君に、似合う光
休みの日に誘われるのは、珍しい事ではない。ずっと引き篭もっているので、嘉くんはどうしても私を外に連れ出したい様だ。でも、無理強いもしない、出掛けるけれど、一緒に行く? と聞いてくれる。今日の目的は新しい服を見に行かないか、って言う事だった。私が断れば寂しいけれど、一人で出掛けるって言ってた。そう、言われると一緒に行かないっては言えない。ちょっと、ずるい。
平日とはいえ、街中を歩くので、バレない格好は必須だった。嘉くんはモノクロ系のジャケットにスラックス、中のシャツだけ少し派手目な色合いだ。私は、中は白のタートルネックのインナー、ベージュのワンピースに、いつもよりも明るい暖色系の丈の短いジャケットを羽織っている。そして、帽子を深く被っておく、それだけで少しはバレないと良いなぁ。
「何か欲しいものあるの?」
「白のインナー、それとアウターは麻衣が選んでよ」
「いや、無理。だって、嘉くん何でも似合うんだもの」
「あはは、そう言う断り方もありなのか。嬉しいな」
「そう言うつもりで言ったわけじゃない」
表情が甘くなった。いや、そうしたかったわけじゃない。私は話題を変える事にしたが、それはうまくいかなかった。嘉くんは私の手を取ると歩き出す。行きつけのお店があって、そこを目指す様だ。視線だけ外して下を向いていると、危ないよ、と声を掛けられた。
駅から路地を一本入った行きつけのお店は、意外にもカジュアル路線のお店だった。確かにエスニック風の服を前に着ていた。そんなコンセプトのお店だった。
「アウターだけ?」
「似合いそうなのある?」
「こんな感じのボトム前に履いていたなって」
「ああ、確かに。デザインがちょっと違うけれど、こんな感じの持ってるね。似合う?」
「うん、それにこのアウターも良いかも。何でも似合うからずるいなぁ」
エスニック風の服は少し派手目だけど、それさえ似合ってしまう嘉くんがいる。袖部分の布地が材質が違っていて面白い。大きさの違うボタンが付いていて、かっこいい。黒系と赤系のちょっと派手なのと二色展開だ。どっちも似合う。そして、赤も似合う事を初めて知った。赤は遥くんの色だから、あまり見ないからなのかもしれない。それに、モノクロかイメージカラーの青が似合うのもある。ボトムは膨らみのあるデザインで、エスニック風の紋様で少し派手目だ。
そして、流石、気に入ったものがあると即決する嘉くんだ、他にも色々とあったんだけど、私が良いと言ったものに決めてしまった。早くない? ボトムの方は少し派手なので、今回は黒にした様だけど、赤も気になってるみたいだ。
「麻衣は良いの? 前に来ていたアジアン風のチャイナボタンのワンピース似合ってたよね。あれは、夏物だったけど、今の時期用のものもあるんじゃない?」
「嘉くんがそう言うなら見てみる」
女性ものも置いているんだけど、やっぱり、丈と袖が少し短いかな。でも、袖は折り返す仕様になっている。丈はちょっと短くても問題ないかな。気になる様なら美月さんに相談してみる事も出来る。
落ち着いた藍色のチャイナ風のワンピース、マオカラーの襟元と袖口には刺繍が入っていて、スリット部分にも刺繍が入っている。それ以外は紫がかった藍色だ。これ、普通にジーンズ履いてもカッコいいかな。チャイナボタンは少し派手な金色の糸が使われている。
「可愛いよ、似合ってる」
「そう?」
「落ち着いた色似合うね。刺繍とボタンが派手目だけど、それがアクセントになっていて良いと思うよ」
可愛いよりはかっこいい系のデザインなのが気に入った。似合ってるとも言われたので、私も買っちゃおうかな。嘉くんの服を見に来たはずなのに私まで買ってしまった。と言うか、買ってもらってしまったが正しい。一緒に払うって言われてしまった。じゃあ、今度は私が出す事にする。この辺の夫婦のお金に関する事情ってどうなっているのかな。後で、莉子さんに相談してみよう。だって、莉子さんと沖さんもどっちも働いていて、お子さんもいないからね。参考になる。
「疲れていないなら、もう一件良い?」
「うん、大丈夫。嘉くん、服選び、悩まない方なので、助かる」
