064話:洞窟でも迷子
暗い。
どうやら俺とフブキは、偶然にも枝や草葉やらで隠れていた穴の上に乗ってしまったようだ。
自然の落とし穴と化したそれにまんまとハマり、見事に落ちたらしい。
せっかく死ぬ前の"常識"さん情報をまだ覚えていて、洞窟ヤベェと警告してくれていたのに。
(結局入っちゃうんだな。)
しみじみと自分自身のリアルラックの低さに凹みつつ、周囲を確認するためにライトの魔法をつかった。
小さなピンポン玉位の光の玉が浮かび上がる。
目の前でフブキがうなだれていた。
「気にすんな!俺も全く気が付かなかった。」
落ち込むフブキを元気づけるためにニカっと笑って強がってみたけど、腰を強打したみたいでちょっと立ち上がれそうもない。
ポーチからハイポーションを取り出してあおると、少ししてようやく痛みが取れてきた。
坂の途中のようで地面が不安定だ。
転がり落ちないよう慎重に立ち上がって周りを見てみる。
緩やかに下る通路のようなところだった。
フブキが踏ん張ってくれたおかげで、これ以上転がり落ちていかずに済んだのだろう。
落ちて来たであろう方向、坂の上方を見ると、心なしか明るい気がする。
つまり、ほとんど光が入ってこない、それだけ深いのか、もしくは俺がピヨってるうちに夜が更けたのか。
通路を登ってみる。
とにかく、こんなところにいるわけにはいかない。
坂道の上端まで来ると、上を見上げた。
穴が開いている。
高さは20m程だが、上るほどに広がっていて、出口付近できゅっとすぼまっている。
つまり、どう登っても最後は急激なオーバーハング。
(無理だろこれ、飛行用の騎乗アイテムもあるけど、あの狭い穴は通れないだろうなぁ・・・ってことは・・・)
「下るしかないか。」
別の出口を探すしかないようだ。
(覚悟を決めて下るかぁ~。)
魔導地図の存在を思い出していてよかった、これなかったら、自然洞窟の探索なんて迷子確実だったろう。
(あ、もうすでに迷子だった。
はぁ、いくかぁ、フブキが通れるような規模の洞窟だったらいいんだけどなぁ。)
貯蔵庫に入れようにも、フブキのスペースは魔物の死体で埋めてしまった。
(ここで出して捨てるわけにいかないよなぁ、やっぱり、魔素100%の魔物に肉体与えることになっちゃうしなぁ。)
最悪は資材を廃棄して死体を詰め替えるかしか無いだろう。
良さそうな毛皮、羽毛、うまそうな肉・・・調子に乗って狩りすぎたのが失敗だった。
まさかこんなことになるなんて思いもしなかったから。
下る通路を慎重に進んでゆく。
(あ~、ガスが怖いなぁ。
硫化水素なんか、ひと息で死んじゃうんだっけ?)
