003話:森のくまさん
夜が来る。
何も解決しないまま迎える2度目の夜。
急に昨夜の恐怖がよみがえる。
あわてて手近な木に登った。
木登りなんかしたことないけど、何度かずり落ちながら必死に、4mくらいの高さにあるしっかりした枝にまたがった。
意味ないかもしれないけど、地面より少しだけ安心、そんな気がした。
昨夜の場所より空が開けているのか、月の光が差し込んで周囲の様子が見える。
「月ってこんなに明るいんだ。」
声に出ていたことに驚いた。
静かにしなきゃ。
チョットした油断で魔物に気付かれたら即アウトだ。
しかしながら、木の上で過ごすうちに安心したのか、急に眠気が襲ってきた。
眠い。
でも眠っちゃいけない。
バランス崩して落っこちたら大怪我だ。
こんなところで大怪我したら即、ゲームオーバーだ。
死んだら最後のセーブポイントで復活、なんてありえないだろうな。
なんせ、「「何もわからず野垂れ死にするリスクが減ることでしょう。」」なんて、あの悪魔も言っていたことだし。
とにかく今は、じっと息をひそめているしかない。
こんな時、ラノベとかだと前世の知識でピンチを脱出!とか、チート能力でズパッと解決!なんて展開になりそうなもんなんだけどな。
俺の前世にあたるのって、いわゆる町の電気屋さんに勤めるただのおっさんだからね。
家電製品の販売配送設置、修理に電気工事が主なお仕事。
営業的なこともするし、水道やらちょっとしたリフォーム関係の仕事もしてきたけれどね、ぶっちゃけ、電気も水道設備も無いこの世界で役に立つとは思えないんだよね。
おまけに頼りのチートは・・・はぁ。
ため息が白い。
気温が急に下がってきたようだ。
日中は割と暖かかったし歩き詰めだったから忘れていたけど、昨夜はかなり寒かったんだよな。
ウトウトしては頬を抓って眠気と戦う。
何かで体を固定出来たらな。
少しは眠りたいよ。
眠りたい?
・・・なんかちょっと・・・う~ん。
俺、なんでこんなに落ち着いてるんだ?
いや、ガクガクと震えそうなほど怖いけどさ、そのわりには取り乱してないような・・・気がする。
やっぱりあれか、魂を補充するだかのために使われた犠牲者ってのが影響してる?
逆かもしれないな。
俺が欠片なら、比重は犠牲者の方が多いかもしれない。
俺自身だと思っているけれど、実は他の誰かに俺の記憶がこびりついているだけだったとか。
だとしたらキツイなぁ。
・・・イカンイカン、こんな時に自分で不安を増やしてどうするんだよって。
考えない考えない。
普段通りの思考で恐怖をごまかすとしよう。
仕事は意味無いよな、もう。
ゲームも・・・もうやることは無いだろう。
ある意味進行形でやってると言えなくも無いけど。
バラエティー番組もラノベも漫画ももう見ることはできないんだなぁ。
プチメタのライブBDも来週発売だったのに。
クソ、平常心を保とうとしたのに落ち込んでしまいそうだ。
ガサガサ
そんな思考の底なし沼に飛び込みかけた時、すぐ近くの藪が動いた。
目を凝らすと、茂みからずんぐりと丸い何かが出てくるところだった。
ゆっくりノソノソと近づいてくる。
なんか和む動きだ。
4本足で動いていたそれが、俺が登っている木のすぐそばでまで来ると、ヨロッと立ち上がった。
丸っこいフォルム、短い手足、大きな鼻。
カワイイ。
昔テレビで見たオーストラリアの動物、ウォンバットに似ている。
もう一度言おう、”カワイイ”。
と、”常識”が働いた。
<リルベア> 体長40cm(立ち上がると1m)ほどの魔物 非常に獰猛。
それだけかよ!
