勝負に負けたウサギの言い訳ウザい
俺は亀だ。今、ウサギと駆け競べの勝負に勝ったところだ。
ゴールテープを切った俺に紙吹雪が舞い降りる中、ウサギは遅れてやってきて言い訳し始めた。
「いやいやいや。ノーカンでしょ」
「は?」
「だって寝ちゃってたもん。疲れて寝ちゃってたもん。体調万全で挑んだら負けはなかった。おかしいと思わなかった? その横通りすぎたんでしょ? 普通友達なら起こさね? もしもーし、つって」
「はぁ……? 友だち ならね」
「はあ? 友だちじゃないっていうのかよ。信じてたのに!」
「友だちではないだろう。人の歩みが遅いとバカにしてきて、自分の足が早いマウントをとってくるようなやつが友だちのハズないだろ?」
「いやいや、そう言ったら悔しいという気持ちが燃え上がってやる気が出るんじゃないかという、友情のナイス計らい。普通の連中には出来ない、この情の深さを考慮すべき」
「だったら勝ち負けにこだわらなくてよくね? まあ勝ったのは俺だけど」
「かー。じゃあ俺が勝ちってことで」
「別に構わんよ。見ている人はなんというか知らんが」
「だからあ、もう一回やろう。今度は向こうのスタート地点がゴール。ね、ね、ね」
「知らんよ。負けは負け。素直に認めろよ」
「あーウサギくん、疲れてるなーとか思わなかった?」
「で?」
「いやー、昨日ゴルフ行ってて」
「遊びかよ」
「いやマジ、もう一回やろう?」
「やらないよ。ゴルフなど言い訳にならん。勝負を挑んだのは君だ。君の負けだ」
「だからあ。そういう勝ちとか負けとか言うのやめない?」
「そもそも君が俺を下に見すぎてたことが敗因だ。君は俺じゃなく自分に負けたんだ。『この程度差をつけたから大丈夫だろう』『少しばかり休んでも大丈夫だろう』『たとえ抜かれてもすぐに追い付けるだろう』。それは誰の考えでもない。君自身の中にある弱さ。勝負への甘い考え。それを良しとしたずさんさ。全て君の責任だよ。君は俺じゃない。自分自身に負けたんだ」
「オーマイゴッド!!」
「ふむ」
「じゃんけんしない?」
「しない。それで勝ったからなんだというのだ」
「だっさなっきゃ負っけよ!」
「負けは君だ」
「はい、さーいしょーは」
「最初も最後もない」
「ねえ亀さぁん」
「さらばだ」
俺はウサギにゆっくりと背を向けた。夕日がまぶしい。まさに勝者の凱旋にふさわしい光景であった。