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虹の架け橋  作者: 藤井桜
新婚編
133/415

波打ち際に打ち寄せる白と青、空に広がる青と白

 津波に関する描写があります。ご注意下さい。



 前に気仙沼(けせんぬま)の私の実家に来た時は、南三陸町方面に出掛けた。なので、今度は反対側の気仙沼市方面に向かう事になった。今度も咲子(さきこ)さんが車を貸してくれた。ラーメン好きな(よし)くんのためにフカヒレラーメンでも食べて来ようと思っている。


 途中、嘉くんの疑問に答えてあげる事にした。前に、志津川(しづがわ)の震災遺構って私が言ったので、他にもあるの、って聞かれた。うん、沿岸部の色々な土地に残されています。ちなみに、気仙沼は水産高校の校舎です。敬兄は卒業後なので、当時は通っていなかったけれど、三年間通った思い出の高校が津波の被害にあったのは、悲しい現実だ。他にも石巻(いしのまき)市は小学校の校舎だ。



「私ね、津波には、直接、合ってはいないんだけれど、何度も夢に見るの。漁協に勤めている敬兄が津波が来る結構ギリギリまで、事務所にいたらしいの。無事に逃げる事も出来たし、うちの身内はみんな無事だった。咲子さんの実家が流されたけれど、その後、咲子さんの実家の人たちがうちの実家に身を寄せていた事もあったんだよね。その事が頭によぎるのか、夢の中では私が波に攫われるの。黒い波が襲って来て、怖くて、目が覚めて安堵する、そんな夢ばかり」

「今でも見るの?」

「最近は見ないかな。だって、幸せな夢が見れているからね」



 隣りに誰かいるって言う安堵感は、あると思う。嘉くんが隣りで一緒に眠ってくれるあの日から、津波の夢は見ていない。これからも、見ないって言う保証はないけれどね。


 悲しい話はそこで、打ち切ると、頭を切り替えた。後は、大島架橋が出来たので車で大島に行こうと思う。広島のお隣りの愛媛県にもしまなみ海道の方に大島があって、そこにある山が亀老山って言うらしい。うん、気仙沼大島にある山は亀山だ。亀山って縁起が良いからなのかな。ちなみに、大島架橋は鶴亀大橋っていう愛称があり、鶴ヶ浦と亀山を結ぶのでそう呼ばれている。



「どこ行こうかな。十八鳴浜(くぐなりはま)が良いかな」

「どんなところ?」

「砂を踏むときゅきゅって鳴る、鳴き砂で有名なところなんだけど、駐車場から砂浜まで、結構歩くのよね」

「あはは、麻衣には大変そうだ。でも、行って見たいな」

「うん、頑張る」

「無理だったら背負う?」

「いえ、それは大丈夫です。遠慮します」



 思わず、敬語になってしまった。それが、面白かった様で、笑われてしまった。大島は何年か前に朝ドラでもロケ地になった場所で、震災後は初めて来る。亀山に登るためにあった、リフトは震災で被災して、使えなくなったらしい。私にもう少し、体力があったら、サイクリングでも良かったんだけどねぇ。自転車でサイクリングするのは気持ち良さそうだ。



 流石に背負う事はないけれど、手は繋いでくれた。



「海はやっぱり、良いね」

「海は、あの日、色々なもの、大切な思い出も、物も何もかも奪い去った。でもね、それでも私たちはやっぱり、この海が好きなんだ」

「あんな、大変な事があったのに?」

「うん、海と共に生きて来た人たちにとっては当たり前の事なんだろうね。忘れるわけじゃない、忘れられない、だから、それでもこの海がある限り、人はここで暮らしているだと思うな。嘉くんは、嫌いになっちゃう?」

「いや、それでもきっと、俺も海が好きだというかもしれない。海の近くで育った人間じゃないんだけどね」

「海もあるけど、山もある土地で育ったんだ。私は海だけじゃなくて山も好きだよ」

「うん、それじゃあ、老後は広島の田舎で野菜育てて暮らそうか」

「うん、それも良いね」



 踏みしめる砂の感触も音も楽しい。石英の粒が擦れて音を出す様で、それはガイドブックで知った。流石に説明出来るほど詳しくはないし、それさえ知らなかった。打ち寄せる波打ち際を歩きながら、海を見つめる。この景色はずっと変わらない。今は打ち寄せる『rip tide』がとても穏やかだ。


 お昼ご飯にフカヒレラーメンを食べて、元来た道を南下して、水産高校に立ち寄る。震災遺構に手を合わせるためだ。観光客の人や地元の人たちが私たちに気付いて声を掛けてくれる。もう、こっちに来るって決めていたので、私の格好は、スカートではなくズボンだ。周りにいた地元の人たちに請われて『八月六日』を口ずさむ。宮城をイメージした歌詞部分は私が広島をイメージした歌詞部分は嘉くんが歌ってくれた。これは、きっと宮城と広島でしか歌わないアレンジだ。


 この歌が鎮魂歌として、空に広がり、響き渡りますように、願わずにはいられなかった。



 気仙沼市を巡るお話。震災の話題が出ているためか少し切ない話になりました。そして、震災遺構に手を合わせるのは、二度目ですね。この願いが思いが届きます様に。


 綺麗に纏めたかったので、帰りの描写はわざと無くしました。

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