“常識”が一般人の常識の範疇しか教えてくれないってわかってても、もうちょっと・・・ねぇ。
とにかく、かわいく見えても獰猛な魔物らしい。
まんまるお目々がカワ・・・じゃない、しっかり俺をロックオンしている。
緊張感が高まる。
心臓の鼓動をはっきりと感じる。
ゆっくりと、刺激しないように座っていた枝の上に立ち上がった。
バッグに詰めた石を1個取り出す。
武器になりそうな頑丈な棒でも探しておけばよかった。
いまさら後悔しても遅い。
リルベアが木を登り始めた。
ノソノソと、不器用に上ってくる。
あ、なんかカワイイ。
いかん!カワイくても獰猛な魔物だ。
・・・うん、魔物だ。
狙いをつけて、石をリルベアに投げつけた。
ゴッ
ンギッ
石は頭にクリーンヒット。
したけど、リルベアは小さな鳴き声(?)を上げただけで意に介さず上り続ける。
2個、3個、なりふり構わずに石を投げ続ける。
最後の1個を手に取った時、リルベアはもう足元に来ていた。
鋭い爪が足元の枝にかかる。
「ひっ」
慌てて石を投げつけようとして、バランスを崩した。
「うわぁっ」
ひねりの無いの叫びをあげると、俺は情けなくもリルベアを巻き込んで枝からころげ落ちた。
ぐえっ
運よく、先に落ちる形になったリルベアの腹の上に落ちた。
俺のダメージはほとんどない。
ナイスだクマたん。
リルベアはひっくり返った状態でグテッとしている。
4mとはいえ、背中からもろに落ちたところに、腹の上に俺が落ちて来たのだから、さすがにそれなりのダメージを食らったらしい。
打ちどころも悪かったのかもしれないけど。
ひょっとして、殺しちゃった?
そう思ったとき、グタッと垂れ下がっていたリルベアの頭が上がり、目が合った。
「ひっ!」
全身が総毛だった。
次の瞬間、俺は最後に投げつけようとしてそのまま持っていた石をリルベアの顔面にたたきつけていた。
何度も何度も、血が飛び散るもの構わずに、ただただ全力で打ち付ける。
石を持ち続けられずに落とすまで続けた。
全身がガクガクと震えている。
あの瞬間の恐怖、殺気というやつなのだろうか。
それに・・・初めて、動物を殺した。
夜でよかった。
返り血でぬれた腕も、ピクリとも動かなくなったリルベアのつぶれた頭も、暗くてよく見えない。
違う、見えないんじゃない。
見れないだけだ。
震えが収まらない。
ただその場でうずくまって、震えていることしかできなかった。
どれくらいたったのか、少し落ち着いてきた。
複数の何かが近付いてくる音を感じる程度には。
血!
臭いで魔物が来る!
思うが早いか、一目散に走りだした。
とにかく走った。
すぐ後ろから魔物が追いかけてくるような気がした。
ただただ、まっすぐ前だけを見て走った。
木の根に足をとられ、小さなくぼみにもんどりうって、それでも走った。
何度目だろうか、根に足を引っかけて転がると、もう動けなかった。
荒い呼吸音が夜の森に響く。
静かにしなきゃいけないのはわかっていても、呼吸音を抑えることができなかった。
やっとのことで仰向けになると、とにかく呼吸を整えることだけに集中した。
空が見える。
木に半分さえぎられているけど、見える空には、写真でしか見たことがないような星空があった。
生き残った。
まだまだ2度目の夜は長いだろうけど、とりあえず生き残った。
無性にうれしくなった。
荒い息を整えながら、木々の隙間から見える星空をボーっと見ていた。
落ち着いてきたころ、吐いた息が真っ白なことに気が付いた。
体が冷えて来た。
寒い。
あぁ、今、汗でびっしょりだ、風邪ひいちゃうな。
とはいえ、火を起こす手段がない以上、体が冷えすぎないように動くしかない。
疲れ切った体を無理矢理起こすと、弱音を吐く体に鞭打って一歩一歩、歩き出す。
疲れ切ってぎこちない動きも、しばらくすると不思議なもので、楽に歩けてくる。
そう言うとこだけゲームのままか?
