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076話:接敵

 「敵襲!」

 いきなり上がった叫びに、疲弊しきった黒犬騎士団は一気に浮足立った。

 話が違う。

 黒犬騎士団の中でも古株になる小柄な男は、焦りと同時に諦めに近い感情を抱いた。

 悪い予感はしていた。

 その理由。

 今回は異例が続きすぎていたからだ。

 まず、いきなり団長が代わった。

 彼らに押し付けられるのは汚れ仕事ばかりではない、正規の騎士団には任せられないほど危険な任務も多く、団長が交代することは過去にも何度かあった。

 が、今回は違う。

 切り殺されての交代。

 しかも、直前に突然編入してきた女に手を出そうとして返り討ちにあって、ときた。

 知る限り、こんなに無様な交代劇は記憶にない。

 その後もおかしなことは続いた。

 団長を切り殺した張本人が新たな団長にすげ代わった。

 それだけ突出した実力があったし、異を唱えた何人かが切り殺されてからは表立って反抗する者も出なかった。

 普通なら、まずは部下の不満を和らげる事から始める。

 俺なら、適当な集落でも襲って好き勝手やらせる。

 それで不満もあらかた解消される。

 任務中は、相手を選びさえすれば犯罪も黙認される。

 それがあるからこそ、黒犬騎士団は貴族どもの薄汚い命令に従ってきたのに、あの女はそれらの"うっぷん晴らし"も完全に禁止した。

 当然というか、今思うと、まるでそれを誘発するためだったとしか思えないが、反乱がおこった。

 その反乱もあっけなく終わった。

 まるで、全てがあの女の描いた筋書き通りに進んでいるようだった。

 俺も、自分を守るためにこの手で仲間だった男を切った。

 これまで数えきれないほど殺してきたが、殺した後こんな思いをしたことは無かった。

 その後も、休みなく行軍を続けさせられた。

 進行速度が遅くなることは問題にされなかったが、休むことは許されず、ごくわずかな睡眠だけで、食事も歩きながらと言う過酷な移動。

 こんな状態でまともに戦えるはずがない。

 本来であれば、あと半日ほど進んだ位置で休息をとって、それから村を一つ襲うはずだった。

 村には王家に対する反乱組織が潜伏していて、これまでの戦いで組織は崩壊状態だと聞いていた。

 俺らはその村を襲撃し、反乱組織の残党を一掃、そのまま1か月ほど滞在して、住人のふりをしながら戻って来る反乱組織のメンバーを処理、全てを焼き払った後帰還するはずだった。

 こんな所でいきなり攻撃されるはずがない。

 村には俺たちのことは伝えられていないはずだった。

 ゆっくり休息をとって、準備万端の状態で無防備の村を襲撃、狂乱の宴を楽しむはずだった。

 はずだったのに、これでは俺たちのことは筒抜けだったとしか思えない。

 ここまでの無茶な行軍も、俺たちを疲弊させるためだったに違いない。

 何が目的だ?

 決まっている。

 国は、ここで俺たちを処分することに決めたのだろう。

 あの女は、そのための執行人と言ったところか。

 そう思ってみてみれば、あの女の周りにいる連中は黒犬騎士団には場違いなほど真面目な馬鹿どもだ。

 冤罪で放り込まれた奴らなんだろうな。

 捕まる前、数枚の金貨で噓の証言をしたことがある。

 そのせいで捕まったやつが、女の取り巻きの中にいた。

 俺の嘘クセェ証言がすんなり通った時、この国はもう駄目だと思ったもんだ。

 標的の村とやらもグルなのかもしれない。

 俺たちはここで終わらせられるんだ。

 抜いた剣を放り出し、男はその場に座り込んだ。

 「もう、どうにでもなれだ、十分に生きたし殺した。」

 そのまま腕を組んで目を閉じると、せめて苦しまずに殺してくれよと、信じてもいない神に祈った。

 

    **

 

 雑に黒く塗られただけで、統一性の無い鎧姿の男たちが剣を抜く。

 「遅い。」

 最後方から様子を見ていた少女がつぶやいた。

 思惑通り、騎士団が疲弊しきったまま交戦状態に入った。

 思惑と違ったのは相手の戦力だ。

 遠目なので正確に把握できないが、かなりの数の魔物が含まれている。

 一度に多くのモンスターを使役できる能力者がいるということだろう。

 ゴブリンやコボルトが多いようだが、騎士たちとやり合うさまを見るに、万全な状態の前団長よりも強そうだ。

 その上、突出した戦士も数人いる。

 剣の一振りで数人の騎士が切り伏せられてゆく。

 うずく。

 どちらが強いか試してみたい。

 はやる気持ちを抑え、背後に控える巨躯に最後の命令を発した。

 「予定通り、私がやられたら行け。」

 振り返りもしない。

 それすら惜しい。

 早く戦いたい。

 「了解です、本当に死なないでくださいよ。」

 巨躯の男が、からかうように少女に答えた。

挿絵(By みてみん)