毒耐性アップの装備が通用するのかはなはだ疑問だ。
通路はだんだん狭くなってくる。
(この狭さ、フブキつっかえないかな?まだ何とか通れるかな。)
本来なら資材を諦めてもフブキを貯蔵庫に帰すべきなんだろうけど、それ以上に一人になるのが嫌だった。
鼓動がうるさい。
魔物が出るならまだいいが、一息で命を奪われる無色透明のガスは対処しようも無い。
一歩ごとに、真綿で絞めるような恐怖が張り付いてくる。
(スライムも怖いな、出会いませんように。)
傾斜が緩やかになると、狭かった通路も少し広くなってきた。
平らな地面などないゴツゴツとした通路を下ってきたせいか、足腰の疲労感が強い。
「少し休もう」
そう言って、座り込んだフブキの首元に抱き着く。
(あぁ、落ち着く。)
しばらくフブキのモフモフに癒されると、フブキを背もたれがわりにに座りなおす。
「よし、魔導地図みたいに忘れてるけど使えるアイテムが無いか調べなおそう。」
10年も同じゲームを続けると、貯蔵庫にしまったまま存在すら忘れているアイテムも少なくない。
それだけ種類が多いって話なんだが。
貧乏性の収集狂な上、"手に入れたら満足しちゃう病"だからってところもある。
商品管理を開いて貯蔵庫内をくまなく調べる。
だいぶ時間を無駄にした気がするけれど、収集品を入れた第二貯蔵庫(現実と同様に時間経過のある倉庫)の確認が終わった。
結局1割くらいは何なのか全く思い出せなかったけど、とりあえず使えそうなものがいくつか見つかった。
火焔窟のマスク
火山にあるダンジョンに入るための、ガスマスクのようなアイテム。
効果もそのまま、有毒ガスから守るための物。
兜の代わりに装備しなければならないうえ防御力は皆無なので火焔窟ダンジョン以外では使うことが無かった。
風詠鳥の羽
ダンジョン内で根元をもって掲げると、羽の先が出口の方向に引っ張られる。
あくまでも出口の”方角”が分かるだけで、道案内をしてくれるわけではない。
頼りないけど、無いよりはましだろう。
ガスに脅えなくていいのはありがたいし。
羽の方は・・・掲げると、今来た方向に引っ張られる。
(ですよねぇ~)
少し振ると、今度は別の方向に引っ張られた。
「よかったぁ~、出口1つじゃなくて。」
魔導地図と照らし合わせて、もう一つの出口の方角を確認、あとはひたすらその方向を目指すだけだ。
シュコー、シュコー。
マスクをつけると独特の呼吸音。
(残念、コー、ホー、じゃなかったか、黒い仮面をかぶった黒い騎士とか、ロボットレスラーが頭に浮かんでいたのに。
フブキには・・・無理だよね。)
マスクが毒検知するとアラームが鳴るはずだから、俺が先行して、フブキのカナリアになるとしよう。
「よし、行こうか。」
フブキの頭をひと撫ですると、とりあえずは今いる一本道を進む。
どんどんと狭くなる通路、途中昆虫型の、1m近くあるカマドウマのような魔物に遭遇するも、マジックミサイルとアーストーンでなんとか撃破。
四つん這いでないと進めないような狭所になっていたので、この遭遇は非常に心臓に悪かった。
(危ないけど、剣抜いといたほうがいいな。)
広いところに出られたらになるが。
今の態勢では剣も抜けない。
魔法頼りでは、魔力が尽きたらゲームオーバーだ。
ズリズリと後を這ってついてくる状態のフブキにはとても頼れない。
何とか剣が抜ける広い場所に出た、と思ったら、目の前には水が。
通路は下へと続いている。
この先に行くには潜らないといけなさそうだ。
とうとう、というか、結局フブキを貯蔵庫にしまわなければならなくなってしまった。
(もう、いっそのことここに定住しようか・・・なわけにはいかんな。
仕方ない、資材を・・・あ!簡易貯蔵庫があるじゃないか!)
第3貯蔵庫の資材を簡易貯蔵庫に移して、空いた第3貯蔵庫に魔物の死体を移して・・・見事にスペースができた!
最初に思いつかなかったのは、今の知力が低いからだ、と思いこむこととして、無事フブキを格納できた。
(何悩んでたんだろう。
やっぱり知力系ステータスの低下が原因かな・・・うん、きっとそうだ、そうに違いない。
俺が間抜けなわけじゃない・・・たぶん・・・よし、忘れよう。)
火焔窟のマスクを外す。
深く息を吐いて、一気に吸い込むと、水中に飛び込んだ。
ライトを先行するように移動させて奥の様子を見る。
何とか通れそうだ。
が・・・
ザバッと水から上がる。
「長げぇよ!」
思わず叫んでしまった。
何とか通れそうな広さはあるけど、かなり距離がある。
(息もつかな。)
素だとたぶん無理だろう。
思案の結果、一か八か、スピードアップにすべてを託すことにした。
水中での移動も早くなるのかは分からないが。
自分自身にスピードアップをかけて、深く息を吐く。
そして限界まで息を吸い込むと、念には念を入れて顔を上に、背を下に向けて、背泳ぎの体制で水中へ。
可能なかぎりいそいで水中を進む。
苦しくなったら少しずつ息を吐きながら。
無理!
