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パーシーの希望と家族の思い

ストーク王家は真田さん一家をモデルにしました。パーシーは少し捻くれた信繁さんです。

帝国は江戸幕府、公爵家は尾張徳川家でしょうか。

世知辛くもハートフルなお話を目指します。

ストーク王国の第二王子パーシーは、帝国軍への応援の為の出陣から帰還すると、すぐに父と兄に挨拶に赴いた。


「敵を寡兵と見て襲い掛かった帝国軍ですが、逃げるふりをした敵軍を追いかけたところで伏兵に遭い、包囲されて大敗。

私は後方で待機の命令を受けていましたが、追ってくる敵軍の側面を突いてその勢いを止め、引き分けに持ち込みました」


「パーシー、よくやった。

敵軍の強襲で敗走しかけた帝国軍の中、少数の兵で勝ちに乗る敵軍を撃破するとは大功績。


今回の戦では世話になったと皇帝陛下から礼状が届いたぞ」

と父は手放しで褒める。


(よく言うよ。

所詮は手伝い戦、なるだけ損害を出さないようにしろと言っていたくせに)


ストーク王国は帝国の属国。

命じられれば出兵せざるを得ない。

しかし、そんな自国に関係のないところに父王や兄の王太子か行くこともないと次男のパーシーが行かされたのだ。


結果として大手柄を上げたことで帝国の機嫌を取れて、父も兄も上機嫌。

パーシーは無駄に働くなと叱責されるかと思っていただけに安心した。


「これでお前も名前が売れたことだし、どこかから婿入りの話があればいいのだがな」


兄が好意かからかっているのか口を出す。


(これまで僕が婿入りできなかったのは兄貴のせいでもあるんだぞ!)


ストーク王国は山間の小国だが、国民は尚武の気質であり、父王は優れた軍才があった。

小国を軽く呑み込もうと侵攻してきた帝国を2度に渡って巧みな戦術で撃退。

その後、他に戦端を開いた帝国が譲歩して和を結び、以来、独立を維持しつつもその従属国となった。


しかし、帝国は敗北の苦味を味あわせたストーク王国を警戒し、和睦の条件で兄には帝国から有力貴族の娘を嫁がせるとともに、そこに多くの従者を付けて、王国を監視している。


更に、継承順位2位のパーシーを、良好な教育を与えるという名目で帝国に人質として出させた。

付いてきたのは乳兄弟のウィレムのみ。


帝都の学校では敵国の子供として虐めに遭い、パーシーは幼くして頼るもののない中で自分でなんとかしなけねばならないことを学んだ。


大勢の帝国貴族の子弟に反撃もままならない中で、パーシーは年初のご機嫌伺いの際に皇帝に対して、虐めで傷すら負わされていると直訴し、驚いた皇帝から大事な人質を虐めていた子弟やその実家、見過ごしていた教師には厳しい処罰が下された。