筋肉痛にならないんなら、それはそれでありがたい。
余裕が出てくるとやっぱり気になってきた。
魔物1匹、変化はないだろうけど。
一応ステータスを見てみる。
氏 名:飯田 真一(48)
性 別:男
種 族:ヒューマン
職業 :超越者
レベル:3
経験値:382 次のレベルアップまで118
生命力:12/15 肉体的ダメージを受けると減る。0になると死ぬ
魔 力:15 魔法を使うと減る。0になると意識を失う
気 力:15 スキルを使うと減る。0になると意識を失う
筋 力:15 力の強さ。攻撃力などに関係
体 力:1/15 スタミナ。持久力などに関係
敏捷性:15 動きの素早さ
器用さ:15 手先の器用さやバランス感覚など
知 識:15 記憶力と知識量。魔法の発動や威力に関係
知 恵:15 頭の良さ。計算速度などに関係
魅 力:15 高いと人を引き付けたり、友好に思われやすくなる
魔法 :ライト(MAX) マジックミサイル(MAX) マジックシールド(MAX)
スキル:強撃(MAX) 応急処置(MAX) 見立て(MAX) 警戒(MAX) 簡易貯蔵庫(MAX)
所持品:木の枝(10) 赤い実(6) 丸い実(3)
装 備:シャツ(服)・ズボン(服)・パンツ(服)・靴(服)肩掛けバッグ(袋)
!?
レベルが3になってる?
ゲームで検証したときは、超越者ではレベル5の魔物を倒してもレべルは上がらなかったのに、いきなり3?
リルベアって相当な強さだったのか?
経験値300オーバー。
職業上格上相手のボーナスは無いから、リルベアは最低でも10レベルに相当するようだ。
ゲームだったら、どれほどの強運に恵まれても絶対に勝てないレベル差だ。
たとえ相手が動かずに、攻撃し放題だったとしてもダメージ0がむなしく続くだけ、現実だからこそ勝てたってことか?弱点か何かを運よくつけたとか?
あいかわらず”常識”さんは何も知らない。
そうなると、どれだけ強くなっても、簡単に殺されることもあるんだろうなぁ。
ゲームとは違う。
ここはちゃんとした現実の世界なんだ。
ちゃんと認識しなきゃならないけれど、所々ゲームの仕様っぽいところがあって戸惑いばかりが増えていく。
まったくもってややこしい。
“常識”さんの覚えている限りは、この世界にレベルやスキルは存在しない。
魔法も、“常識”さんの中には無い。
魔法使いがいるってことは知っているけど、見たことは無い。
レベルアップで自動的に覚えて即使えるということもない。
ゲームの概念を持つ俺は、この世界にとって異質なんだ。
気を付けないと。
人里に出るにしても、後追いで思い出す知識ではトラブルを回避できないかもしれない。
先によく考えて、この世界の常識を“思い出しておかないと”いけないな。
と、その前にまずは自分自身だ。
レベル3になったことで、初級職の魔法やスキルが開放された。
初級職は、見習いでレベル10になると転職できる、戦士・魔法師・斥候・労士 の4つだ。
さらに初級職でレベル30になると中級職に、中級職で60になると上級職に、上級職で80になると最上級職へランクアップできる。
それぞれ1~4種類の選択ができるようになっているため、全職業数は80種を超える。4種の初級職からランクアップしていける職業をまとめて戦士系統とか魔法師系統とか呼ぶが、系統をまたがって職業を経験しないとつけない特殊職などもあり、かなり複雑化している。
その上俺は、MODの追加職業も10種類ほど導入している。
一応すべての職業を、かなり高レベルまで、上級職以上にいたっては100レベルまで上げていた。うん、自分のことながら無駄な時間の使い方だよな。
実際、攻略情報サイトではいかに有益なスキルを確実に取って効率的に超越者になるかの考察でにぎわっていたものである。
