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006話:ランザ砦

 初めてのまともな食事を終え満足満腹な俺だったけれど、すぐ後には気の重くなるお仕事が待っていた。

 デンケンの案内で砦の責任者、ランザ砦総長の部屋へと向かう。

 取り調べって奴なのでしょうか?

 デンケンはただの報告だから気楽について来いなんて言うけどねぇ。

 足が重い。

 とはいえ、恩を仇で返すわけにもいかないしね。

 ここは素直に従うことにした。

 無骨な砦の中で、不相応に豪華な扉の前に着くと、

 「第二監視隊衛士長デンケンです、保護対象一名と共に出頭いたしました。」

 と告げた。

 そして返事も待たずにドアを開けて入っていく。

 え?

 俺もすぐに続いたけど、いいのか?返事も待たずに。

 ビクつきながら入ると、中はいかにもな執務室。

 アニメ見てると、貴族の執務室みたいなシーンでこういう部屋はよく見る。

 デフォルトだよなぁ。

 そして、これまたよく見るような大きくて豪華なテーブル。

 に、男が一人。

挿絵(By みてみん)

 顔色の悪い痩せた男は、神経質そうに俺をねめつけると、慇懃な声で

 「ランザ砦総長、コリント伯爵第四子のクラッツである。」

 と名乗った。

 態度はぞんざいながら、得体のしれない俺にも一応名乗るんだなぁと感心してしまった。

 けど、こちらの返答も待たずにデンケンに聴取の報告を求めると、後は一言もしゃべらず、終わると手で退室を促された。

 なんかムカッとしたぞ。

 俺、一言もしゃべってないけどいいんか?

 と、デンケンを見ると、彼は彼でとっとと部屋から出ていくところだ。

 慌てて後を追う俺。

 いいのか?マジで。

「悪いな、あいつは御領主の四男坊なんだがなぁ、形だけの功績づくりで赴任したはいいが、とたんに反対側で氾濫があったからな。

 ブルっちまって何も手についとらんのだ。

 いまの報告も形だけ、何も頭に入っとらんよ。」

心底疲れきったようなジェスチャーでおどけるデンケン、中間管理職はどの世界でも大変だな。

 俺も苦労したよ。

 下手に注意するとパワハラだとか言われそうだし、叱られることに慣れていない世代は逆切れしてくるしさ。

 当たらず触らず接していると、上からはちゃんと指導しろって、どうすりゃいいのさってね。

 俺らの頃は、見て覚えろってのが当たり前だったし、一応そうやって俺も仕事を覚えて来たから、教え方なんか知らねぇよ。

 ってか、なんで分かんねぇんだよってね。

 しかしなぁ、あんなのが指揮官じゃぁ、もし反乱の矛先がこっちに向かっていたら・・・良くて壊滅、悪くて全滅。

 俺への対応がぬるいのも、そこら辺が関係しているのかもな。

「これでやらなきゃいかんことは終わりだ。」

「え?」

 いやいや、いくら何でもそれでいいのか?

「あっけなかったろ?これが国境沿いなら別なんだろうがな、この砦はあくまでも森から出てくる魔物の監視が任務だからな。

 人間用の対応なんてほとんど決まってないんだよ。

 それでもまぁ、一応形だけでもってな。」

ぶっちゃけたデンケン。

 いいのか、それで。

 って、何度目だ?これ。

 俺が言うのもなんだけどさ、もうちょっと、疑ったりしてみた方がいいんじゃないのか?

 なんて表情にでも出ていたのか、

 「はははっ!そう心配しなさんな。

 今までこれで何も問題は起きとらんしな、森の先の領とも関係は良好だから十分ってなもんよ。

 いくら犯罪者でも、森を抜けようなんて命知らずはいないしな。」

 ときた。

 あぁ、俺、幸運なだけだったんだっけ。

 普段なら10分に一回は魔物とコンニチワって言ってたもんな。

 そのままデンケンの後に続いて建物を出ると、デンケンは振り返って腕を組んだ。

 「さて、これでお前は自由だ。

 とりあえず2~3日は南門の脇にある宿泊所を使わせてやるし、飯も食堂を使っていい。

 ただ、兵士が優先だから時間帯はズラしてくれ。

 その間に、今後どうするか考えるんだ、兵士になりたいなら俺に言え、傭兵を続けるなら出ていけばいい。

 南門から出てそのまま進めばリソン村につく。

 右に曲がれば、ぐるっと森を迂回する遠回りになるが、カルケール公爵領のゼノ村だ。

 カルケールに行くにしてもまさか北にはいかんだろ?」

 もちろん森には近づきたくない。

 けど魔物を倒さなきゃレベルが上がらんなぁ。

 ゲームの時みたいにクエスト攻略でボーナス経験値が入るんならいいけど、そもそもクエストってあるのか?

