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043話:参戦

 いつ飛んでくるか分からない土塊に意識を取られ、目の前のエイプに集中できないマナはジリジリと追い込まれていた。

 精彩を欠いたマナのブレードでは、深手を負ったデモンエイプにも届かない。

 高威力のビーム砲も、もしライアーに当たったら、と、余計な不安ばかりが頭によぎり使うことができない。

 それほど余裕が無くなっていた。

 普段のマナなら、ライアーの位置を補足して絶対邪魔をしない位置で撃つことなど容易いことだし、土塊を投擲してきたデモンエイプの動きがおかしいことにも二投目以降襲ってきていないことにも気づけたはずだ。

 さらに、そこからスロークの存在も推測できていただろうに、完全に自分を見失っていた。

 消耗の大きいメガブレードは一度見せてしまった。

 たぶんもう通用しない、そんな思いが余計にマナの動きを鈍らせた。

 メガブレードは通用しない、後は自分に何が残っているのか。

 レベルアップによって得られる報酬、BPを使って、母艦からの支援という形で能力の強化や装備品、支援用設備を選んで得ることができるのだが、村のためにと医療関係の設備に集中させてしまっていた。

 それこそが、看護師として生きて来た自分がやるべきこの世界での役割だと思っていたし、後悔も無い・・・が、この状況に至ると、何か一つくらいは攻撃手段を手に入れておけば良かったと思ってしまう。

 袈裟懸けに切りつけるように見せかけて、不意に軌道を変えて肘打ちのように突き出す、心臓を狙って突き刺すはずのブレードも軽く躱されてしまう。

 マナにとって幸運だったのは、相手が所詮猿だったことだ。

 これだけの力量差があれば、人であれば紙一重で躱し反撃されていただろう。

 デモンエイプの攻撃もまた、丸太のような腕を振り回し、爪で切り裂きにかかるばかりだ。

 ブレードを警戒しているのは間違いない。

 デモンエイプが掴みかかったり、噛みついたり、高速移動からの体当たりをしたりと言った攻撃の多様さが無い。

 マナとデモンエイプの戦いは長期戦の様相を呈してきた。

 お互いに警戒し決め手を欠きつつ、圧倒的体格差からのパワーに、マナの敗北は確定されていた。

 

 右腕の復活でデモンエイプを圧倒していたライアーも、マナの異変に気が付いた。

 森の中で共に戦い、手合わせも幾度となく繰り返した。

 あの恐るべき剣撃が、見る影もない。

 あのままではマズイ。

 その思いが、ライアーの手を一瞬鈍らせた。

 そのスキを見逃さず、デモンエイプの拳が襲い掛かる。

 咄嗟にガードしたものの、大きくバランスを崩して足場にしていた枝から落下してしまうライアー。

 根が飛び出た地面に背を打ちつけ、その衝撃で呼吸が出来ない。

 すかさず襲い掛かる巨大な爪をかろうじてかわすと、大きく飛び退って片膝をついた。

 (くそ、とにかく呼吸だ・・・落ち着け。)

 対峙していたデモンエイプにもそれなりにダメージは与えていた、素手とはいえ、格闘ゲームの技だ、拳の一撃は戦槌メイスの一撃にも勝る。

 明らかに弱っているからこそ、ガードしたとはいえ攻撃をモロに食らったのにバランスを崩す程度で済んだ。

 (落ちどころが悪かったけど、絶対僕の方が上だ、デカいだけのたかが猿に負けるわけがない!)

 両手を頭上でクロスさせると、手首同士を打ち付ける。

 バチっ!

 手首から小さな雷がほとばしる。

 「あんまり好きじゃないんだけどねっ!」

 一気に飛び込むと、電気を宿した拳で殴りつける。

 バチンッ!

 大きな破裂音と共に殴られたデモンエイプがビクンと全身で反応する。

 すかさず逆の手で殴りつけると大きな火花が飛んで、巨体のデモンエイプが数歩、後ろへ下がった。

 (くそ、やっぱりほとんど効果ないのか。)

 この技は、二連撃を加えた後相手を大きくノックバックさせる技だ、人間大の相手なら効果的だが、さすがにデモンエイプには効かなかった。

 派手な見た目と音のわりに威力もさほど高くない、ゲームでは投げ技防御くらいにしか使ったことが無かった技だが、ワンチャン電気でしびれたりするかも、と思っって使ったが、やはり相手が大きすぎた。

 瞬間的に痺れた様な感じはしたが、それだけ、ノックバック効果も重すぎて数歩下がった程度だった。

 集中しなければと思いつつ、視界に入るマナの様子が気になってしまう。

 そんな時だ。

 膠着状態の場を、大きな毛玉が弾丸のように突き抜けていった。

 「は?」

 ライアーは思わず声を上げてしまった。

 敵じゃない、と、思う。

 毛玉は村の方向から飛んできたのだから。

 弾丸は奥にいたエイプに衝突すると、真上にポーンと飛び上がって、少し後ろの地面に降りた。

 「むふふぅ。ここはぁ、ユーコちゃんにお任せなのですぅ。」

挿絵(By みてみん)