超越者になる条件は、初級職の戦士、魔法師、斥候、労士、4つの系統ごとにそれぞれ1つ以上、最上級職を経験することと、直前に最上級職レベル100であることの2つだ。
なので、すべての職を経験する必要もレベル100にする必要もない。
最短で目指そうとするなら、見習いは10まで、中級職は30までと、ランクアップする最低限で条件は達成できる。
最上級職ですら、転職直前の1つ以外はレベル80でも条件をクリアできるのだ。
ただそれだと、非常に中途半端で使い物にならない超越者になってしまう。
最大の利点は、過去に覚えたことのある魔法とスキルを専業職並みに使えることなので、最低限で条件を達成していくと肝心のスキルや魔法を使えない上、威力は範囲に大きく影響する熟練度も低いままと、超越者の利点を生かせないことになる。
そこで効率的な転職手順が話題性を呼んだわけだ。
ランクアップした時レベルは保持される。
レベルさえ満たせば同系統のスキル、魔法は使用できるが、専門職に比べて1ランク性能が落ちる。
ランクダウンさせるときは初級職のレベル1からやり直しになる。
系統を変更する場合も、初級職レベル1からとなる。
他系統の魔法とスキルは、系統ごとにそれぞれ5つまで選択して持ち越すことができるが、性能は専業職より2ランク落ちる。
今回開放されたスキルは、レベル22で覚える、斥候の“応急処置”、労士の“みたて”に、レベル3で覚える戦士の“強撃”、斥候の“警戒”、労使の“簡易貯蔵庫”・・・あれ?これはMODで導入したスキルのはずだけど、表示されてるってことは使えるのか?
試してみる必要はあるけど、追加で入れたMODが有効ってことは非常にありがたい。
魔法はレベル2で覚える魔法師の“ライト”、“マジックミサイル” 、レベル3の“マジックシールド”。
熟練度がどれもMAXのままなのがありがたい。
これならマジックミサイルでもそこそこ戦える。
なんせ、マジックミサイル最強説なんてものがあるくらい使いやすい攻撃魔法だ。
魔法は魔力を消費する。
“ライト”は簡易的な明かりで熟練度がMAXでも松明程度の明るさで、消費量も少なく便利。
“マジックミサイル”は魔法の矢だ、威力は弱いけど、高速でまず外すことがないし、消費魔力も少ない。
熟練度によって矢が増え、MAXなら一度に5本放つことができる。
さらに、魔力を追加消費することで威力も強化できるわけで、これが最強説の元になっている。
けど、今の俺の魔力量だと追加消費は難しい。
“マジックシールド”は、半透明の盾を作り、手の届く範囲+α程度なら自由に動かすことができる。
熟練度によって強度と範囲の+αが変わり、MAXならよほど実力差がない限り破壊されることはない。
ゲームでは操作に慣れが必要な魔法で、熟練上げ以外ではあまり使った記憶がない。
スキルの方は気力を消費する。
“強撃”は攻撃時に1回だけ大幅に補正が付く。
気力を多く使うし、外すと解除されるので確実に当たると判断したときにしか使えない。
“応急処置”は生命力を少しだけ回復できる。
気力を消耗しないけど、一人に対してのクールタイム(スキル使用停止時間)がかなり長く、重ねがけができない。
“見立て”は、アイテムの名前をざっくりと判断できる簡易版の鑑定で、熟練度MAXでも分からなかったり外すことがあるのであまり当てにできない。
“警戒”は、半径10+熟練度+レベルmまでの敵意を感知する。
レベル差が大きかったり、隠密系のスキルを保有している相手は感知できなかったりする。
戦闘経験のある個体は識別できるけど、ゲームでは 戦闘=倒す なので役に立った記憶は無い。
“簡易貯蔵庫”は、MODで導入したものでゲームには本来無いスキルだ。
