ご当地パンとその犯人
実家からの荷物が届いた。冬場は野菜が少ないので、基本、加工品が多いのだが、その隙間埋めにパンを入れるのやめてもらって良いですか。犯人は絵美だな。そんな事するのは、絵美しかいない。
「あはは、何で、パンが詰まってるの」
「絵美だと思う。抗議する」
「ぶち面白いから良いんじゃない? お礼言っておいてよ」
「えー、パン潰れるじゃん。それに、消費期限が勿体ない。明日中に五個なんて食べ切れないよ?」
「明日、遥に持って行く? それか、冷凍するとか」
「冷凍庫がお菓子で埋め尽くされておりますが?」
「遥、最近忙しくて来なかったものね。じゃあ、明日、事務所に持って行くよ。冷凍庫のも持って行く途中で、溶けて食べ頃になるんじゃない?」
「お願いしても良いですか」
「うん、良いよ。それと、おやつにしよう? それって、甘いやつだよね」
私が手に持っているパンの一つを取る。ピーナツクリームが入っている。気仙沼地方ではお馴染みのコッペパンだ。『気仙沼パン』って呼ばれていて親しまれている。
「遥好きそうだよね」
「あ」
「どうしたの?」
「犯人、絵美じゃなかった」
「どう言う事?」
「気仙沼パンを入れた犯人は杏だった」
「あれ、杏ちゃん実家に戻ってたの?」
「うん、ほら、おばあちゃんの命日が近いからね」
「あー、なるほど。麻衣は行かなくて良いの?」
「流石に遠いからねー。今、ツアーの準備で忙しいし。悠兄の誕生日の時に、仏壇に手を合わせて来たよ」
おばあちゃんが亡くなったのは、二月末の事で、平日は仕事の都合があるので難しいので、うちの家族は農家で平日でも構わないんだけど、命日に近い日曜日にする。顔の広い人で親戚から近所の人、民謡仲間なども来るので大掛かりだ。本当は行きたかったけれど、仕事が優先なので、しょうがない。
「絵美に怒られた。このパンは杏が遥くんのために入れたらしい」
「全部、遥の分?」
「いや、そう言うわけじゃないよ。遥くんに三本あげちゃおう。これ、迷うやつだ。全部、味が違う。嘉くんは何が食べたい?」
「定番のやつ?」
「ピーナツクリームね。私は、ブルーベリーにしよう」
私が絵美とLINEのメッセージのやり取りをしている間に、嘉くんは荷物を片付けてくれた。いつもありがとうございます。味は他に胡麻クリームといちごクリーム、いちじくクリームなんて言うのもあった。色々な味が出ているのね。
「広島のご当地パンは知ってる?」
「くりーむパン?」
「あはは、まぁ、八天堂のそれもパンって付いているね。あ、そうか、気仙沼パンと似てるか。甘いパンって言う点では同じ様な感じだね」
「違うの?」
「こないださ、沖さんたち、アンデルセンに行ったって言ってたよね。そこのパンだね」
「あそこ、パン屋さんなのね」
「それと、麻衣も食べたよね。美術館行った時に。あそこのカフェもだよ」
「そんなに身近なパン屋さんなのね」
「更に言うと、俺がスーパーで買ってくるパンもだよ」
「アンデルセンって入ってないよね」
「系列が一緒で、タカキベーカリーのだね。本当は地元で食べたいんだけどね」
パンにこだわりが無かったので、気付かなかった。うちで嘉くんが出してくれる食パンはタカキベーカリーのだったらしい。ちなみに、ジャムも広島のメーカーの『アオハタ』だって言ってた。ヨーグルトも広島の企業『チチヤス』で、朝食が広島のメーカーのものばっかりだったりしていたらしい。
気付かない事多すぎて、私には興味が無い事だったんだなと気付かされた。莉子さんも昔、そうだったのかな。そう思うと莉子さん、ごめんなさい。
「そのパンね、トースターで焼いて食べると美味しいんだよ。気を付けないと中のクリームが熱くて舌を火傷するけど」
「色々と危険な食べ物だ」
うん、確かにそうだね。カロリーも高いし、いっぱい食べたくなっちゃうし、急いで食べると火傷しちゃうなんて、本当に危険な食べ物だ。
「食べ終わったら買い物に行こう」
「そうだね、少し動いた方が良いよね。今夜は何にするの?」
「さっき、箱の中身整理していた時に、見つけたんだけど、これ、何て言う魚?」
「ああ、メカジキだ」
冷蔵で送ってよこしたな、と思っていたんだけどこれが入っていたからの様だ。切り身になっちゃうと、見た目だけで何の魚か、判断つき難いよね。今年最後だからって、他に牡蠣も入っていた。そろそろ、生で食べられる時期は終わるけれど、牡蠣はこれからの時期も食べられるんだけどね。実家からの牡蠣は基本、冬場しか送ってこない。それと、生食用ではなく、加熱用ばかりだ。嘉くんのお腹の心配してくれているわけではなさそうだけど。
「メカジキはニンニク醤油で焼くのが美味しいね。牡蠣は、明日、遥くん呼んで鍋にしようよ」
「じゃあ、それで。明日は、事務所だから、買い物は今日しちゃおう。明日の分も買ってしまおう」
「私行っても良いんだよ?」
「今日中に常備菜も作っておこうと思っている。俺も三月のデビュー記念日の事で忙しくなるから、作って冷凍とかもしておきたい。麻衣も忙しいのに、無理はしないで。来週から、ツアー始まるでしょ」
「そうなんだけど、気を遣ってくれてありがとう。最近、遥くんも、忙しいって言ったばかりだったね。じゃあ、その買い物もするんだね」
「そう言う事」
今日は、午前中は、事務所でツアーのための打ち合わせがあった。これから、二人とも忙しくなるだろう。帰りも遅くなり、疲れちゃうとご飯を作る気力も無くなってしまう。なので、あらかじめ作って冷凍しておく様だ。
おやつに気仙沼パンを食べて、私たちは買い物に出掛けた。スーパーにちゃんとタカキベーカリーのパンが置いてあった。期間限定なのかな、瀬戸内レモンの食パンがあったので、今回はそれをチョイスした。
メカジキは気にしないと食べないよね。これは、牡蠣と並んで気仙沼の冬の味覚だ。ニンニク醤油で焼いたメカジキはとても、好評でした。残ったものは、粗熱を取って冷凍事行き、忙しい時に活躍してくれそうだ。
昔は気仙沼パンという名称は無く、給食でもよく出ていて、好きなパンの一つでしたね。