 「他に質問はあるか?」

 「いえ、ありがとうございます。よく考えて答えを出そうと思います。」

 そう言って深々と頭を下げた。

 「おう。」

 というと、デンケンは建物の中に消えていった。

 言われた宿泊所は昨夜泊まった外の小屋と同じような作りだった。

 大きな部屋に6台の二段ベッドが設置されていて、ほかに暖炉とちょっとしたテーブルがある。

 親切なことに、今朝脱いでそのまま置いてきた装備が運ばれてテーブルの上に置かれていた。

 すっかり忘れていたから感謝だ。

 ベッドに腰掛けて今後のことを考えることにした。

 ”常識”さんとの情報すり合わせも必要だし。

 まず、今の俺はいわゆる一文無しである。

 所持金欄には上限ぎりぎりの99,999枚の金貨があったはずなのに、見事に0である。

 所持品同様消されてしまっていた。

 まぁ、レベル30で使えるようになる第一貯蔵庫に相当な量の金貨があるはずだ。

 簡易貯蔵庫同様中身が残っていれば良いんだけどな。

 この世界とは金貨の形状とかが違って使えないかもしれないけど、純粋に”(きん)”としての価値はあるだろう。

 なんでわざわざ貯蔵庫に?というと、実はこれもMODで導入した、持ちきれない分の金貨を入れておける金庫を使っていたからだ。

 ゲームではカンストした後の金貨は消滅しちゃう仕様だったからね。

 まぁ、カンストするくらい持っていたらその先使うことなんてあんまりなかったけど、なんかもったいないじゃない?