あ、思わず呟いた言葉を飲み込んで、聞かないでと視線を向けた。うん、昔、服を選ぶ事、すごく時間を掛けていた人がいる。誰って聞かなくても分かる。嘉くんは気にしないでくれたのか、私の荷物を取ると私の手を取って歩き出した。
「ごめん」
「まぁ、気にしてはいないよ。でも、麻衣の負担になっていない様で嬉しい」
「ありがとう」
次に連れて行ってくれた場所はアクセサリーショップだった。嘉くんは基本、アクセサリーを身に付ける事はない。付けているのは、結婚指輪ぐらいだ。仕事の時に耳にイヤーカフを付けている事はあるけれど、ピアス穴も開けていない。指輪もネックレスなども仕事の時だけだ。
「私だったらいらないよ?」
「ここね、アクセサリー作ってくれるの」
「嘉くん、もしかして、頼んでいた?」
「麻衣のピアス、右だけ二つ開いてるでしょ。それって、結構、気に入ったの探すの大変じゃないかなって思ってね。それと、前に杏ちゃんが手作りで贈ってたのがちょっと羨ましくてね。誕生日は、一緒に欲しいもの買ったし、それに普段使うものなら、プレゼントって言う考えじゃなくても良いかなと思った」
「でも、どうしてこのお店知ったの?」
「それは、晃が教えてくれた」
ああ、確かに、内田くんは私よりもいっぱい、ピアス穴開けている。左右三つづつは開いている。綺麗にピアスを付けるには、複数穴用のピアスは欲しいだろう。
「ここさ、オーダーでも作ってくれるけれど、複数用穴のピアスも置いてるから、見ても良いんじゃない? 気に入ったものあるかもよ」
「おお、珍しいな、いつもは二個違うデザインのがセットになっていたのを買ってたの。チェーンになっているのは、杏からもらったものだけだから」
「そうかなって思ってた。だから、晃に相談して良かったよ」
うん、お店の雰囲気は、きっと私や嘉くんは行かない類のお店だった。今日の服装だとかなり場違いな感じだ。でも、置いてあるピアスは可愛いものもあった。私の様な開け方の人もいるので、それに対応したピアスは可愛いものが多い。天然石やきらきらしたガラス、金属製のもあった。
「それ、可愛いですね」
お店の店長さんは若いお姉さんだった。派手目のスカジャンと合皮のタイトなスカート。お姉さんの手は仕事人の手で真っ黒だ。店長さんが杏の作ってくれたピアスを褒めてくれた。嘉くんが頼んだものもそれに近い感じのものだったらしい。上部のピアス部分は色付け加工されたものではあったが、ブルートパーズだ。金属製のきらきらした、虹色のチェーンは杏のものとよく似ている。下部のピアス部分はアメシストだ。反対側用のピアスはガーネットで、雫の様な、金属製の飾りが付いている。
「可愛い」
「ありがとうございます」
嘉くんが頼んでくれた、オーダーの一点もののピアスはすごく嬉しい。その他にも嘉くんや店長のお姉さんの勧めでいくつか購入した。どれも素敵だ、もう、ここでしかピアスは買えないかもしれない。
「ピアス穴はどうして、右側が二つなの?」
「初めて開けた時は左右一つづつだったんだけどね、違う事して見たかったの。それで、右だけ追加して開けたんだけど、それから、そのまま。ほっとけば塞がるって、分かってたんだけど、なんか怖くてね」
「開ける時の方が怖いものなんじゃないの? 麻衣らしいな」
嘉くんだけじゃなくて、店長さんにも笑われた。開ける時は一瞬なので怖くはなかった。開けた後で化膿しない様に注意する方が怖かった。塞ぐ時もそのままにしていると、菌が入ったりするんじゃないかって怖くなったのよね。それで、今だにちゃんとお手入れはしている。
店長さんは気さくな人だった。色々と相談にも乗ってくれるって言ってくれた。そう言えば、レーゲンボーゲンの嘉くんが来ても動じない人でした。ごめんね、って一言謝ってから、言われた。顔の綺麗な人は好みじゃ無いそうです。なので、嘉くんはただのお客さん。ちなみに、私に対しても同じ様です。好みは人それぞれだからね。私も嘉くんも気にしていません。
これで、麻衣のピアスの調達方法は確立しました。それと、内田くんの情報追加ですね。