だめ!
死ぬ!
そう思ったとき、視界にほんの少しの、空気だまりのようなものが見えた。
無心で突き出した口を突っ込む!
空気だまりに見えたそこは、上へと続く亀裂のようだった。
(助かった。)
何はともあれ、ここで呼吸ができたのは大きい。
かなり間抜けな姿だけれど。
この水路も、あと1/3くらいで上へと上って行くように見えた。
再び息を吸い込むと、大急ぎで前進。
ようやく抜けた先は、かなり広い鍾乳洞だった。
5mはありそうな天井からは、無数の鍾乳石が連なり、床もまるで剣山の上のように所狭しと石筍が立ち上がっている。
着ていたコートに耐冷気効果が付いていて良かった。
吐いた息が真っ白だ。
ずぶぬれでこの寒さはかなりまずかっただろう。
火焔窟のマスクを再び装着する。
火をつけたい。
寒さは防げているけど、ずぶ濡れの体を乾かしたかった。
(無理だよな。)
可燃性のガスが漂っていたりしたら爆死コースだ。
マスクで呼吸器系へのダメージは防げても、可燃性ガスへの引火は防げない。
無色無臭で調べようがない以上諦めるしかない。
魔導地図を取り出して、方角を確認する。
(うん、しっかり目的の出口から離れていってる・・・一本道だったから仕方ないよねぇ。)
自分に言い聞かせる。
これは仕方のない結果だと。
気を取り直して、せっかく広い場所に出たのだからすこしでも出口方向に向かうことにした。
非常に幻想的な場所ではあるんだけれど、ここはとにかく歩きにくい。
足の踏み場もないとはまさにこのことだろう。
両手両足を使って、時には石筍にしがみついて、やっとの思いでたどり着いた出口方向の先は、壁だった。
(うん、わかってた。
生き返ってからの運の無さは折り紙付きだもの。)
壁沿いに、とりあえず右、出口とは反対方向に進んでみる。
ここまで運が無いなら、きっと逆方向が正解に違いない。
その考えが運に見放された者の典型なんだと気が付いたのは、延々と進んだ先に見たことのある水たまりを見つけた時だった。
「マッピングができてラッキー!」とでも声に出さないと自分がかわいそうで仕方がない。
「どうせなら一周してやるとしようか~」
ひきつる笑顔で強がって見せたけど、本当に一周してしまった。
「行き止まりかよ!」
そう、このただっぴろい空間、一周してみたけれど、出口は無かったのだ。
「いや、そんなはずないよな。」
再び風詠鳥の羽を取り出して掲げてみる。
間違いない。
確かに、羽は目的地方向へ引っ張られている。
ここまで一本道、出口が無ければ、羽は別方向、最初に落ちた穴の方向へ引かれるはずだ。
「ってことはだ・・・出口は上か下か・・・」
側面には出口が無い。
なら、後は床か天井だ。
一気に気力がなえてしまう。
平らな床や天井ならすぐに見つかるだろうけれど。
天井も床も、無数の鍾乳石と石筍で非常にわかりにくい。
しかもかなり広い。
この石筍のおかげで魔素だまりができにくくなっているのかもしれない。
魔物がいないのがせめてもの救いだ。
ここの中では、まだ平らと言えそうな場所を見つけて腰を下ろす。
もう一歩も動きたくない。
貧乏性から今まで我慢してきたけれど、商品管理を開いてエイルヴァーンの食料品の中から特に豪華そうなもの、骨付きドラゴンステーキを取り出してかぶりつく。
(うまい!!