 短い付き合いだが、少女の性格は分かっている。

 少女の視線の先にいる剣士、あれと本気で戦いに行って、そのまま本当に命のやり取りをしかねない。

 あくまでも敗北、倒されたフリをしなければならないのに。

 釘をさすつもりで、ワザとからかうような物言いをしたのだ。

 「死ななきゃならないだろ?これを持って行け。」

 そう言って、少女は自らの髪をナイフでバッサリと切り落とすと男へ渡した。

 見事なプラチナブロンドの髪。

 戦死の証として持ち帰らせるためだ。

 「もったいねぇ。」

 つい口走っていた。

 「変態。」

 「な!違いますよ!そんな意味じゃねぇです!」

 最近頭髪の量に不安を覚えていた男は、無造作に切り落とされた頭髪に思わず声を出してしまっていたのだが、それを変態とは。

 「じゃあな、もしまた合うことが出来たら、次はついて来い。」

 振り向いて、からかったお返しだと言わんばかりの悪戯っぽい笑みでそう言うと、少女は、混乱の中へと歩き出した。

 「ええ、是非ともそうさせてもらいますよ。」

 今生の別れと覚悟しつつも、男は力強くそう答えた。

 

    **

 

 「う~ん・・・なんか思ってたのと違うなぁ。」

 訓練を受けた恐れしらずのならず者集団。

 じゃなかったっけ?

 目の前にいるのは、統率はおろか、指揮系統も存在していない烏合の集団。

ひどい有様だ。

 偵察からの帰途、戦場として新たに特定した場所は、大きな岩が多く転がる場所だった。

 かつて大規模な崩落があった山のふもとで、その時転がり出たまま放置されてきた大岩。

 その岩陰に潜んで待ち伏せ、弓や射撃系の魔法、スキルで奇襲をかけた。

 着弾を確認することも無く、兵たちは雄たけびを上げて飛び出し、黒装束の騎士たちに切りつけてゆく。

 最前線で数人の騎士がエグチの剣に切り伏せられた頃になってようやく、「敵襲!」という叫びが上がった。

 遅くね?

 よく見れば装備もマチマチ、一応黒で統一されているっぽいけど、余ったパーツをテキトーに振り分けられたような、チグハグな姿の者ばかりだ。

 そうとう疲弊しているのは何となくわかるけど、それにしても弱すぎる。

 ゴブリンたち相手にも全く歯が立ってないみたいだけど。

 いくら頑張ってモンスター達のレベルを上げたって言ってもなぁ、一応騎士だろ?

 いいのか?そんなんで。

 「ファイヤーブレス発動!」

 どこかからかミコトの叫びが聞こえる。

 ミコトの能力の最大の弱点だよな。

 その都度ああやって自分の行動を声に出さなきゃいけないなんて。

 いちいち手の内晒しちゃってたら、不利にしかならないんじゃないか?

 ・・・たぶんだけど、いちいち叫ばなくてもいいと思うんだよね。

 小声でもちゃんと発動するんじゃないかな。

 そう助言してみたんだけれど、あのお調子者は、「それではカードホルダーの矜持に反する。」とか何とか言っちゃって聞く耳もたなかった。

 変に自信をつけさせすぎちゃったかな。

 ちょっとくらい痛い目を見て反省してほしいものだ。

 

    **

 

 「はぁ!」

 初撃、弓兵たちが一斉に開戦の矢を放つと、手に次々と現れる鉄パイプをつなぎ合わせてゆくアラキ。

 まずは、作戦通り狙撃手用のやぐらを組み立ててゆく。

 取りつけては新しいパイプが手の中に現れる。

 キタガワとシンの協力によって、千本を超える鉄パイプを確保している。

 セカンドゲーム、ワンダーランドの能力をフルに生かして、瞬く間に鉄骨の塔を作り上げた。

 (あ、配列間違えた。)

 完成した塔を一目見た瞬間に違和感を感じたアラキは、ポンと軽い動作で飛び上がると3mもの高さにあった鉄パイプを蹴り上げて外し、それを取って一段下に一瞬で取り付け直した。

