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虹の架け橋  作者: 藤井桜
新婚編
145/415

本と雑多な夢の欠片



 私は読書は嫌いでは無い。学生時代も図書室から本を借りて来て良く読んでいた。目に付いた、気になったものを手に取るので、読む本は本当に雑多なものばかりだ。今、手にしているのは、(よし)くんが買って来た天文に関する雑学本だ。コーヒーを淹れてくれた嘉くんがそのコーヒーをテーブルに置いて、私の隣りに座った。



「面白い?」

「嘉くんは、面白くなかったの?」

「面白かったよ。麻衣がどうかなって思ったの」

「面白いところもある。難しいところもあるから、はっきり全部面白いかと言われると、難しいんだけどね」

「面白いところだけ読んでも良いんじゃ無いの?」

「それは、嫌かな。難しくても全部読む」

「麻衣のそれって昔から?」

「そうだね」



 目に付いたものを手に取って、面白くなくても全部読むのは昔からだ。絵美に何度もそれって面白いの? って言われる度に面白く無いって言った事もある。読んだものが知識として吸収される事は少ない。遥くんも私と一緒で、何でも読むけれど、私と違ってちゃんと知識を吸収している。嘉くんも自分が興味を持ったものだけに限るけれど、ちゃんと吸収している。私は本当に読むだけだ。まぁ、ほとんど本を読まない絵美からすれば、ずっと、ましな方なんだけどね。



「これさ、もっと分かりやすくならないのかな」

「どこ?」

「ここ」



 私の読んでいる箇所を覗き込んだ嘉くんの柔らかな髪が私の頬をくすぐる。それ、わざとですね。嘉くんの綺麗な顔が近いです。私は、読んでいた本を嘉くんの手元に持っていき、その場所を指で指し示した。特に難しい一文ではないのだけれど、意味がちょっと分からない。



「確かに別に調べないと分からないところだね。分からなければ調べながらが良いかもしれない」

「そうなるんだね。やっぱり、知っている前提の話もあるよね、うーん、もっと真面目に理科やっておくんだったな」

「俺だって、天文だから覚えているけれど、この本の中で、天文に関係ないところはやっぱり、分からないね」

「うん、でも面白いね。これ、分からないところもたまにあるけれど、基本はそんなに難しい事は書いていないからなのかな」



 嘉くんの本のチョイスは遥くんに比べると雑学系が多く、難しい事はそんなに無かった。遥くんだともっと、専門的な本が多い様な気がする。聞くと、引っ越しの際に資料になる本以外は処分したらしい。私も古い雑誌などは処分したね。ファッション系の雑誌、美月さんに勧められて、買っていた。でも、流行とかあるから、すぐに要らなくなってしまう。それと、仕事が忙しくなって、ミステリ系の小説はあまり読まなくなった。音楽を聴きながら、雑誌をめくるぐらいしかいないし、最近は他に興味のあるものが増えたしね。それと、この人のスキンシップだ。嫌いじゃないし、求められれば応じちゃう。二人だとどうしても、一人の時間が取りにくいよね。


 嘉くんの本は本棚の左上から順番に読んでいた。お願いしたのは、出来れば、本の順番を変えないでほしいとお願いした。どれを読んだか分からなくなるからね。気になって目についたもの読めば良いんじゃ無いの? って言われたけれど、嘉くんが読んでいるもの気になるじゃないですか。それと、図書館で借りるよりはずっと少ないから、適当に選んでしまうとどれを読んだか分からなくてなってしまうし、読む本が無くなるのも寂しい。ここに置いてあるのは、厳選した、資料にもなる本ばかりなはずだ。私にとっても活躍してくれそうだ。



「嘉くん?」

「そろそろ、俺も構って?」



 後ろから抱え込まれて、肩口に顎をのせられて、相変わらず構って欲しいわんこの様だ。私は、本に栞を挟むと、本を閉じた。コーヒーも淹れてもらったし、冷める前に飲んでしまおう。



「コーヒー、いつもありがとう」

「どういたしまして」



 構ってもらえたのが本当に嬉しそうだ。淹れてくれたコーヒーは今日もとても美味しい。私が淹れるとここまで美味しいコーヒーにはならないので、不思議だ。



「麻衣はどんな本を読むの?」

「何でも。昔は目に付いたものを適当に読んでいたね。学生時代は図書室から借りてくるのがほとんどだったよ」

「今でも?」

「今は仕事も忙しいし、こうして、嘉くんの本を読むので精一杯かな。ほら、歌を作る時も最近はスマホで済んじゃうからね」

「俺は出来ればそれはしたくない方なんだよね。本を読んでそれからインスピレーションを貰って書く事が多いからね」

「流石だね」

「でも、麻衣はどっちかって言うと、風景を見て詩にする方が多いよね」

「そうだね、スマホを使う理由は意味とか、この描写に合う言葉を選ぶ時に使うって事だよ。流石に辞書を開いている余裕はない」

「ああ、そう言う意味か、納得した」



 スマホが無いと困るくらいに活用している。私の場合、スマホで撮った写真もすべて、歌詞の一部だからね。でも、朝の散歩コースも時間帯も変わらないので、どれも同じ様な写真ばかりになる。なので、地方にライブやイベントに行った際に、撮った写真は貴重だ。



「ここにある本は、嘉くんの歌の歌詞たちがたくさん、散りばめられているんだね」

「そうだね」

「これからは意識して読む様にしないとな」

「なして?」

「だって、私が本を読むのは、ほとんど知識として吸収されないのよね。だから、きちんと読もうと思った」

「興味のある事だけで良いと思うけど?」

「それは、嫌だな。嘉くんと同じものを見ていたいからね」



 それは、言うんじゃなかった。言ってしまって、後悔した。嘉くんは嬉しそうに破顔して、私の首筋に吸い付いた。後は付けないで。慌てて私は、嘉くんの口元を手で押し返した。それにさえ、嘉くんは甘いキスをくれた。



 麻衣は昔から目についた本を手に取るので、たまに同じ本を手に取ったりがありそうですね。でも、知識として吸収されにくいので、不思議に思いながらもその本を読み進めて、途中で、あ、これ一度読んだ、になりそうですね。借りる段階でも気付きそうだな。

 嘉隆くんの方は、雑学以外だと、やっぱり宮沢賢治やギリシャ神話ですかね。

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