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虹の架け橋  作者: 藤井桜
本編
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姪っ子へのサプライズと実家への帰省



 十月は(あん)の誕生日がある。ほとんどの家で、稲刈りが終わり、農家に少しだけ余裕が生まれる。うちの実家は米だけじゃなくて、野菜も作ってるので、まだまだ、忙しいんだけどね。

 学校も文化祭以降の行事はほとんどない。冬越えの準備はもう少しだけ後でも問題ないようだ。


 少し前に悠兄から電話があった。杏の誕生日の辺りに帰ってこれないかと。お盆にも帰っていなかったし、年末も忙しくなりそうなので、今のうちに行っておくのも悪くはない。

 来年は杏も受験か就職なので、行くなら今がいいだろう。杏の誕生日は休日ではないので、その前の日曜日に行く事になった。



「何か買ってくものある?」

「とくに思い浮かばんなぁ、まぁ、子供たちはお菓子とか喜ぶかもしれん、軽いものの方がいいだろ?」

「そこまで、考えてくれてありがとう、何か考えておくよ。それで、なんかそれだけじゃないって雰囲気だけど、何かある? あ、杏の誕生日プレゼントは、送るように手配してあるけど。ギター欲しいって言ってたよね」

「そっか、いつもすまねぇな」

「可愛い姪っ子のためだもん。悠兄が音楽に寛容で良かったよ」

「嫌いな奴いないだろ、そういえば、絵美ちゃんも来るって」

「絵美とは、メッセージのやり取りしているから、絵美から私にも連絡あったよ」

「そうか、それでな、頼みがある」

「珍しいね、悠兄からの頼み事なんて」



 そう言って、兄から珍しく相談を受けた。杏の誕生日にサプライズで歌おうという計画をしたいらしい。練習期間が一日しか取れないのが本当に悔やまれる様なお願いだった。歌おうとしている曲も知らないわけじゃないし、杏も喜ぶなら人肌脱ぐ事にしよう。

 あと、きっと、咲子(さきこ)さん(兄嫁)辺りが動画に撮ってくれると思うから、その動画は転送してもらおう。実家に帰省する事を莉子さんに言ったら、ぜひ、その動画自分も見たいと言われた。


 私は関係ないんだけど、先月の杏の配信とその後に挙げられた、私と兄の高校生時代の動画は莉子さんの手で、拡散され、いつの間にか、かなりの再生数を記録していた。再生数数回とか、言ってごめんなさい。ちゃんと、需要あったようです。

 なんか、再生数自体は私のも兄のも変わらなかった。一緒に見てくれたのかな。コメントも好評で良かった。というか、これで、更に兄のファンが増えたような気がする。



 東京に比べると東北の秋の訪れは早い。空は快晴、秋の訪れを感じる爽やかな天候だった。米の収穫が終わって、少しだが、ゆっくりする時間が出来たようだ。私が帰宅すると嬉しそうに杏が後ろから抱きついて来た。私の方が背が高いので、ぶらさがるような形だ。

 荷物置いてくるよ、という理由をつけて母屋に入る。私の部屋はそのままなので、今回は窓を開けて風を入れてもらっていたので、入っても埃くさいという事もなかった。いつも、ありがとう。

 セミダブルのベッドとタンスがあるが、タンスには、何も入っていない。押入れの中もそろそろ片付けないといけないんだけど、といつも思うだけだ。


 杏も薄々、父が何かやってくれるのに気付いているようだ。だって、庭先に兄のファン(のどじまんでファンが急激に増えた、更に、あの動画でも増えた)が大勢いるのだ。TV局とかは流石にいないのでほっとした。


 大掛かりな機材はほとんどないけれど、ライブ出来るほどの設備は揃っていた。ギターのお兄さん、よく見ると、悠兄の同級生で郵便局で働いている人だ。確か佐野さんだったかな。ベースの渡辺さん、キーボードの阪下さん、ドラムの小園さんと全員見た事ある。