 「うん、完璧。」

 満足そうにうなづくと、即座に2棟目に取り掛かった。

 「早。」

 一応形だけ作られた陣からアラキが組み立ててゆく塔を眺めていた俺。

 つい見とれてしまった。

 建造物が出来上がってゆく様子って、なんか見ちゃうよね。

 それも、タイムラプス動画みたいな速度だもん。

 「あれ?」

 ワンダーランドの組み方とはだいぶ違うような・・・あれって、確か四角い箱を組み合わせて作るんじゃなかったかな。

 「パズルモキュルとの融合だそうです。」

 いぶかしげに塔を見ていた俺の疑問を察したのか、カタオカが説明してくれた。

 パズルモキュルは、ステージごとに様々なタイプのパズルを解いてゆくゲーム。

 その中にはパイプを使ったパズルもあるそうで、アラキはそのパズルをワンダーランドの能力で再現することに成功したんだそうだ。

 そうすることで通常よりはるかに強固な建造物ができる。

 らしい。

 ワンダーランドの建造訓練を繰り返していたアラキは、ふとパズルモキュルのステージに似たようなものがあることを思い出した。

 そこからは試行錯誤の繰り返し。

 短い準備期間ではあったが、とりあえず強度を上げる効果までは確実に機能させることができるようになったという。

 かなり苦労したようだが、それでもすごいことだよ。

 ゲームの垣根を越えてしまうなんて、俺じゃあ発想すらできないだろうな。

 2棟目も瞬く間に建造が完了したようだ。

 アラキには他にも敵の動きを鈍らせるための防壁とかも依頼してあるけれど、それらもあっという間に出来上がっていくんだろう。

 「どうしました?」

 いつの間にかジッとアラキの動きを追ってしまっていたようだ。

 カタオカが怪訝そうな顔をしている。

 「いや、何でもないよ、俺も動くからあとよろしくね。」

 そう言って本部を出た。

 (・・・言いづらい。)

 本当にショーも無いことを考えてしまっていた。

 モキュル、ピンクの怪獣のまま建造する姿を見てみたかったな、なんて。

 

    **

 

 手が震える。

 ウシオは、シンに渡されたライフルで狙撃の訓練はした。

 狙撃はゲーム中に存在しない行動だが、驚くほどすんなりと馴染むことができた。

 シンさんの言う通り、スパイという設定が超解釈されているのかな、とあまり気にはしていなかったが、現実世界でも冬の間は狩猟をしていたというトノウチも驚くほどの命中精度を発揮した。

 スパイランナー。

 数あるレトロゲームの中でも、生産数が少なく特に入手が困難なタイトルの一つだ。

 ようやく入手してプレイを始めたウシオは、はやる気持ちを抑えきれずにデモシーンを見ずにプレイを始めていた。

 たとえ見ていたとしても、英文だけのデモは読み込んだりはしなかったかもしれない。

 そこには、主人公マクイーンの設定が書かれていた。

 元軍の凄腕スナイパーで、軍事作戦中親友を亡くしたことで退役、その後スパイに。

 銃の扱いに慣れていたのも、狙撃で実力を開花させたのもゲームの設定としてゲーム中に記載されていたのだ。

 スコープ越しに照準を合わせるところまでは問題無くできる。

 が、いざ引き金を引こうとすると震えが走る。

 魔物とは違う。

 相手はヒト。

 ウシオの倫理観が、引き金を引こうとするウシオの邪魔をしていた。

 ターン!

 銃声が聞こえた。

 チラリと音の方角を見ると、もう一棟についたトノウチが、先に完成して配置についたウシオに先んじて狙撃を開始していた。

 (ダメだなぁ、僕は。)

 小さくため息を吐く。

 (僕がやらなきゃ、仲間が死ぬんだ、気合を入れろ大輔。)

 一度、ギュッと目を閉じて覚悟を決め直す。

 目を開け、照準を合わせると、一瞬躊躇したものの、引き金を引いた。

 ゴブリンの胸を突こうとしていた黒い騎士が、剣を振り上げたままの姿勢でくずおれた。

 見事にヘッドショットを決めたウシオは、吹っ切れたようにターゲットを補足しては一発で仕留めていった。

 

 (やっぱりすごいな、ウシオさんは。)

 最初、なかなか狙撃を始めないウシオに、トラブルでもあったのかと孤軍奮闘するつもりで狙撃を開始したトノウチ。

 しかし、ウシオが狙撃を開始すると、その差は歴然だった。

 次々にヘッドショットを決めて仕留めていくウシオの狙撃は、まさにスナイパーの理想ともいえる腕前だった。

 トノウチも時間ギリギリまで粘ったが、思うようにレベルを上げることができなかった。

 ゲームの動物たちと違って、魔物は力も強く警戒心も高い、ゲームの機能で仕掛けられる罠では通用せず、ずいぶん時間と、罠や銃弾を入手するためのポイントを無駄にしてしまった。

 ピンチに陥った仲間を助けるための狙撃は、誤射の可能性が高くなると判断したトノウチは、早々にターゲットを遠くの、味方がいない場所に陣取る敵に切り替えた。

 これなら誤射は起こらない。

 (もっと頑張らなきゃな。)

 危機に瀕した仲間を助けるウシオと、狙いもそこそこに数を打つことで敵の動きを阻害するトノウチの活躍で、黒犬騎士団の混乱は回復不可能なまでに拡大していった。

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