで仕事があるし、私のライブにも出てくれる。

 家族に挨拶とかそう言った類のものじゃないから、気軽にという言葉に従って私は、お邪魔することにした。騙されていないか、私?



 駅まで迎えに来てくれた、浅生くんのお父さんは優しそうな人だった。でも、怒ると怖いって、言ってたけれど、そうは見えない。怒らせる予定はないと思います。私の見た目も特に、気にしていない様で、気さくに話しかけてくれた。



「遠いところ、よぉ、来たのぉ」

「初めまして、川村麻衣です。今日は、お世話になります」

「いやいや、気にせんでえぇ、遥くんも、よぉ、来るけん」



 と頭を下げて、後部座席にお邪魔する。さらりと浅生くんも隣りに座った。助手席じゃないのか。後から聞いたんだけど、たまに古川くんも泊まるようで、自分だけではなかったんだと、ほっと胸を撫で下ろした。


 でも、後から、改めて考えると東京では、古川くんの実家によくお世話になっていたって言う話を思い出すと、それはお互い様だから良いけれど、私の場合は違うじゃんと思ってしまった。ううう、最近、浅生くんには簡単に丸め込まれているような気がする。



「荷物、多くない?」

「色々持って来たからね」

「お土産なら、いらんのに」

「そう言うわけにはいきません」



 そう言って、私は自分のスーツケースを手に取ると、玄関からお邪魔しようとしたが、バランスを崩して、躓いた。咄嗟に浅生くんが手を貸してくれて、腰を抱かれた。ちょうどその時、近所のおばさまが車のエンジン音に帰って来たと思ったのか、手に野菜を持ってやってきた。玄関は開いたままだ。



「え」

「あらあら、お邪魔だったかしら、ごめんねぇ」



 ふふふ、と楽しそうな笑みを浮かべて、浅生くんに野菜の袋を押し付けると、そのまま戻っていく。見られた、ただ、よろめいただけなのに。誤解に気付いたのだろう、浅生くんは誤解を解くために、私に野菜の袋を預けると、おばさまを追いかけた。いや、こんなでかい女と浅生くんが抱き合っているわけない。よろめいただけです。



 物音に気付いた浅生くんのお母さんが、台所から顔を出した。夕ご飯の準備をしていたようで、私の方を見て、きょとんとしている。慌てて私は挨拶することしかできなかった。大丈夫かな、浅生くん。



「いらっしゃい、もし良かったら手伝ってもらってもいいけぇ? これ、運んで欲しいんよ」

「あ、はい、お母さん」

「あらあら、お母さんと呼んでくれるん? ぶち嬉しいねぇ」



 にこにこした、お母さん、おっとりしているけれど、しっかり、使えるもの使う人のようで、こうして、頼られる方が私としても、気が楽だ。お土産を持って来たので、台所で渡してしまった。

 私とお母さんの話し声が台所でするのが、分かった浅生くんが野菜を持って台所にやってきた。「長野さんから」とだけ、呟いて、手を洗って、お母さんから運ぶように頼まれた皿を、浅生くんが手に取った。「珍しいわねぇ」そう言って、お母さんがころころと笑う。私も料理の皿を持って、浅生くんの後ろに続く。



「母さん、あれで、人使い荒いから」

「気にしないで、折角お邪魔するのに、手伝える事あったら言ってね」



 出していただいた、料理はとても、美味しかったです。ご馳走になって、申し訳ありません。それにしても、冬の牡蠣はやっぱり、絶品だ。牡蠣の季節に来れて良かったです。カキフライはもちろんだけど、色々な牡蠣料理が並んでる。私が来るからって、用意してくれたらしい。

 海から結構、離れているので、普段はあまり、牡蠣は食べない様だ。どちらというと、肉や野菜が多いとか。レモンを絞って食べると絶品だよね。更に言うと、レモンも県産のものだって言う話だし。他にも色々な料理の数々が並んでいたんだけど、牡蠣に目がいってしまう。牡蠣は大好物だ。

 幸せそうに頬張る私に「牡蠣好きなの?」と聞かれた。



「小さい頃、父が売れない野菜を持って出かけるんです。その野菜が牡蠣になって帰って来ました。父が知り合いの漁師のおじさんと野菜と牡蠣を交換してくるんですけど、その時、母がカキフライにしてくれるんです。その牡蠣も小さな小ぶりの売り物にならないものなんで、少し小さめのカキフライなんですけどね。でも、それが大好きで、その頃から牡蠣は好きですね、浅生くんは…」

「みんな浅生だから」

「え、あ、確かに。えっと、嘉隆(よしたか)くん?」

「うん、好きだよ」

「へ?」

「牡蠣のことだよね」



 びっくりした。私は慌てて、レモンを絞ったカキフライを頬張って、舌を火傷したのだった。本当、心臓に悪い人だ。最近、からかわられるのが増えたような気がする。もう、みんな、楽しそうに笑っている。でも、すごく、素敵な家族だ。うちの実家だともう、うるさくて、こんなのんびりした穏やかな家族団欒も悪くない。


 きちんと、洗い物も手伝いました。なんか、話によると、古川くんも、こっちに来ると率先して、お手伝いしてくれるらしい。流石、古川くんだ。



 泊めてもらうのに、何も持参するものがないのは、気が引けて、日本酒を二本と、色々な食べ物を持参していた。こっちのお酒も美味しいって聞くけれど、たまには変わったものも良いと思ったのだ。スーツケースのほとんどはお土産が入っている。

 浅生くん、じゃない、嘉隆くんには、呆れられた、でも、喜んでもらえたようで良かった。その中でも、お父さんにはやっぱり、日本酒が好評で、お母さんには、お菓子が好評だった。

 その二本のお酒は、地元のお酒で、作っている酒造会社が違うので、飲み比べるのも良いかもと思ってチョイスした。どっちも、実家から送られてきたものなのがちょっと、申し訳ない。


 一家団欒にお邪魔させてもらったのに、居心地の悪さはない。お父さんは典型的なカープファンだった。うちのお父さんは、巨人ファンなんだけど、昔は、楽天なんてなかったし、パ・リーグは昔ほど、騒がれてはいなかった。昔、私も、兄たちと同じ帽子が欲しいと強請ったら父は女の子だから、赤だろうと言う単純な理由でカープの帽子を買ってくれた。

 ちなみに、悠兄は巨人、敬兄は阪神だった。名前を書いていても、帽子の取り違いが多くあったので、友達同士でも、被っている球団の帽子が違った。その話をしたら、お父さん本当に嬉しそうだった。巨人が一番人気だったと言うことは伏せておきます。


 すみません、野球はそんなに詳しくありません。それと、私のお酒の強さに驚かれた。そんなに飲んでいるつもりないんだけどな。嘉隆くんには、ずっと前からそう思われていたらしい。お酒って怖いな。


 そういえば、近所のおばさま、長野さんの誤解は解けたようだ。信じてもらえたようで、助かりました。本当かどうかちょっと怪しいんだけどね。



 牡蠣、広島産が有名で漁獲量も多いですが、宮城産は一応、二位です。お酒は、男山本店の蒼天伝と角星・両国の水鳥記辺りでしょうか。

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