 俺、自他ともに認める貧乏性だったんだよね。

ゲームでは、通貨は金貨オンリーだったけど、当然この世界は違う。

俺が今いるサンザ王国では、通貨の単位は1つ、セイルという。

 そして流通している通貨は貨幣が基本。

小銅貨1枚       1セイル

銅貨1枚       10セイル

小銀貨1枚     100セイル

銀貨1枚     1,000セイル

小金貨1枚    5,000セイル

金貨1枚    10,000セイル

大金貨1枚  100,000セイル

星金貨1枚 1,000,000セイル

 と、発行されている貨幣は結構多い。

 ただ、大金貨や星金貨は一般的に使われることは無いようだ。

 商人同士の大きな取引で大金貨が、他国との大きな取引や、褒章として使われるのが星金貨。

 なので、その二つは一般人が手にすることは無いと言っていい。

 ゲームでの金貨が、この国の小金貨に当たるのか、金貨に当たるのかは取り出して実際に見比べてみないと分からない。

 けどまぁ、小金貨相当だったとしても、それなりの額にはなると思う。

 貯蔵庫が使えるようになればね。

 今は完全な無一文だ。

 簡易貯蔵庫に入れてある、使わない装備品を売れば路銀くらいにはなるだろうか。

 レベルも上げたいところだけど、魔物を倒さなきゃならない。

 となると、ここで兵士になるのも結構良いんじゃないか、とも思えるけど・・・うん、絶対に無理だ。

 確実にみんな知ってるもんな。

 具がアラフィフのオッサンな俺には、あの状態を知られているこの砦に長期滞在なんてとても耐えられそうにない。

 それに、レベルアップもスキルも無くて、魔法も一般的でないこの世界では、一か所に留まるのは危険だと思う。

 だって、魔物を倒してドンドン強くなっていくなんて、普通に考えたらかなり異常だもんね。

 最初は良くても、すぐに化け物扱いされそうでなんだか怖い。

 ということでここで兵士は無しと。

 でも、俺って今どれくらいの強さなんだろう?基準が分からないな。

 気が進まないけど、ゴブリンあたりと接近戦も経験しとかないと、いざというとき怖い。

 魔物は大きな都市の周辺以外では割と存在しているみたいだ。

 村や集落では、定期的にハンターを中心とした有志で間引きを行い、手に負えないほど魔物が増えると傭兵を雇う。

 町クラスの規模になると、普段は衛兵が町の周辺を巡回、魔物が増えてくると傭兵を雇って討伐する。

 大きな都市になると常に衛兵や騎士が巡回と討伐を行っている。

 傭兵はラノベなんかで言う、いわゆる冒険者に当たるのかな。

 討伐や抗争などの仕事がない時は、薬草や森の恵み、魔物の素材なんかを売って暮らすことも多いみたいだし。

 ただギルドのような組織は無く、仕事は自分たちで探すしかない。

 魔物の討伐など大きめの仕事は町村の広場などに立札が掲げられたり、近隣の町村の酒場などに張り紙が出されたりする。

傭兵たちは自分でそういった募集を探さなくてはならないわけで、そのため多くの傭兵が数人から数十人でチームを組む。

 大きなチームでは仕事を探して契約をとる専門の人員がいることも珍しくない、大所帯になれば仕事は奪い合いになるので重要な役割だ。

チームの成果によっては、依頼主から指名されるケースもあり、指名されるには常に大きな仕事を受け続けなければならず、成功させ続けなければならない。

 仕事を探すだけでなく、チームで達成できるかの見極めも必要になる難しい仕事だ。

優れた傭兵をスカウトする専門要員がいるチームまである。

資格などがあるわけでもなく誰でも傭兵を名乗ることができる、そのためゴロツキや犯罪者までおり、一般人からのイメージは良くない。

 特に単独や少人数のチームは煙たがれることが多いようだ。

 となると、安易に傭兵を選ぶのも危険かな。

衛兵は町や、領主、貴族、商会など毎に雇われている専門の兵士で、町中や周辺の巡回を行い治安維持や魔物への警戒を行っている。

 個々の能力はそれほど高くないが、連携しての対応能力は専業ならではのものがある。

 とはいえ俺には無縁な立場だよなぁ。

 一か所に留まることは避けたいし。

 そうそう、騎士には貴族しかなることができないみたいだ。

 家督を継ぐことのできない立場の子供たちのための職、といった存在で、衛兵などの上官的な立場になる。

 彼らは各地の街や砦に駐留して実績を積む。

 先ほど会った総長も領主の4男って言ってたから騎士なのかな。

 見た限りお飾りといった感じか、もちろんまじめな騎士も少なくない。

 騎士として功績を積めば、1代限りの騎士爵を与えられ、騎士爵でさらに功績を積めば準男爵に格上げされることもある。

 まぁ、無理をして一生を終える者も少なくはないようだけど。

 騎士も選択肢には無し、と。

  ハンターは、素材回収を目的として魔物を狩る者たちの総称だ。

 ほとんどがチームを組んで森などに入り、魔物を狩って素材を回収し、それを売って生活している。

 効率重視で場所や狩る魔物を数種に絞って専門的に狩る者たちが多い。

 と、以上”常識”さん情報でした。

 う~ん、傭兵よりもハンターの方が冒険者っぽいのかな。

 一か所に留まる必要がない分俺の現状には合っているのかも。

 でも、単独では生きにくそうだけどなぁ。

 とはいえ、チームに入るのもレベルやスキルのことを考えたら落ち着けないし。

 やっぱり、当面は旅人ってことで適当に魔物を狩って素材を売りながら転々としつつ、運良く傭兵の仕事があったら混ざりつつレベル30を目指すのが堅実かなぁ。

 とりあえずはカルケール伯爵領へ向かいながら生活基盤を整えるか。

 一応出身地ってことになってるし、砦が壊滅したなら傭兵としての仕事もありそうだ。

 カルノトス砦、だったか、一応修復が始まっているらしいし。

 南門から出て右へ、森を迂回してカルケール伯爵領ゼノ村へ。

 道中できれば森へ寄って実戦経験とレベルアップ、あと素材集めか。

 よし、決まった!

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