パーシーの初めての勝利である。

もっとも幼子を一人で敵国に送り、何ら保護をしてくれなかった父や兄には、彼らが国の独立を保つために奔走していたとは言え、若干含むところがないとは言えない。


父に恨み言を言っても、

「儂らは死ぬ思いで独立のために和戦両方で戦っていたのだ。虐めくらい自力で片付けなければストーク家の男とは言えないぞ!」と一笑に付されるのみ。


幾度もの従軍など帝国への協力を認められ帰国が許されてからは、自領で父王や兄の王太子の輔佐の仕事をさせられていた。

王国もパーシーも微妙な立ち位置の中、これまで婿入りの話は来たことがない。


兄に何人かの子が生まれ、スペアの価値が下がり、パーシーは軍を率いて領外に出ることを命じられた。

その最初が危険な帝国への援軍の責任者だっだが。


「しかし帝国も多くの貴族が討ち死にして大変なようですね。

大貴族のクラーク公爵家など嫡男が亡くなったとか」


話を変えようとしたパーシーの言葉に父も頷く。


「戦後の政争が激しいようだ。

引き分けたとはいえ多数の貴族の戦死に皇帝陛下は責任を追求されている。

名君と言われた父君の跡を継がれて功を焦られたのか、確かに迂闊な攻撃だった。


噂では、皇室規範を改定して女性の継承を認め、現皇帝は退位して、優秀と噂されるその姉君が女帝になられるかもと聞く。

そうすると貴族も女性が当主になれることになろう」


父の言葉に兄が続ける。


「いつも我ら属国に先手を行かせて戦の経験にも乏しいのに、今回は弱小国が相手と侮り、手柄稼ぎに多くの若手貴族が初陣したからな。


我が国も同じような目に合わせてやったが、大国は学ばないものだ。

さて、お前も名前を挙げたので、跡継ぎを亡くした帝国の公爵家や侯爵家から婿にと望まれるかもしれないぞ」


「まさか。

我が家の格はせいぜい伯爵家がいいところ。

義姉上も帝国の伯爵家からの嫁入りでしたよね。


そこからすれば次男の私には帝国から話が来ても子爵か男爵でしょう。

私としては気苦労の多い帝国よりも、同レベルの属国の貴族や富農や大商人の婿ぐらいが楽でいいのですが」


帝国にいたときは下級貴族の学校に入れられたり王宮で小姓として使われて、同待遇の子爵や男爵の子弟と付き合い、王族や上級貴族への苦労を聞いていたパーシーの言葉に父や兄は苦笑する。


「行き先がなければ家臣のところに婿入して、今までのように手伝ってくれればいい。

でも今回のことでお前が使える男だとわかったから売り先には困らないと思うが。

とにかく我が国に利のあるところに行ってくれ」


父にそんなことを言われるが、帝国に行けば気苦労が多く、しかし国内で父や兄に使われるのも嫌だ、パーシーは楽な婿入り先を心から願った。


パーシーが浮かない顔色で退出した後、父ゴードン王は王太子のトーマスに言う。


「親のひいき目かもしれんが、パーシーは政戦とも才はあると思うのだが、どうも捻くれたところがあるな。儂らの称賛も素直に受け取っていないようだ」


トーマスは少し辛そうな表情で返事する。


「幼い頃に帝国で苦労しましたからね。

あの時に必死で手紙で訴えてきたのが哀れでなりませんでした。

我々も帝国の厳しい監視下に置かれて追い使われ、そんな余裕もなかったですが、なんとかしてやれなかったかと思います。


せめて、パーシーに活躍の場を与えて、いい婿入り先を世話してやれればいいのですが、本人は家の都合で使われると思いそうですね」


「亡き妻ユリアもパーシーを心配していた。

その手紙を見て病身ながら烈火のごとく激怒して帝国に怒鳴り込みに行くといって聞かなかった。


結局病が篤くなって亡くなったが連絡が遅くなり、死に目に合えずに、パーシーは怒っていたな。

奴には負い目がある。


しかし、奴は次男なので好きに生きたいなどと言うが、才ある王子はそういう訳にはいかん。

奴の才を役立て、国のためにもなり、奴も満足できる道があればいいのだが」


ゴードン王も心配そうに心情を吐露する。

長男は政戦に安定した実績を示し、孫も生まれ、領地の継承に不安はない。

次男はそれを凌ぐ才があるようだが、目を話していた間にその精神は王子としてはやや不安定に思える。

せめて彼に良い縁を繋いでやりたいと父王は願った。



すぐにでも来るかと思った婿入りの話は一向に音沙汰がなく、パーシーは父の命令であちこちの山賊退治や国境の小競り合い、帝国軍への応援、軍務の手が空けば王国の政務とこき使われていた。


これまで帝国の圧力を躱し、協力し、時には戦いも交えて、狡猾かつ勇敢に独立を維持していた父はまだまだ元気。

成人した息子に政治や軍事を任せつつ、孫の相手をする振りで陰で動いているようだ。


跡を継ぐ兄は帝都に赴き、王位継承を認めてもらう為、あちこちと奔走している。


そう思うと当主の代理で東奔西走させられるのもやむを得ないが、どうせ出ていく身で酷使されることにパーシーは内心腹を立てていた。


「ウィレム、おかしいと思わないか。

皇帝陛下からも褒められたのに、なんで婿入りの話が来ない。


種馬の仕事だけしてくれれば、後は寝ていて下さいというような話が来ていてもいいだろう。

親父と兄貴が握りつぶしているのか?」


パーシーは疑心暗鬼となって、唯一胸の内をあかせる乳兄弟のウィレムにこぼす。


「そんなことはないでしょう。

待てば海路の日和あり。

真面目に仕事していればいい話も来ますよ」


呆れているのかウィレムの慰めは心がこもっていない。

くそっと思いながらも、パーシーは与えられた仕事をこなすしかない。


戦から1年以上が経ち、パーシーが父の目を盗み、伝手を辿って豊かな領地持ちの騎士や富農にでも婿入りするかと算段し始めた頃、王位継承が認められ帰国した兄が思いがけない話を持ってくる。


「パーシー、クラーク公爵家から婿入りの話が来ているぞ!

