083話:言ってみたかった
「知らない天井だ。」
なんとなく言ってみた。
ちょっと言ってみたいけど、なかなか言えるシチュエーションってないよね。
「元気そうですね。」
聞き覚えのある女性の声がする。
声に呆れを感じるぞ。
あ、声だけじゃなかった。
俺の寝ていたベッドの横には、呆れ顔を隠そうともしないマナさんがいた。
黒の上下に、白衣のコート。
目覚めに呆れ顔の美女・・・なんか新しいチャンネルを開きそうです。
「あ~、おはようございます?」
あれ?今この受け答えで良かったんだっけ?
まだ俺、寝ぼけてるのかな。
「お久しぶりです。」
マナさんが呆れ顔から優しい微笑みに変わった。
営業スマイルアザッす。
なんか怖いのは気のせいだよね?
「で、何があったんです?」
にっこりとほほ笑む笑顔がやっぱり怖いです、マナさん。
そんなキャラでしたっけ?
でしたよね・・・。
これ、たぶんそうとう怒ってる時のマナさんだ。
マナさんの怒りゲージは、ほほ笑み、無表情、不機嫌と移っていって、最終形態がこれ、笑顔なのに怖さを感じるこの状態・・・。
俺、また死ぬ?
いかんぞこれは、危機回避能力をフル稼働させて得た結論。
それは、とりあえず全部話しちゃえ、だった。
「いやまぁ、気が付いたら真っ暗な場所にいてね、丸い悪魔が」
「そっちじゃない。」
食い気味に否定されました。
何か違った?
どうやら俺の危機回避能力依然に危機察知能力がポンコツだったらしい。
・・・。
俺、何について怒られてるの?
俺の表情一つで理解してくれたらしい、マナさんの重く長いため息が・・・。
「何でここにいるか理解できてる?」
軽蔑と言ってもいい表情で見下ろしてくるマナさん・・・これはこれで・・・いかん、そっちの扉を開くわけにはいかん。
「アオイにグーパンされた?」
顔面への強烈な衝撃、無警戒だったからモロに脳が揺れた。
いいストレートだったな。
「で、その理由は?」
と、いうことで、アオイを見つけたところからを話す。
う~ん、なんか思い出してきたぞ、凄く苦労してたみたいだし、あの棒読みな誉め言葉はダメだったか?
「やっぱり、もっと刀のこと褒めればよかったよね。
なんか、びっくりしてイントネーションもおかしかった気がするし、小馬鹿にされたとか思っちゃったかな。」
マナさんや、なんで「はぁ~~~っ」なんて大きなため息をついて上を向いちゃうの?なんかまた間違ってた?
実はあの製法だと、できるのは日本刀じゃないんだよ、なんて言わなくてよかった。
「あの時、シンさんがデモンエイプに倒されたとき、一番最初にシンさんのもとに駆け付けたのがアオイだって覚えてます?」
ほへ?
首をかしげる俺に、
「全然カワイくないからやめてください。」
と冷たく言い放つマナさん。
やめて!変な扉が開いちゃう!
なんておふざけはやめといて、なんでアオイが?
「いやちょっと待って、アオイはあの時確か、ユーキ達と一緒にスパイっぽい人を監視してたはずだよね。
たしか、ユーシンが駆けつけてくれたところまではうっすらと覚えてるけど・・・たぶん俺、その瞬間に死んだんだと思うんだよね。」
あれ?
今度は、手を額に当てて下を向く。
考えこんじゃったよ。
またまた何か間違えた?
「はぁ・・・分かった、いろいろと行き違いがあるのね。」
そうして、マナさんの授業が始まってしまった。
「シンさんがが死ぬ前に、アオイはユーシンのために刀、とはちょっと言い切れない出来だったらしいけど、それをなんとか仕上げて、届けるために飛び出したらしいの。」
うん、だからアオイがユーシンといたってことね、了解了解。
「持ち場の敵を倒した後、最後の一匹をスロークに任せてユーシンはシンさんの元へ向かったんだけど、ユーシンのケガがかなりひどくて移動中にポーションをほぼ使い切ってしまったって話よ。
ついて来ようとするアオイを、危険だからと追い返そうとしたみたいだけど。
あの子も頑固だから・・・で、せめて怪我を治せと言われて、アオイはついて行くために渡された最後のポーションを使ったそうよ。」
「アオイが怪我?刀を届けただ」
「そこはいいの。」
また食い気味に・・・
「で、シンさんが殺された瞬間?彼女たちにとってはまだシンさんは死んでなかったんだけど、その瞬間を見てしまったの、ここまではいい?」
はい、了解です。
の意味でうなづいた。
なるほど、俺の死に姿がグロくてトラウマになったと、で、俺を見た途端フラッシュバックしてジェノサイドモードが発動したってことかな?
