080話:会議
取り調べの後ミリアは現在個室に軟禁状態。
プレイしていたというゲーム、バステールオンラインて、確かPVP重視のMMORPGだったはずだ。
クラスはパラディン、いわゆる聖騎士ってやつだ。
PVP重視なんて、いかにも殺伐としていそうだし、俺はプレイヤースキルが大きなウエイトを占めるゲームは苦手だったので、名前くらいしか知らない。
それよりも、ファンタズマフォールというMMORPGまでセカンドゲームとして解放可能な、拉致直前6時間以内にプレイしていたらしいってことが問題だ。
ファンタズマフォールは確か、戦術ストラテジー要素の強いゲームだった。
自分を含めた複数のキャラを駆使してダンジョンや遺跡などを攻略していき、自軍を強化していく。
で、各地に決められている拠点や砦、城なんかを奪い合う。
これもPVP要素の強いゲームだ。
このゲームも情報誌で読んだ程度の知識しか知らないけれど、戦術ストラテジーなら今回の戦いでセカンドゲームとして解放されなかったのか?
騎士団の団長になった時点で条件を満たして解放されていてもおかしくなさそうだけど。
怪しい。
すでに解放していたらあまり意味ないのかもしれないけれど、一応キタガワ氏には注意するように伝えてある。
備えあればってやつだ。
未開放ならセカンド解放条件は絶対に知られないようにしないといかんよってことも念押ししておいた。
なんせ、ゲートキーパーという厄介な職業だったって言うんだから。
ファンタズマフォールでのゲートキーパーは確か、転移系の魔法を駆使する職業だったはずだ。
戦術マップ上で特定の施設を建設すると、味方部隊をその施設まで瞬間移動させたりできる、制限も多いけれど便利な職業。
と、記憶している。
(味方になるならとても助かる能力だけど、当然敵対すれば非常に厄介だよな。
30人程度部下が合流するようなことも言っていたし、内部に入り込んで一気に制圧とかって・・・まぁ、俺部外者だし、あんまり心配しすぎるのもなんだけど。)
捕虜の処遇については村の面々にお任せするとして、こちらとしては貰うもん貰ってみどり村に戻りたい。
貰うもん・・・・
あるのか?
(う~ん、金は無理だよなぁ、経済格差がなぁ。)
そんなことも含めて話し合いを行う場に向かっているんだけれど、要求できそうなものがあまりない。
これは、大幅赤字の予感だ。
**
事前に村人間での話し合いがあったようで、全員がこの村からの移住を承認したらしい。
治療は済んでも、長期間ベッドにいたことや、ポーションで命を長らえていた状態のヒトもおり、いまだに約半数がベッド生活。
動けるものが一人ひとり確認して回ったそうだ。
広いホールに、異世界組(なんでか知らんけど捕虜のミリアまでいる)が勢ぞろいだ。
俺とウシオが入室すると、一斉に視線が集中した。
(あ、俺たち最後?早めに来たはずなんだけど。)
学生時代含めて数十年の生活で5分前行動がこびりついていたのに、最後だなんてちょっとショック。
「やっぱり、シンさんの所属する村に合流することを目指したいと思うんです。
できれば、交渉の仲介をお願いできないでしょうか。」
話し合いが始まって早々、キタガワ氏からの提案は予想通りのものだった。
「仲介ねぇ・・・悪いんだけど、話はしてみるけど、ひょっとすると俺、恨まれてるかもしれないんだよね。」
「はい?」×20
俺の反応に、みんな見事なハモりで返してきました。
お見事!
