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虹の架け橋  作者: 藤井桜
新婚編
117/415

空に広がる虹(sideレーゲンボーゲン)*

 過去話です。レーゲンボーゲンのデビュー後の話です。



 遥とサポートメンバーの三人は無事に卒論を終わらせる事が出来た。近くでその様子を傍観していただけだが、嘉隆(よしたか)もほっとした様だ。これで、判定をもらえれば、卒業出来る。そのタイミングで、『rip(リップ) tide(タイド)』の社長である荻野(おぎの)里美が声を掛けて来た。纏められた資料を嘉隆と遥、サポートメンバーに配ると話し始めた。



「夏休みは何か、予定はあるの? 夏休みは九月からだったかしら」

「バイトも辞めたんで、特にはないっすね」

「そう、それなら、良かったわ。突然なんだけど、直ぐにでも、パスポート持っていなかったら取りに行ってもらえる? 嘉隆くんは、地元に行かないと無理よね」

「戸籍謄本必要ですね」



 住民票は東京に上京した時に移していたので、住民票だけなら、東京でも取れるが、流石に戸籍謄本は無理そうだった。しかし、何故パスポートが必要なのか、それは渡された資料に纏められていた。サポートメンバーの三人にも渡されており、三人はハイタッチで喜び合った。



「え、ドイツ?」

「せっかく、レーゲンボーゲンって言う名前なんだもの。セカンドアルバムはドイツでジャケット写真を撮りましょう」

「うわ、海外、初めてじゃけぇ、ぶち嬉しい」



 遥はこれまでに二度ほど海外に行った事があると言う事だった。更新も必要無かったので、パスポートを取りに行くのは、サポートメンバーの三人と嘉隆だけだ。嘉隆は実家に連絡を入れると、次の日には地元に戻って行った。流石に蜻蛉返りはせずに実家に一泊してくるという日程になった。

 ちょうど、お盆シーズンなので、実家に戻るには良い時期だ。もう少し居ても良いのにと言う遥の言葉に、行っても色々と詮索されるのが、嫌なので、お墓参りだけして直ぐに戻るって言う事だった。主に実家の近所に住む姉に会いたく無い。



* * *



 九月始めのドイツは夏でもそれほど、暑くはなく、湿気も日本ほど多くはない様な気がする。パスポートの申請に国際免許の取得にと、準備は大変ではあったが、ようやく、ドイツに来る事が出来た。

 滞在期間は二週間ほど、その間に、ジャケット写真の撮影と曲作り、出来ればレコーディングも二つくらい終わらせておきたいという、大変な過密スケジュールだった。夏で、天候も変わりやすいので、虹の出現率も高そうな時期を選んだのは、彼らがレーゲンボーゲンだからだ。


 スタッフは監督を務めてくれる永井さん、スタイリストの長谷(はせ)さん、通訳のヒルダさん、カメラマンの小島さん、それと、レーゲンボーゲンのマネージャーの沖さんだ。レコーディングの方は、プロデューサーの高梨(たかなし)さんがいる。他はヒルダさんを介しての現地の方にお願いしている。レコーディングに関しては日本語を話せる人がいたので、問題なく進められた。



「うわ、左ハンドルじゃけぇ、こわー」

「嘉、嘉、声に出てる。それに、どんだけ、テンション上がってるんだ」



 用意された赤いビートル、これを運転するところを撮影する様だ。そのために、国際免許を取らされた。嘉隆は怖いと言いながらもどこか楽しそうだ。遥は免許を取って、二年、東京にいるとそれほど車を運転する機会も多くないので、今回は嘉隆が運転する事になった。

 高校三年の冬に免許は取らされた。地元では免許が無いと不便だ。地元にいる頃は毎日運転していたし、上京してからもレンタカーを借りて、ドライブする事もあったので、遥よりは運転が上手だ。


 ただ、想定外だったのは、嘉隆は運転の際に眼鏡を使用しないと運転が出来なかった事だ。まぁ、それも、いつもと違った嘉隆を見せる事が出来るので、プラスになってもマイナスになる事はないので、そのまま撮影される事になった。



「車載カメラの位置は問題ないね。車通りも多くないし、少しドライブして来て」

「じゃあ、行って来ます」



 もっと、慣れたら、市街を走る事も検討されていた。ドイツらしい街並みはやはり、撮っておきたかったらしい。もちろん、徒歩で散歩する場面も撮っているし、後でメイキングにするつもりなので、写真だけではなくビデオも撮る事になっている。そっちは、和気藹々とした場面を撮りたいので、サポートメンバーも一緒だ。