 そこには、背中から無数の長いトゲを生やした、直立する猫がいた。

 「猫にヤマアラシのトゲって、無茶するなぁ。」

 (すっかり忘れてたけど、ユーコって、あのゲームのヤマアラシだったんだよな。)

 トゲ猫は再び体を丸めて弾丸のようにデモンエイプに襲い掛かった。

 デモンエイプと周囲の木を使ってピンボールのように飛び回っては体当たりを繰り返す。

 デモンエイプですらついていけないほどの速さで縦横無尽に飛び掛かるユーコ。

 さすがのデモンエイプも完全に翻弄されている。

 「こっちはぁ~まぁかせてぇ~~。」

 動きと口調があっていない。

 そんなユーコに、ライアーは思わず吹き出してしまった。

 体についた土をはらうと、呆然としているデモンエイプに意識を戻した。

 (まぁ、こいつにとっても異様だよな。)

 飛び回る弾を見ていたデモンエイプだが、すぐに我に返ると再びライアーめがけて飛び上がり、頭上から襲い掛かってきた。

 その瞬間、ライアーの体が炎に包まれた。

 炎に驚いたデモンエイプが振り下ろそうとした腕を引っ込めると、空いたみぞおちに、蹴り上げたライアーの足がクリーンヒットした。

 炎に包まれるエイプに、反撃のいとまを与えずに連続技を叩き込む。

 炎によるダメージは、実は見た目と違って大したことが無い。

 デモンエイプにはほぼ効果無しと言っていいし、その後のアレ(スッポンポン)もある。

 だから今まで使ってこなかったのだが、それでも使ったのは攻撃力以外のメリットに賭けてみることにしたからだ。

 炎で猿を驚かせる。

 先ほどの電撃でも、一瞬硬直したのだから、炎に包まれれば大きな動揺を誘えるかもしれない。

 しかも、ライアーの炎に触れると、対象は必ず炎に包まれ、数秒の硬直が起こるのだ。

 (これがゲームじゃ味わえない駆け引きだよな。)

 ユーコの登場で、ライアーは完全に落ち着きを取り戻していた。

 もうマナのことは見ない。

 まずは一刻も早く目の前の敵を倒してサポートに回ればいい、それが一番早く、確実にマナを救える道だ。

 (タイムアタックは得意なんだ。)

オリジナルも含めて、デモンエイプに反撃の隙を与えることなく連続技を次々と決める。

 ハメ技などは大きな大会では禁止にされることもあるので自然と使わなくなっていたが、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 久しぶりだが、タイミングは脳が覚えている。

 炎に対する本能的な恐怖も相まって、デモンエイプはなすがままにライアーの猛攻を受け、ついには倒れた。

 仕留めると、ライアーは迷わずユーコの元へ向かった。

 戦いを見て、スピードで圧倒していてもダメージになっていないことが分かったからだ。

 エイプの傷は、スロークに付けられたもの以外見当たらない。

 動きに慣れられたら捕まってしまう。

 捕まえられたら、ユーコでは抵抗することもできずに引き裂かれてしまうだろう。

 フラッシュランナーでも、敵に触れただけであっけなくやられてしまう。

 そしてユーコに向かったのには、スロークに対してのアピールの意味もあった。

 ここはもういいから、他へ行けと。

 