男子が戦死し、後は外に片付いていて、もはや家には娘が一人しかいない。


即位された女帝が女当主を認められたため、末娘を当主とし婿を探していたそうだ。

色々と当たった挙げ句に、帝国内の勢力争いなどで外から婿を迎えた方が良いと判断され、我が家に話が来たようだ」


「クラーク公爵家と言えば何度も王家と婚姻している名家中の名家。

帝国の王子か他の公爵家から婿に行くのが普通でしょう。

そんな身分違いなところに行くのは絶対に嫌です!」


何を期待されているのか、ろくなことはないとパーシーは真っ平ごめんと渋面を作る。


「お前も名前は王子だから、外から見れば公爵家と釣り合いは取れるぞ。

宮中の席次は皇帝陛下と皇族の次は、我ら同盟国の王だ。名目は大貴族よりも上になる。


重要なことはお前が婿入りすれば多額の支援も見込め、帝国内に味方もできる。

我が国は未だに帝国に警戒されている。


パーシー行け!上手く公爵家を手懐け、味方とせよ。

追い出されたら帰る場所はないと思え!」


父の一喝で話は決まった。

その顔は隠し切れぬ上機嫌を示している。


パーシーは腹の中で思う。


このクソ親父、何をコソコソとやっているかと思ったら、兄貴と連絡を取って僕の婿入り先を物色していたのか。

名君と言われた前皇帝に苦渋を味あわせ、表裏比興の男と言われた父は今度は僕のの婿入りに辣腕を振るったようだ。


兄の子供も三人目ができて僕はもう不用品扱い。

それを餌にして思わぬ大物が釣れればホクホク顔にもなるだろう。


抵抗しようにも、親は子供に生殺与奪の権利を持っている。

さすがに身一つで夜逃げするのは嫌だ。


嫌がるパーシーをよそにトントン拍子で話はまとまり、パーシーは公爵家に婿に行くことになった。

相手の名前はカーラということしかわからない。


パーシーは詳しいことを聞くために帝都の伯爵出の義姉のところに伺う。


「義姉上、僕の婿入り先のクラーク公爵家のカーラ令嬢について教えてください」


兄嫁はちょうど子供の相手をしていたが、僕を見ると子供を乳母に渡してこちらに向き合った。


「パーシーさん、おめでとう。

クラーク公爵家の婿入りには私の実家も骨を折ったのよ」


義姉の実家、ブリストル伯爵家は帝国でも有力な諸侯。

旧敵で向背の疑わしいストーク王国との繋ぎのため、力のある諸侯から才知あふれる令嬢が選ばれたと聞いたことがある。

僕を婿入りさせることで兄嫁や伯爵は何を狙っている?


兄嫁は話し始めた。


「クラーク家のカーラさんのことは噂でよく聞きました。

公爵が歳をとってから生まれ、幼い時に母を亡くされたため、溺愛され、公爵はこの娘は家中に嫁がせて手元に置いておくと公言されていたそうです。


カーラさんは確か14歳。パーシーさんは18ですか。

まあ釣り合いは取れてますね。


公爵家は皆容姿に恵まれてますが、彼女はその中でもずば抜けて美しいと評判です。

しかし、公爵が外に出す気がないので教育や礼儀作法はそれほど厳しくなく、甘やかされて育ったとか。

私も何度かお見かけしましたが、公の場でも公爵に甘えていましたね」


そう聞くと嫌な予感しかしない。


「美貌を見込まれて、王家や他の公爵家などから婚姻の話もあったのですが、御本人は流行りの純愛物語にはまり込み、真実の愛で結ばれた方としか結婚しないと宣われ、ご家族も末っ子だからと矯正せずにそのままだそうです」


面白そうに話す義姉も怖いが、僕は勇を振るって聞いてみた。


「でも、世子達が亡くなられて、世継ぎになるということは変わられたのでしょうね。

いや、公爵様がきちんと当主にふさわしく教育し直されたのではないですか」


それを聞いた義姉は可笑しそうに笑った。


「それならば良いのですけどね。

実家から聞いているところでは、公爵は期待していた嫡男が亡くなられて衝撃で倒れ、寝たきりになられたようです。


御嫡男は結婚されていて幼い子供もいるのですが、大貴族の家を幼児が回せるわけもなく、次の当主を狙って他家に嫁いでいた姉達が戻ろうとするも、その婚家の力が増すことを家中の家臣は嫌がり、貴族間のバランスが崩れることを嫌った皇帝陛下も認めず、遂には末子に婿をもらって継がせろとのこと。