 サポートメンバーも気になって見に来ていた。本当は、スタジオで音合わせして欲しかったのだが、初めての海外だ、ずっと篭りっきりでも可哀想だ。今回は、サポートメンバーはいつもの三人、荘太郎(そうたろう)(あきら)(たすく)それとコーラスに事務所の年下の先輩である佐藤愛夢(あいむ)が一緒に来ている。相変わらず、嘉隆にちょっかいを掛けている。



「いいな、俺も後で載せてもらお」

浅生(あそう)さん、赤、微妙に似合わないよね」

「遥イメージだからね」

「カープファンだったよね。好きなのに似合わないって不思議」



 あはは、愛夢の容赦ない口撃にゆっくり走り出した赤いビートルを見送って、荘太郎は楽しそうに笑う。青いビートルの案もあったらしいが、空と色が被るのでやめたらしい。赤の方がはっきり主張出来てメリハリもあって良い感じに撮れるって、流石、小島カメラマンだ。



「嘉には何度か乗せてもらったけど、運転上手だよ」

「左ハンドル怖いって言ってたのに? 道路も日本と違って反対じゃん」

「ちゃんと、意識して走っていると思うよ。愛夢ちゃん、免許持ってたっけ?」

「ううん、持っていない」

「そっか、なら、ちょっと分からない事かもしれないね。運転する時は緊張感持って運転するし、安全は第一に考えるから、大丈夫なんだよ」

「中山くんもそうなの?」

「嘉ほど運転する機会多くないけれど、そう思いながら運転してるよ」

「ごめんなさい」

「聞かなかった事にするよ。なので、嘉にも言わないでね」

「うん」


 ちょっと、不謹慎だったなと理解した様で、愛夢なりに反省している様だった。そんな、二人の会話を少し離れていたところで聞いていた、佑と晃の二人は「荘太郎(そうたろう)の前では可愛いよな」と言う晃の呟きに佑も同意した。

 そのうち、辺りを走って来た、嘉隆と遥が戻って来た。随分と運転に慣れた様で、側から見ていてもすごく楽しそうだ。今回、国際免許を取得したのが、嘉隆だけなのが悔やまれた。

 まぁ、日本でもそのうち、ビートルを運転する機会があるかもしれない。いつも冷静な遥のテンションもかなり高く、「金貯めてビートル買う」って言っている。この赤いビートルがすごく気に入った様だ。



 レコーディングも曲作りも、思いの外、捗っていた。見知らぬ地に来たためか、日本とは違った出会いがあり、それがインスピレーションが湧く事に繋がり、プロデューサーの人からも良い反応を貰えた。セカンドアルバムのタイトルに決まった『ヒンメル』と『ダンケ』のドイツ語の二曲は、それほど時間が掛からずに完成させる事が出来て、音合わせと調整を繰り返して、レコーディングが進んで行った。これに、二枚目のシングル曲で先日発売されて、大ヒットした『夢のカタチ』もアルバムアレンジで再録音された。

 レコーディングの様子も撮影された。仲良くあーでも無い、こーでも無いと議論しながらの楽しいレコーディング風景だった。そして、面白い事に差し入れのバームクーヘンのほとんどは遥のお腹の中に消えた。


 ただし、流石に虹は中々、見る事は出来なかった。急激な天候の変化はあるが、雨は降っても虹は出ない。カフェやホテルで待機を繰り返す。

 その間、食事をしたり、嘉隆は作詞をしたり、本を読む事もあった。息抜きに散歩もした。残りの日程が後二日ほどになった午後、カフェでランチの後に遥は紅茶とチーズケーキを口に運んでいた。そして、日本から持参していた文庫本を読んでいた。遥の前に座る嘉隆は窓の外を眺めながら、たばこを吸っている。

 突然の雷雨に待機していたスタッフが慌てて、動き出す。遥が太陽の位置を確認して呟いた。



「もしかしたら、虹が出るかもしれない」

「あ、古川さん!」



 少し離れた場所にいて、カメラに入らない位置で待機していた、愛夢が叫んだ。彼女の指さす方角に虹が出ていた。慌ててカフェを飛び出して、小島カメラマンとスタッフが手際良く撮影を始めた。すごい、統率の取れた連携に遥は思わず笑う。その後、無事に虹と一緒の写真は撮る事が出来た。

 そして、ドイツで見た綺麗な虹はこれからも忘れないだろう。



 日本に戻っても忙しい日が続くが、二枚目のアルバム『ヒンメル』は、次の年の三月に無事に発売された。そして、遥とサポートメンバーは無事に大学を卒業したのだった。



 年末の歌合戦はデビュー曲の『空に還る』で二年目はロングヒットになった『夢のカタチ』で出ています。セカンドアルバムとドイツの事の過去の裏側のお話を掘り下げて見ました。

 虹の出現条件も遥くんなら知ってそうですね。

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