 ユーコの登場はマナにとっても想定外だった。

 まさか戦えるとは思ってもいなかったのだ。

 場違いに間延びした名乗りは、マナの焦りも幾分和らげた。

 「全くあの娘は・・・」

 そして、初めてスロークの存在に気が付いた。

 土塊が飛んでこなかったのは、そう言うことかと。

 守られていたことを知ると同時に、気持ちがぐっと軽くなった。

 その時、すぐ近くで炎が上がった。

 ライアーだ。

 その炎に驚いたのは、マナと対峙していたデモンエイプも同じだった。

 ビクッと体を震わせ、一瞬意識がマナを離れライアーへ向く。

 マナも、その隙を逃さなかった。

 ユーコの登場に安堵して、冷静さを少し取り戻せたことが大きい。

 メガブレードを再度発動して、デモンエイプめがけて飛び込む。

 我に返って、避けるのは無理と拳で迎撃するデモンエイプ。

 その拳が当たる寸前、体を右回転させて躱すと、エイプの胸に肘打ちするように巨大化したブレードを叩き込んだ。

心臓こそ貫けなかったものの、胸から激しく鮮血を吹き出すデモンエイプ。

 さらに追い打ちをかけ、鋭く回転したブレードで首を切り落とした。

 これで4対1。

 完全に形勢逆転、マナも迷わず最後の一匹を仕留めにかかった。


 スロークの分体とデモンエイプの睨み合いは続いていた。

 あの一瞬の隙でマナを負傷させてしまったが、二射目の投擲にうまく合わせてスキル”暗殺剣”によって右腕を切りつけることができた。

 手ごたえから、剣が骨にも達している。

 右腕はもう使えないだろう。

 土塊での援護はもうできまい。

 それほどの一撃、デモンエイプの警戒は一身にスロークへと向けられた。

 あの一撃が、隠密状態からでしか出すことのできない技だとはデモンエイプは知らない。

 スロークも動けない。

 彼の技のほとんどが、隠密状態を起点とする。

 ロックオンされた状態から再び隠密状態になることは不可能に近い。

 せめて、分体ではなく本体であれば、ライアーたちが勝利するまで時間を稼ぎつつ戦うことはできただろう。

 分体を使わずスローク本来の力を発揮できれば、真正面からぶつかっても勝てただろう。

 今は、デモンエイプが警戒し、動かないことを祈るしかできない。

 デモンエイプがうなり声をあげる。

 緊張感が最高潮にまで高まったその瞬間、突然大きな毛玉が飛び込んできた。

 それがユーコだと気が付いたのは、間の抜けた名乗りを聞く直前だ。

 スロークはこれまで子供たちの世話をするか日向ぼっこしているユーコしか見たことが無かったので、高速で飛び回るユーコの姿に驚かされた。

 とても想像もつかなかったが、確かに彼女がプレイしていたのは高速アクションゲームだった。

 すぐにライアーの全身が炎に包まれ、マナの動きも変わった。

 これなら・・・

 二人の様子なら、もう心配はない。

 ユーコの実力も片腕のデモンエイプ相手ならば申し分ない。

 スロークの分体は、本体と合流すべくその場を去った。

 ユーシンが危ない。

 かつての個体との実力差を感じたことで、単独で戦うユーシンに不安を感じた。

 

 3匹目も仕留めると、ライアーの炎が消えた。

 シンが何か考えていたみたいだけれど、結局火に強い服は間に合わなかった。

 「あららぁ?ライアーちゃんってぇ、女の子でしたっけぇ?」

 あいかわらず隠そうともしないライアーの股間には、以前あったものが無くなっていた。

 「切り落とされちゃたまんないからね。」

 と言ってマナをどや顔で見るライアー。

 「どうでもいいけど服は着なさい、露出狂は男女問わず犯罪です。」

 そう言うと、木陰に隠してあったローブを取り出した。

 ライアーと組むとなった時から用意して、戦闘前に隠していたのだ。

 「さて、次はどうしようか?」

 ローブを着ながら、次のターゲットを考えるライアー。

 「君はとりあえず村へ戻ってちゃんとした服を着てきなさい。」

 「あ~、さすがにシンさんのローブ燃やしちゃまずいか。」

 燃やす気だったようだ。

 「最初から脱いで戦った方がいいのかな。服燃やさなくて済むし。」

 「君、本当にそっちの趣味の人?なら早急に村を出てほしいんだけど。」

 「すっぽんぽんはだめぇ~ですよ。」

 ユーコの背中に生えていたトゲはすっかりなくなっている。マナのブレードと同じで、戦闘時にだけ生えてくるようだ。

 「はいはい、わかったよ。とりあえずソッコーで服着てシンさんの加勢に行くかな。」

 そう言うとライアーは村へ向けて歩き出した。

 「ユーコはぁ、アオイちゃんが心配なのでそっちへ行きますぅ。」

 「アオイ?そう言えば、なんであなたがここにいるの?アオイも一緒にユーキと監視してるんじゃ。」

 「それはぁ、おとめの秘密なのですぅ。」

 そう言って村の方向へと走り去ってしまった。

 「オトメって・・・猫でしょ・・・あ!」

 思い出した。

 余裕があれば、魔石はとっておいてと言われたんだった。

 ライアーが着替えの指示におとなしくしたがったのは、魔石取りをやりたくなかったからか。

 ポーションで傷は治っても、疲労感は癒せない。

 2度のメガブレードで疲れてはいたが、高額になるとも聞いていたし、毛皮も魔物除けにいいから・・・。

 多少悩んだ結果、とりあえずはと苦労して3匹の死体を障壁の中に押し込んだ。

 3mもある巨大な猿を一人で引きずるのは決して楽ではなかった。

 (魔石取りは後でライアーにやらせる、絶対やらせる。)

 どこかのんきにしていられるのは、シンやユーシン、スロークへの信頼があればこそだ。

 グレートベアから救い出してくれた彼らに絶対の信頼を感じていた。

 その彼らからこの場を託された時は、不謹慎ながらも高揚してしまったのだが、結局自分には戦いは向いていないんだと認識させられてしまった。

 想定外に弱すぎる。

 これではいつか、みんなの足を引っ張ってしまうに違いない。

 (とにかく私もシンさんを手伝わなきゃ。)

 そう思った時、結界が波打つようにたわんだ。

 「なに?」

 透明で見えない結界が波打つ様子をハッキリと認識できた。

 (ハンターたちのいる方からだ。)

 一瞬迷ったが、マナはハンターたちの元へと駆け出した。

挿絵(By みてみん)

リアル版・・・このままでもいいかなとは思った。

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