商人系統の職業がレベル30から覚える第一~第四までの4種類の貯蔵庫スキルを労士でも、低レベルからでも使えるように簡易化したスキルで、公開されてしばらくはスキル部門でダウンロード数1位固定になったほどの超人気MODだ。
枠は10~30、熟練度によって変わる。
容量が小さく、第一貯蔵庫と同じ仕様(時間で劣化するアイテムの劣化速度が通常の2倍)の小型版第一貯蔵庫と言えるものだ。
劣化が速いため食料や簡易ポーションなどの時間で劣化するアイテムは入れられないが、バッグよりも大きなもの、鎧や大型の盾も入れられるのが人気の理由だ。
ま、大きさには制限があるけど。
諦めていたMODが有効らしいってことだけでもありがたいことだけど、できれば中身も無事であってほしい。
ちょっとドキドキしながら簡易貯蔵庫を使う。
すると、目の前に木製のドアが現れた。
「おおぅ」
変な声が出た。
ゲームではこんな演出なかったけど。
人前や町中では使いにくいな。
ドアを開けると、その先には物置のような空間が。
緊張しつつも入ってみる。
4畳半くらいの小さな部屋には、剣や鎧、木箱などが置かれている。
「やった。中身はそのまんまだ。」
悪魔は結構いいかげんな性格らしいな。
メインの枠に入っているアイテムや装備していた物だけを消して、スキルにしまったアイテムは手付かずとは。
他のゲームから来た人たちから恨まれそうだ。
とはいえあくまでも簡易貯蔵庫。
入れてあるのは初期の頃に手に入れてすぐに使わなくなった微妙装備とかだ。
ゲームで装備していた最強装備は消えてしまったし、重要なものや貴重品は時間劣化が無い第3貯蔵庫に入れてあるから、レベル70まではお預けだ。
さらに移動用などの大型アイテムは第4貯蔵庫にしか入らないので、レベル90にならないと解放されない。
さて、ここには何を入れていたかな。
ショートソード(攻撃力+2・命中補正+1)
レザーアーマー(スタミナ回復+10%)
ハンドアクス(木材採取速度+10%)
ピックアクス(鉱物採集速度+5%)
解体用ナイフ
牛革の背負い袋(収納枠20、スタッグ30)
ショートボウ(命中補正+2)
鋼の矢20本
ロープ(10m)
とりあえずこれだけを取り出して装備した。
ゲームだと一瞬なんだけど。
思ったより鎧の装着が面倒くさい。
火をつける道具はなかった。
ゲームでも無かったしなぁ、松明も使えば自動でついたしなぁ、どっちみちその松明すらないんだけどね。
やはり甘くはなかったか。
できれば朝までこの中にいたいけど、もしドアが壊されたらどうなるか・・・考えたくもないので外に出る。
周囲はまだ暗い。
少し考えてから、“ライト”を使った。
頭上にぽぅっと、白い光の玉が浮かびあがる。
危険より明るさを選んだ。
装備を整えられたことで気が緩んだのかもしれない。
歩き出す。
初めての戦いの場所から少しでも離れられるように。
“警戒”も使いながら、夜の森を歩く。
ライトは俺の頭上、少し前の位置をキープするように移動させている。
不思議と眠気はない。
あれだけのことがあったからだろう、まだ頭は興奮状態なのかもしれない。
鎧のおかげか、レベルが上がったからか、寒さもあまり感じない。
バッグから赤い実を取り出して、覚悟を決めてかじる。
口の中に、かすかな甘みと全身に震えが走るようなエグみが広がった。
無理して呑み込む。
2口目は、かなり躊躇しながらも頑張った。
一口ごとに気力を消費する、こんな食事は初めてだ。
1個食べきるのにかなり時間がかかった。
途中で水の出るツタが見つからなければ、半分で断念してただろう。
水で無理やり流し込んだ。
「はぁ・・・カップ麺食いたい。」
声に出ていた。
食は大事だな。
エグみのおかげで空腹感はまぎれた(というより当分何も食べたくない)けど、この先も希望が持てない。
この世界の食べ物はすべからく、エグみが付いてくることを知ってしまっただけに。
はぁ、憂鬱。