今まで生きてきて、これほど美味い肉は初めてだ。
歯ごたえはしっかりあるのに硬さは無い、油の甘さをはっきりと感じるのに、脂っこさを感じない。
味付けも絶妙だ。
さすが調理MAX、いわば俺!
素材さえあればこんなうまいものが作れるのになぁ。)
あっという間に平らげると、不思議と落ち込んでいた気持ちも前向きになっている気がする。
そういえば、ドラゴンステーキは精神系攻撃への耐性向上とか、いろいろバフが付くんだったな。
「よし、こうなりゃしらみつぶしだ。」
魔導地図を開くと、この空間のマップを埋め尽くすように歩き出した。
空間の2/3ほどを確認したところで、ようやく下へと降りれそうな穴を見つけた。通れないレベルの小さなものは無数にあったけれど、通れない以上意味が無い。
天井は・・・やはりそこまでたどり着けない以上無視するしかない。
穴は、一応下りながら出口方向に曲がっているように見える。
「よし、ここに賭けてみよう。」
5m程降りると横穴に代わっていて、緩やかに下っているように見えた。
中腰で何とか通れるサイズなので非常につらい。
グネグネと曲がりくねった通路は途中何か所も枝分かれしていたが、とても通れる広さが無く諦めるしかなかった。
もし、出口に通じているのがそれらの狭い通路だったとしたら、脱出は不可能になってしまう。
辛い腰をかばいながら、時に四つん這いになったり、匍匐前進しながらようやく立ち上がれるだけの広いスペースに出ると、その先は3本に分かれていた。
ここにきて、3本とも通れそうだ。
(選択肢をことごとく外してる気がするんだけど・・・ここで三択かよぉ。)
全く自信が無い。
どれを選んでもハズレで、結局最後に選んだ道が正解でした~とか、そんな感じになりそうでげんなりとする。
(運に見放されてるなら、いっそのことすがってみるかぁ。)
火焔窟のマスク、風詠鳥の羽を出したときに気になっていたアイテム、異世界のお守りだ。
ちょっと高く売れるだけの換金用アイテムだったが、説明書きが気になっていた。
”強運を呼び込むお守り”
ゲームには運というステータスが無かったので、本当にただの説明だけでなんの効果も無かった。
と、思う。
ゲーム中しばらく装備してみたことがあるけど、違いは感じ無かった。
実際に統計を取ってみたこともあったけれど変わらなかった。
普段なら歯牙にもかけなかったかもしれない。
今の俺は、どんなものにでもすがりたかった。
「ど~かひとつ・・・」
そうつぶやいてから首にかけた。
何も変わった気がしない。
わかっていた。
(いやいや、信じる者は救われるって言うしな・・・バカを見るだったっけ?)
そのまま、直感を信じて真ん中の道を進んだ。
すぐに後悔した。
天井から、人間大はありそうな大トカゲが降って来たのだ。
間一髪前に転がって躱すことに成功したが、その結果背後にはオオトカゲが。
戦っても良かったけど、どれだけ強いか分からないしフブキもいない。
もし、おいしいディナー(ランチかも)として召し上がられてしまったら、危険な洞窟産魔素100%の魔物を受肉させてしまう。
もう、前に進むしかなかった。
背後に魔法でシールドを設置して、狭い通路を走る。
すぐにシールドが砕ける音が聞こえ、オオトカゲが追ってくる音が聞こえる。
(シールドが時間稼ぎにもならないかぁ。)
戦うにしても、せめて剣が振れる場所に行きたい。
急なカーブを曲がると行き止まり!
(お守りが強運じゃなく不運を運んできやがった。)
オオトカゲはまだ見えないが、音ですぐそばまで迫っているのが分かる。
剣を構える。
この狭さじゃ突きしかできそうにない。
覚悟を決めたとき、右手の壁から突然手がにゅっと現れた。
さすがにギョッとして手を凝視してしまう。
と、いきなり壁から生えた手が俺の手首をつかむと、グイッと引っ張られた。
なにこれ?!