「そうか、俺はアオイに顔を見せちゃいけなかったんだな・・・。」
ってつぶやいたら、死んだ魚のような目で呆れられました。
「しばらく黙って話を聞きなさい。」
そして思い出したように、
「あ、正座ね。」
マジすか。
素直に従うけど。
「ユーシンはエイプに向かって行って、アオイはシンさんの元へ駆けつけたの。
何とか助けようとしてポーションを探したけど、なぜかシンさんはみんなにポーションを配ったくせに、どういうわけかシンさんは持ってなくて、まだ助けられるはずだと思っていたアオイはひどく慌てたし、自分を責めたそうよ。」
いや、自己回復の手段は別にあったしね、なんて言ったら怒られそうなので口チャック。
「なんで自分を責めるのさ?アオイは何も悪くないだろ。」
「そうね、全部シンさんが悪い。」
あぁ、笑顔が怖いです、マナさん。
「自分がポーションを使わなければシンさんが助かったと思い込んでるのよ。」
あぁ。
そういうこと?ってことは・・・。
「正解は、心配かけたね。だった?」
「10点。」
採点厳しいです。
「でもでも、オヤカタたちの話だと、俺の復活には気が付いてるはずだって・・・」
「それも問題だったの。」
で、話を聞くと、元々俺の体はスロークの第三貯蔵庫に保管されていたという。
けど、復活の魔法リザレクションを覚えるためにスロークは転職しなければならない。
そうすると、長期間第三貯蔵庫が使えなくなり、中に入っている遺体がどうなるか分からない、時間停止だから問題ないだろうとは分かっていても、中に遺体を入れておくという経験は無いし、万が一ってことが無いとは限らない。
だって、一時的にスロークも弱体化するわけで、その上でレベルアップをするなら、命を落とす可能性も、ということで、なかなか転職が実行できなかったと。
そんな中、サンサテに来る興行団(犯罪集団)がワタリビト(プレイヤーのことをそう言うことにした、とこの時初めて聞いた)を捉えて見世物にしていたことが判明、救出するついでに組織を壊滅させたと・・・なるほど、これがサンサテで聞いた正義の味方的行動だったんだな。
で、救出して仲間になったミサの能力で遺体を保管できることが分かったので、俺の死体を移動しようとしたと。
でもその時に、急に俺の体が光って消えてしまったと。
あぁ、きっとその瞬間が、俺が丸悪魔の部屋から扉に入った時だったんだろうな。
そんなことは分からないスロークたち、突然消えてしまった遺体。
もしそのことをアオイが知ったら、ただでさえ精神的に不安定なのに、心がどうなってしまうか分からない、ということで、ミサが遺体を保管することに怖気づいてしまったってことにして、ごまかしつつ引き延ばしていた。
移住後の住民たちのサポートで忙しい中、少人数で探そうと奔走したけど手掛かりすらつかめず。
時間だけが過ぎて、次第にアオイがミサに強く当たるようになってしまった。
ごまかして引き延ばすのも限界と判断。
この時、トウリョー達の言葉が流暢になっていることで、確信はないまでもアオイを安心させる材料として俺が復活した証に仕立て上げたらしい。
ぶっちゃけ、実際にその時おれがこの世界に復活したんだと思う。
丸悪魔が最後に告げた言葉、「時間がかかる」ってこんがこのタイムラグを指すと知ったのはつい最近だ。
俺は復活したとアオイに説明した、しかし、俺はいない。
苦し紛れに、俺は突然どこかに行ってしまった、と言うことにしたらしいけど・・・
「無理すぎだろ?それ。」
あ、つい口に出ちゃった。
「私もそう思ったんだけどね、アオイは疑いもしなかったらしいの。
それだけ思い詰めていたんだと思う。」
今度は睨まれちゃった・・・そこんところ、俺悪くないじゃん。
「シンさんが復活したって事に、思考力が全部持って行かれたのよ、それだけアオイが心配して、追い込まれていたってこと、理解してる?」
う・・・
「まぁ、さすがに時間がたてばおかしいと思い出すからね。
素直に帰ってきてくれていればいいのに、奇麗な女性と同棲してたんだって?」
は?
あ、そうか、あのクソ悪魔、いい加減な情報流して面白がってんな!