ということで、これまでの経緯をざっと説明した。
ただ、ミリアという不確定要素がいるので俺が死んで生き返ったって話は伏せて、クソ悪魔の手違いか嫌がらせで俺だけ初期化された、ということにした。
もちろん、事前にウシオにはこう話すからって伝えてある。
「ってことでね、もし俺の貯蔵庫がリセットされたんだとしたら、その中にあった資材を使っていた村は大惨事になっているかもしれないんだよね。」
「それ、笑って話すことじゃないんじゃ・・・。」
あっけらかんと話す俺に呆れたようにカタシナがつぶやいた。
そう言われても、今更どうしようもないし、笑うしかないんだよなぁ。
「とりあえず案内と紹介はするけど、俺の仲介は当てにしないでね。」
しっかり予防線は張ったぞ。
最悪、俺が間に入ることで決裂したとしても責任はとらないよ。
ちゃんと伝えたんだし。
「とにかく、使者を送って交渉しよう。
こちらは、全員が旅に耐えられる程度に回復し次第、使者の回答を待たずに発つ。
どのみちここにはいられないからな。」
キタガワ氏の発言からすると、どうやら俺たちが来る前に彼らの中で話し合いが進んでいたようだ。
で、使者を誰にするかって話になると、キタガワ氏とミリア以外の全員が手を挙げた。
「食事は各自で用意してくれ、俺の方は提供できないから。」
彼らの裏の目的を察知した俺は、間髪入れずに先制攻撃しておいた。
ハッキリ言って、貴重なエイルヴァーンの食料をこれ以上振る舞う気はない。
この先制攻撃で、彼らの意気もだいぶ削がれたようだけれど、それでもカタオカ、キチセ、エグチ、アラキ等希望者は多い。
俺からの提供がダメでも、いち早くみどり村に付けばそこで食事がってことに気がついた食いしん坊共だ。
「この村の守りはどうすんのさ。」
と、追撃を加えた。
移住で大所帯が移動するんだから、道中の護衛は多いほうがいいんだし、使者なら一人で十分だ。
俺だって何人も連れてゾロゾロなんて嫌だぞ。
「使者についてだが、カタオカ君に任せたいと思う。」
いつまで経っても決まりそうになかったので、ついにキタガワ氏が動いた。
「そもそも、彼がシンさんを連れてきてくれていなければ、今頃僕たちはこの世にいないだろうしね。」
「いや、元々こっちは負けるつもりで来ていたんだから、そいつがいなくてもあなた達は死んでなかったけど。」
せっかくまとまりそうだったのに、空気を読まない捕虜が余計なことを。
「残念でした、シンさんが来なければ、伝染病で何人も死んでいたし、私とキチセ、ゴブリンやコボルト達以外は戦えなかったから、あの状態の騎士たちにも負けていたと思う。」
すかさずカタシナがフォローに入ってくれた。
さすがにそれ以上いちゃもんをつけられなかったのか、みんなに聞こえるくらい大きな舌打ちをすると、そのまま黙ってしまった。
結局、使者としてカタオカとゴブリン5人が俺達に同行することになった。
「あぁ、ミリア、君もカタオカの護衛として行ってくれ。」
「はい?」 「なに!」
腹立たしいことに、俺と捕虜が全く同じタイミングで声を上げてしまった。
「無事カタオカがみどり村で交渉できて、再び僕たちと再会できたら、君とこれから合流するという連中も捕虜としてではなく同じ仲間として受け入れよう。」
「嫌です。」
意思表示はちゃんとしましょう。
夜寝れない、前を歩けない、精神衛生上非常に良くない。
エグチに対する印象を少しでも良くさせようと思いっきり"鞭"やったから、俺に対して敵対心むき出しなミリアと行動なんて、まさに自殺行為だ。
ハッキリと拒絶したけど、結局押し切られてしまった。
間に挟んだ休憩中に、キタガワ氏とエグチから頼みこまれてしまったからだ。
「お願いします、あの人、もう一度戦おうってしつこいんです。
あの時はシンさんのサポートのおかげで命拾いしましたけど、間違いなくあの時死んでたと思うんです・・・正直あの人怖くて・・・。」
「エグチさん、そのことも話してるみたいなんですけど諦めないみたいで。」
二人の表情に深刻さを感じてしまって、断り切れなかった。
「ありがとうございます。」
心底安心した表情で言われちゃったらもう、後には引けない。
道中はフブキから離れないようにしよう。
続いて俺に対する報酬の交渉に。
「シンさんには、貴重な薬をいただいただけでなく、我々の生活においても、戦いにおいても非常にお世話になりました。」
生活においても、っていうところでアラキが大きくうなずいていた。
ピンクの怪獣姿はさぞつらかったことだろう。
