輝く星
神様はこの世界で、2人の人間だけを残した。
他には誰もいない、何もない世界。
ただただ太陽が昇り、沈み、月が辺りを照らす。
それを繰り返しているだけ。
車の音、喋る声、虫の鳴き声すら聞こえない。
残っているのは、建物、それから2人の人間。
1人はおっとりとしていて、時には頼りになる、唯波 緑知。
もう1人は、浅黄 尊。人当たりがよく、誰に対してもとても優しい。
「見て、緑知くん。綺麗な星」
少し黄色がかった茶髪が風に吹かれながら、尊が空を見上げて星達を指差す。
まだ昼だと言うのに満天の星空が浮かんでいた。
「ほんとだ。綺麗だね」
おっとりとした口調で緑知は頷く。
色艶がよく、深緑色に染まった髪の持ち主に、尊が手を伸ばす。
「緑知くんは、髪がさらさらだね」
「そうかな?尊ちゃんは寝癖ひどいって愚痴ってたよね」
男なのにちゃん付けで呼ばれている尊は、ため息をつく。
「そうなんだよ」
「でも俺も寝癖酷いよ」
緑知と尊は談笑を続ける。
1時間が経った。
尊がふと、口を開く。
「ちょっとお腹すいたね」
「そうだねー。何かご飯作ろっか?」
「あ、じゃあお願い。俺、緑知くんが作るご飯めっちゃ好きなんだよね」
「へへ、ありがとう。じゃあ家戻ろうか」
そう言って2人は家に戻り、緑知はキッチンで食事を作り始める。
「尊ちゃん、何食べたい?」
「うーん、チャーハンとか?」
「あ、いいね」
「じゃあ出来たら呼んでくれる?俺ちょっと向こうの部屋行ってるから」
「うん、分かった」
「ありがとう」
笑ってお礼を言い、階段を上る。
暫くしてご飯が出来上がったので、階段の下から声を大きめに出して尊を呼ぶ。
「尊ちゃーん、ご飯できたよー」
音沙汰がない。
「? 聞こえなかったのかな」
上に行くか、と階段を上る。
「尊ちゃーん」
ドアをノックして呼びかけるも、返事がないので不思議に思い、ドアを開ける。
「尊ちゃ、ん…」
言いかけて、目を見張る。
そこには尊の姿はなかった。
「え、尊ちゃん…?」
不安になって、トイレもベッドの下も洗面所も、あらゆるところを探したが尊はいなかった。
もう一度尊の部屋に入る。
窓には鍵がかかっているので、ここからは出ていない。
玄関も、尊の靴は全部あった。
尊専用の鍵も、緑知専用の鍵もある。
「行ってきます」や、鍵を閉める音もしなかった。
「………尊ちゃん、好きだよ」
空を見上げると、黄色の星がより一層輝いていた。