俺が慌てて事情を説明しようとしたら、
「それはみんなのいる前で、今はしっかり反省する方が先でしょ。」
あう・・・
「だんだんアオイに不安定さが出始めてきたころよ。
スロークが悪魔を呼び出せて、シンさんが本当に復活していることと、女性と同棲していたこと、国外に脱出するところだってことを聞き出したの。」
いやだから、同棲ちゃうて。
「アオイにも事情を説明して、スロークともどもアオイに謝罪をして許してもらったけれどね。
それでもあの子は、シンさんの無事をその目で確かめたかったんでしょうね、サンサテへ行くときは必ず同行していたし、そうでない日も、一日に何度も街道に出向いていたし。」
あぁ、トウリョーの最後の一言は真実だったんだねぇ。
いや、だったらもっとちゃんと言っといてくれよ。
あ、余計なのがいたから言えなかったのか、酒入ってたし。
う~ん、難しいです。
家系的に長生きできない前提で生きてきたから、俺、若い時からあまり深く人と付き合ってこなかったんだよね。
特に異性との付き合いは、社交辞令か仕事の付き合い以外したことが無い。
異性の友達なんて一人もいないし、彼女いない歴もうじき50年(生まれた時から)だもの。
得意じゃないどころか苦手なのよ。
なんて言えば正解だったの?
悩む俺を置いて、マナは言いたいことだけ言ってさっさと出て行ってしまった。
せめてヒントを・・・。
一人で残されてしまったぞ。
うん、困ったな。
マジ、なんて言えばよかったんだろう。
レベル上がって知識と知恵が上がったらわかるのだろうか。
そもそも、俺はこんなにアホだったか?
知識や知恵のステータスに影響受けてるにしてもなぁ・・・分からん。
とりあえずもう、顔面グーパンは嫌だぞ。
何とかひねり出せ。
と一人悩んでいると、外からバタタタタッて音が聞こえた、と思ったら、勢い良くドアが開かれた。
「シンさぁ~ん!」
ユーシンが飛び込んできて、強烈なタックル&ハグ。
だから、出ちゃうって・・・内臓的な何かが。
つぶれたカエルのような(聞いたことは無いけど)呼吸音に気付いて慌てて離れるユーシン。
続いてユーキやソンチョー、スロークにライアーとやってきて、狭い室内が一気に男臭くなってきた。
とりあえず再会を喜びつつ、真面目なスロークは謝罪までしてくれた。
まぁ、そのおかげで丸悪魔から貴重な話を聞き出すことができたわけだし、結果オーライってことで。
で、俺のこととかは改めて夜にでも、ってことで、カタオカたちのことをざっと説明した。
彼らは今、とりあえず宿泊所で旅の疲れをいやしてもらって、詳しい話は俺を交えてってことになっているそうだ。
「200・・・。」
うん、びっくりだよね。
「住宅は問題無いと思うんだよね、キタガワ氏の能力で簡単に作れるし。
まぁ、色々難しいと感じたら断っちゃった方がいいと思うけど、話だけは聞いてあげてほしいんだ。」
こちらとしては受け入れなければならない義理は無いし、最悪次の手も思い浮かんじゃってるしね。
しばらく考え込んでいたソンチョー達。
「クリフトにも相談したいから、面会は明日にしてもらおう。」
どうやらスルースキルを発動したらしい。
夕食後に移住を頼みに来たカタオカ達以外、ワタリビト全員で集まって話し合うことになった。
現在俺は浦島太郎状態だし。
みんなにも話さなきゃならないことがいっぱいあるし。
アオイにも・・・だれか対策を教えて!
**
「で、シンさんも帰ってきたし、これで心置きなく凸れるな。」
「う・・・。」
診療所を出たところで、ユーシンの真後ろに立ったユーキが圧をかけてきた。
「・・・いや、もうちょっとあいつが落ち着いてからさ、」
「おまえ、そんなヘタレたこと言ってると永遠に告れないぞ。」
ユーキの顔が見れない。
ユーキには完全否定されたけれど、もしアオイの気がシンさんにあるのなら、このタイミングはなんだか卑怯な気が・・・
「おまえ、まだシンさんに気があるんじゃないかとかくだらないこと考えてない?」
・・・図星である。
「それ、ただの言い訳だぞ。
ビビッて告れない言い訳にシンさんをダシに使うなんて、どんだけヒキョーもんなんだよ。」
「な、んなわけあるかよ!」
自分でも意識していなかった確信を突かれて動揺したユーシンは、顔を真っ赤にして振り返り、
「これから行くつもりだったんだよ!」
と心にもなかった言葉を吐き出してしまった。
引くに引けなくなりつつも、結局夕食までの数時間をウダウダと過ごし・・・。
「だから言ったろう。」
食堂にやって来たユーシンとアオイの様子を見たユーキがポツリとつぶやいた。