「問題は、恩に報いるだけの金銭がないってことです。」
申し訳なさそうに告げたキタガワ氏。
うん、わかってた。
「サンザとの経済格差もデカいし、通貨も違うからな、この村の全財産を渡したところで、ただの粗悪な金属以上の価値は無いだろうしな。」
そう言ったトノウチは、移住後の生活を心配していた。
この国の通貨は通用しない、鋳つぶして金や銀、銅として売ろうにも、不純物が多く含まれるこの国の粗悪な貨幣は価値がない。
移住したとしても、これだけの大所帯が食べて行けるのかと心配して、最後まで他国への移住を渋っていた。
(多分、彼が一番現実的に物事を判断できるんだろうな。)
ゼロから村を作ってきたという実績が、移住しても何とかなるという希望の原点になっているんだろう。
ただ、最初からこの人数で村を作ってきたわけではない。
数人から始めて、生活基盤が出来上がる頃から住人が増えてきたわけだ。
いきなりこの人数でゼロから立ち上げ。
せめて、移住先が確立しているならまだしも・・・。
(これは、ソンチョーが受け入れを断ったら積むな・・・いかんいかん、部外者の俺が村の運営にかかわることをつべこべ言っちゃいかんよな。)
とにかくまずは、俺がいただけそうなものの確認からだな。
彼らから出せそうな物のリストを受け取ってみてみたけれど、やはりこの世界に元からある物、金銭や資材、食料などに使えそうなものは無かった。
次に能力で出せる物のリストを見てみた。
村づくりを優先していただけあって、高レベルの物があまりない。
期待していたコンビニ商品も、村運営のためにチュートリアルから出ていないということで非常に残念な品揃え。
それでも、いろいろと思案してこの程度が限界だろうなってところで手を打つことにした。
キタガワ・ミニチュアガーデン ジオラマアイテム
和風建築物の元(設置前はカプセルトイのような形状になっている)5種
大型倉庫の元5棟
オオノ・コンビニ覇道 商材
ポテトチップス大袋10袋入りを10箱
ボールペン・シャープペンシル(&芯)・鉛筆・ノートなど文具類多数
トノウチ・鉄魂 資材
ライフル10丁
弾丸(散弾含む)1000発
カタシナ・レイクルオンライン アイテム
ポーション・ローポーション類20本
フカセ・武器屋さん 武器防具
一般低級武器・防具類各種
コバヤシ・激闘まんが道 コミックス
コバヤシ作漫画20冊
最初はコンビニの商品永久無料なんて話が出たんだけどね、それって、みどり村への移住が許可されなければ意味ないし、負担が一人に集中しちゃうしで良くないからってNGを出した。
和風建築物は、いずれ何かに役に立つかもって言う程度で。
ライフルや弾丸は、ウシオや警備兵に使わせてもいいと思って。
武器防具は低級の物だけれど、強化してから警備兵の装備品にしてもいい。
漫画はいろんな種類があったけれど、俺以外にも需要有りそうだと思って一話完結ほのぼの系を選んだ。
後は消耗品各種。
こんなところで満足するしか無いだろう。
材料がエイルヴァーンオリジナルの植物だから、もうつくれないことが確定している万能薬の対価としてはかなりかすんでしまうけど。
改めて病気の治療って、PCやコンシューマ機のゲームではほぼ存在しないんだよな。
”キュアディジーズ”とかって名前の魔法が記憶の中にあるけれど、確かあれはテーブルトークRPGだったはずだ。
PCもコンシューマ機も使わず、複数人が紙とサイコロを使って対話しながら行うゲームだ。
なので、イベント用の薬ではあったけれど、病気に効果のあるアイテム自体が非常に貴重だった。
何とか作れるようになればいいんだけどな。
なんて考えているうちにウシオの方も決まったらしい。
あまり役に立てなかったから報酬はいらないなんて言い出した時は焦ってしまった。
お人好しの塊みたいな男だよ、まったく。
命を懸けたのに報酬いらないなんて、絶対にダメだ。
自分の安売りは、いつか自分の首を絞めることになるからときつく?叱っておいた。
で、結局ウシオはカタオカの発掘ダンジョン王国ダンジョン産農作物の芋20Kgを受け取ることにしたようだ。
日光に当てなければ日持ちもするし、みどり村に戻った後家畜のエサにもできるし、という理由だそうだ。
とりあえずは報酬も決まったので、ここで俺とウシオは退席。
村の面々は、その後も今後のこととかの打ち合わせや相談で深夜遅くまでかかったそうだ。
さて、ようやくみどり村に戻れるかな。
なんかすごく長かった気がする。