 後から知ったんだけど、悠兄は、今でもたまにバンド組んで、歌ったりしているらしい。農家、郵便局員、教員、漁師、居酒屋経営者とメンバーの職業も多岐に渡る。

 なんか、すごい。それでいて、すごく楽しそうだ。ドラム担当の居酒屋の小園さんのところでみんなで、ライブさせてもらったりしているようです。知らなかった。


 杏の弟の中学生の彼方や小学生の蓮の友達の姿も多い。一番下の幼稚園児の愛奈は、何が始まるのかわかっていないようで、近所の同じ年頃の子達と遊んでいる。

 絵美も子供たちと学くんと四人で来てくれた。絵美の下の子は愛奈と同じ年なので、ただ、こっちは幼稚園ではなく保育園なので、面識はない。でも、子供は慣れるのが早いので、すぐに打ち解けていた。

 上の男の子は人見知りなのか絵美の後ろに隠れたままだ。帰る頃には仲良くなれているといいな。


 杏は、きっと私もいるので、伝統のあの曲でも披露してくれるのだろうと思っているはずだ。それを逆手に取る。ただ、二つ上の兄である敬也兄がいない事に気付いているのか。だって、二階の窓から確認すると、ちゃんと敬兄の奥さんの望ちゃんとお子さん二人がいるんだもの。まぁ、近所の人も多く来ていて、そこまで気付けるか分からないんだけどね。


 それにしても、うちの庭、車を違う場所に移動したので、結構広いんだけど、それでも、来てくれる人が多くて、狭く感じる。これ、どれくらいの人が来ているんだ。

 今回は私も歌うけど、メインは兄弟二人だ。滅多に歌わない敬兄が歌うとなるとかなりのサプライズになるはずだ。それじゃあ、私がいなくても、って思うかもしれないけど、最後に大きいサプライズを持ってきた。



 悠兄が選んだ曲は、杏が好きなレーゲンボーゲンの曲だった。杏は私がいない事が不思議だったようで、驚きつつも、父とおじの歌に魅了されたようだ。久々に聞く父の歌声と滅多に歌わないおじの歌。それも、悠兄は、古川くんのパートを担当しているのだ。もう、楽器をやっている人たちもすごく上手だ。

 月に数回練習しているっていうだけのレベルじゃない。曲は『run(ラン) way(ウェイ)』レーゲンボーゲンの曲で、悠兄が好きな曲だ。ここは、杏の好きな『夢のカタチ』の方を選ぶべきなんじゃないかと思わなくもなかった。自分が歌いやすいっていうのも、大事な要素かもしれないけれどね。


 しかし、聞き惚れている場合ではない。最後のサビ部分で私も二人の間に入る。次の歌のためだ。実は、もう一曲練習していた曲がある。昨日の午後に着いて、敬兄の家で練習させてもらって三人で合わせたのは、二回ほどだ。

 杏と同じ名前の子が出る作品で、その子が歌う曲だ。あの時、杏が文化祭で歌った曲だ。かっこいいロック調の曲で、テンポはかなり早くそれなりに難しい。練習期間が本当に短かったのが悔やまれる。もう少しあったら、もっと精度を上げられたはずだ。合わせたのも数時間だけだったし、実家に来るまでに何度も練習して良かった。


 しかし、その、反応に手応えを感じる。この曲を選んで良かった。中学生の彼方や小学生の蓮の友達の反応も良い。小中学生に絶大な人気を誇る作品だから、気に入ってもらえたようで本当に良かった。


 二曲だけ、私は歌って、それで終わりではなかった。それから、兄たちのライブが始まり、なんか、流れで私も何曲か歌わされた。そこまでは、聞いていないのですが。つうか、バンドの皆さん、なんで私の歌まで歌えるのですか。


 絵美には、すごく喜ばれた。途中で、連絡を取ってくれていたらしく、潤くんも奥さんと子供達を連れて来てくれた。潤くん、また楽器に触ろうかなって、言ってる。一緒にまた、出来たら嬉しいな。(あらた)くんと裕太くんが居ないのはちょっと残念だ。

 そのうち、懐かしいメンバーで私もバンドをやりたくなった。最後に涙ぐんだ絵美を宥めるのに、黄色い悲鳴が上がったのは何故だろう。


 今回、こうして、やって来て本当に良かった。



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