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虹の架け橋  作者: 藤井桜
本編
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鮮やかな光に包まれた、青い春の散らばったひととき



 地元の高校に入学して、私は、民謡と踊りをやめた。祖母が亡くなって、寂しかったのだろう。教えてくれる祖母がいなくなったのも大きい。それでも、心のどこかで祖母の教えは、活かされているのか、歌う事はどうしてもやめる事が出来なかった。


 高校で、歌える環境が欲しくて、合唱部に入ろうと思ったが、その高校には、合唱部はなかった。半年前に学校を決めたのは、単純に家から近かったからだし、絵美もまた、同じような理由だった。

 自転車を使えば、五分ほどで、着く。八時に起きても間に合うと、親に言ったら怒られた。担任に、隣りの市の高校への進学も勧められたが断った。そちらは、女子校で、制服が可愛い事で有名だったが、朝は弱い、面倒臭がり、可愛い制服は自分には似合わない、という理由でやめた。

 

 高校を決めた時点では、祖母も健在で、民謡も続けていると思っていたので、部活動に関しての下調べは一切していなかった。

 いつも、麻衣は爪が甘いなと絵美にも家族にも言われた。女子校を選んでいれば、合唱部もあったし、コンクールで上位の成績に入るほど強かった学校だ。でも、絵美と別れるのは嫌なので、このままで良かったのかもしれない。



 それが、高校二年生になり、私の世界が大きく変わった。



* * *



 高校二年生の文化祭で私たちのクラスは『御伽草子』という名前でクラス出し物をする事になった。メインは、御伽話のキャラクターに扮したコスプレ喫茶だ。ケーキは、クラスメイトの家から安価で提供してもらえる事になった。町に二軒しかない洋菓子店なので、この時期も、冬のクリスマス時期並に忙しいけれど、頼ってくれて嬉しいと、家族は言っていたそうだ。

 飲み物は、ペッドボトルや缶ジュースとちょっと、残念だが仕方がない。火を使う調理は、屋外でしかできなかったためだ。その分、接客に力を入れようと思っている。


 同じく、クラス有志でやるバンドの名前も分かりやすく英語で『フェアリーテイル』に決まった。双方、同じ名前にして、集客数を稼ごうという狙いだ。バンドの際の衣装はもちろん、クラス出し物の時のものだ。

 私は不思議の国アリスの時計ウサギ、ギター兼ボーカルの佐藤(あらた)くんは白雪姫の王子、白雪姫にこだわる理由はなかったのだが、他の子で白雪姫をやっている子が居たので、白雪姫の王子になった、ドラムの小野寺潤くんは、赤ずきんの狼、付け耳と、付け尻尾は、女子のハートを掴んだ。ベースの鈴木裕太くんは同じく赤ずきんの狩人、それもかなり曖昧で、白雪姫の狩人でも良いとの事だった。キーボードの田中学くんはアリスの帽子屋だった。アリスは絵美がやってくれた。

 本当は、大好きな戦国武将の名前を挙げたが、周りが却下していた。御伽話関係ないじゃん。桃太郎有りなら問題ないじゃんとちょっとごねられた。


 部活の出展はなかったが、クラス、有志の他に学校側の出展の手伝いもある。農業高校なので、授業で作った野菜や加工品を一般に、販売するのだ。私と新くんの二人が店番をしなくても、野菜は一時間もしないうちに売り切れるのは、目に見えていたが、それでも、店番をして欲しいと頼まれた。

 買い物客の中に生徒も混じっていたような気がしないでもない。気のせいだよね。頼まれると断れない性格なので、やる事が多くてかなり、忙しかった。


 その後、何故か、人数が少ないと言う理由で、男子生徒が女装するミスコン、女生徒が男装するミスタコンに飛び入りで、誘われた。まぁ、そちらの優勝は現生徒会長の明原(あけはら)美秋が掻っ攫って行った。知名度はそっちの方があるので仕方がない。女子の出場は三組の長身の黒髪美人の館崎(りょう)の三人のみだったが。参加賞をもらえたので、ヨシとしようと思った。ちなみに、ミスコンは、言わなくても分かるが、クラスメイトの佐藤新くんがダントツ優勝だった。さもありなん。


 そっちでは、優勝する事は出来なかったが、新くんが優勝しているので、三冠かもしれない、私たちのクラスは、クラス出し物一位と有志出し物の一位とダブルで受賞する事が出来た。



 クラス有志の出し物をする事を決めた新くんが、ボーカルを募集した。普段から、邦楽ポップスも聞くし、父や兄の影響でビートルズなどの洋楽も聞いていたので、歌う事に抵抗は無かった。あまり、目立つ事を避けていた私が立候補した事に周りには随分驚かれた。

 祖母の影響で、民謡や演歌も聞いていたので、何でも歌えると言ったら喜ばれた。新くんは、自分がギターを弾きたいがために、ボーカルを募集した経緯がある。ミスタコンの出場は頼まれたから、やったのに対し、バンドのボーカルは自ら、立候補した事に周りだけでなく、自分でも驚いていた。

 新くんのミスコンは、自分で望んで出場しました。食券二千円分に惹かれたのかもしれない。


 それだけ、歌う環境が欲しかったのかもしれない。五歳年上の兄も同じ学校のOBで有志でバンドをやったのを、まだ、この学校で教師をしていた、担任も知っていた。その担任の希望で、兄が歌った、兄の十八番を歌うリストに入れた。それ、しっとりした、バラードなんだよね。聞いた事あるし、でも兄の様に歌えるかちょっと心配だ。



 文化祭でみんなの前で歌う事は純粋に楽しかったし、とても、気持ちが良かった。大勢の歓声、それがとても心地よくて、もっと、歌いたい。もっと、聞いて欲しい。それが、初めて私が、歌の道に進みたいと思った瞬間だった。ああ、民謡を歌っている時と一緒だ。

 誰かが聞いてくれる、喜んでくれている、それを思い出した。私は、歌が、歌う事が本当に好きだ。そして、それを届けたい。聞いてくれる誰かのために、届けたいと思った。



セットリスト


麻衣・高校時代バンド文化祭セットリスト


1 Mr.Children 『終わりなき旅』

2 スピッツ『空も飛べるはず』

3 B'z『裸足の女神』

4 surface『君の声で 君のすべてで…』

5 久保田利伸『missing』

6 ポルノグラフィティ『アポロ』

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