そして帝国内の有力諸侯から婿候補が殺到しましたが、帝国内の貴族のバランスや家中の収まりが難しく、いっそ外の弱小国から連れてくればとの声も上がったところで、我が実家がパーシーさんを推薦しました。

勿論、先般の戦功や国内での政務の実績も売り込みましたよ」


最悪だ。

なまじ勢力が大きいだけに他の諸侯から虎視眈々と狙われ、家中もぐちゃぐちゃ。

頼みの綱の当主は寝たきりで、次期当主にして妻となる人はお花畑の住人とは。


僕の顔色がどんどん悪くなることを、クスクス笑いながら義姉は眺めている。


「義姉上、そこまで聞かしたということは僕に逃げていいと言っているのですね」


パーシーはそんなはずはないと思いながらも、楽しそうな顔の兄嫁に腹が立ち、目を据えて、切口上でそう言った。


「あら、違うわよ。

私はあなたを買っているの。

あなたには政治や軍事の才能があるわ。


困難な状況だけど、うまく公爵家を把握して、我が家と実家に貢献して下さいな。

勿論、私達も支援は惜しまない。

実際、お義父様も実家もあなたを押し込むのにお金をばら撒いたわ。

これはあなたを見込んだ投資よ」


そういうと、義姉は

「ねえ、しっかりした伯父さんが将来あなたを助けてくれるわ」

と赤子に話しかけた後、独り言のように言う。


「また若いカーラさんの気持ちもわかるけどね。

男は自分の人生を切り開けるし、側室を持つこともできる。

だから、政略結婚にそんなに抵抗ないのでしょう。


女は夫に賭けるしかないのに、その相手を有無を言わせずに決められるなんて、誰でも不満に決まっているでしょう。

ましてカーラさんは末娘で恋愛も認められるほど自由にしていたようだしね。


でも真実の愛なんて、なんの経験もない若者の幻想だと後になればわかる。

まして貴族の身となれば背中には沢山の家臣や領民の運命がかかっている。


その重荷を共に背負ってくれる戦友こそが真実の相手でしょう。

そのことを早めに判ればいいのだけど」


「義姉上も兄との結婚を言われたときには嫌だったのですか?」


兄嫁は笑顔で言う。


「もちろんよ。

どんな貴公子が私に愛を囁いてくれるのかと妄想していたもの。


ここに嫁げと言われたときはこんな田舎の小国に行くなんて嫌!

とどれだけ思ったことか。


でも優しい旦那様や家族に、素直な家臣や領民。

私はここに嫁いで良かったと思っているわ。


そう、結婚なんてやってみれば意外とうまくいくものよ」


(それはそうだろう。

うちよりも実力もあり、立場の強い実家を背負っているあなたに誰が逆らえますか。

まあ、義姉さんが実家から援助を持ってきたことや、世継ぎを早々に生んだこともありますが)


パーシーはそう思いつつも、

「嫁いでこられた義姉上がお綺麗で頭脳明晰、そのお人柄も素晴らしく、皆喜んでいます」とおべんちゃらを言う。


「ふふっ。ありがとう。

そう言ってくれるパーシーさんなら、立派に婿が勤まりますよ。


でも、カーラさんは女当主。

愛人を持ったりすることもできますからね。

パーシーさんなら大丈夫と思いますが、上手く手綱を引いてくださいな」


(おまけに僕は弱小の実家で、なんとバックアップもない。

お嬢様のコントロールなんてできるわけがない。

悪条件が揃っているな。

ああ、仕事は大変でもせめて心の通じ合う妻を持ちたいものだ)


父母は大変な中でもお互いに信頼していた。

兄も兄嫁に尻に敷かれながらも、早くも3人も子を儲けるなど仲良くやっている。

幼い頃に父母から離され、肉親の愛に飢えるパーシーは結婚に憧れがある。


そんな思いをよそに、腹のさぐりあいのような義姉との会話を終えて、パーシーは一礼すると立ち去った。

思った以上に酷いところに放り込まれるようだ。


(くそっ。

頼んでもいないのに公爵家の婿に押し込むとか無茶振りが過ぎるだろう!)


しかし、すべてのお膳立ては整えられている。

パーシーはそれに乗るしかない。


夜逃げも考えたが、警備は厳しく、また持ち出そうとした金はすべて管理されていた。

供をしてくれると思ったウィレムにも止められ、泣く泣くパーシーは覚悟を決める。



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