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方定煥「不思議な泉(이상한 샘물)」翻訳

作者: 鱈井 元衡

1923年七月「어린이」掲載

 昔々、ある山の麓に息子も娘もない老夫婦が暮らしていました。財産もなく、貧しい身なりでしたが、身の上にかまけることなく、必死に働いて暮らしていました。その隣の家に冷たく、怠け者で、欲の深いやもおのじいさんが住んでおり、毎日寝坊して遊んでいて、優しい夫婦を騙しては食べ物を横取りし、お金までだまし取ってはなんら感謝の言葉を言うこともなく、いつも二人につらく当たっては悪口を言って帰っていきました。町の人も、何とかしてこの欲張りを諭して、もう一度性根を直さねばならないと言いました。しかし、もう年老いたこの人をもう一度育て直す方法などあるはずもなく、何ともしようがありませんでした。そのようなわけで、この欲張りじいさんの前にはいくらがんばって稼いでも、底の空いた桶に水を灌ぐのと同じで、金は少しもたまらず、一日も休む暇がありませんでした。

 すっかり曲がった腰を休み休み休めては大変な苦労をして、朝早くから夜遅くまで山に登り薪を集めて売らなければ、その日の食事もおぼつかないありさまでした。

 しかし、気立ての良いじいさんはちっとも隣家の鰥を恨んだり、憎んだりはせず、自分が年老いて思うように稼げないことだけを嘆き、少しでも若かったらもう少し働けるのに……と過ごす毎日でした。

 そうやって生きているある日、思いの外不思議なことが起きたのです。

 この日も他の日と同じく朝早く山の中へ気を取りに行ったじいさんが、夕方になりばあさまが飯を作って待っていても、帰ってきませんでした。何事かと山道に出て待ってみましたが帰ってきませんでした。いよいよ夜になり、居ても立ってもじいさんは帰ってきませんでした。もしや山中で怪我をしたのではないか、恐ろしい獣に食べられたのではないかと怖ろしい疑いが頭をよぎり、隣の欲張りじいさんに会って、どうしても何が起きているか分からないから、松明を持って探しに行っておくれと頼みましたが、仁義も恩も知らない欲張り老人は、

「こんな夜中に誰が探しに行くもんかい」

 と、少しも応じませんでした。

 どうしようもなくて、ばあさんは一人で探しに行かねばと、わらじを履いて松明をかかげ、門の外に出ました。すると、薪の荷を背負ってゆっくりゆっくり、暗い山道からじいさんが来るではありませんか。ばあさんは嬉しさのあまり側に駆け寄って手首をつかみ、

「おかえりなさい。どれだけ心配したか分かりません。なぜこれほど遅くなったのですか?」

 と、家に招きました。荷物を降ろし、部屋に入った所で、じいさんの顔を見てばあさんは驚いてしまいました。それもそのはず、じいさんの顔はしわ一つなく、しみも見えず、白くはげた髪も黒くなり、二十五歳ほどの新郎となっていたからなのです。

「どうしてこうお若くなったのですか? すっかり青い若者になった様子ですが……」

 と、実に不思議で、神妙そうに尋ねました。じいさんは、声まで若返って、

「私も不思議なんだ。はじめ山の中に行って木を刈っていたのだが、どこから来たか初めに見た青い鳥が空を滑るように駆け巡り、頭上の木にとまったのだが、実に綺麗な鳴き声で歌い、熊手を持ったままつい聞きほれていたのだが、しばらくいると歌声をやめて山の奥に飛んで行った。私はあまりに気になってそのまま耳を澄ましていたが、また戻って来て鳴き声が近づいた。私はその声を聞こうとその後を追い、さらに深くへと進んでいった。またもや例の鳥を見つけた。鳥が泊っている小さな枝の下に水たまりがあり、喉が乾いたものだからその水を掬って飲んでみたのだ。するとのど越しは実に涼しかった。まるでいい薬酒みたいだ。すっかりあの青い鳥が何者であったかも忘れ、五回もすくって飲んだ。すると体が涼しく、酔ったように心が爽やかになり、すっかり眠りこんでしまったのだが、とても空気が冷たくて目覚め、帰り着いてきたわけだ」

 と、落ち着いた様子で語りました。

「もしかしたらそれは、きっと神秘の若返りの泉に違いありませんわ」

 といって老婆が近づくと、じいさんは若返っていてもばあさんはそのままでしたから、まるでじいさんはばあさんの息子のようでした。だからこのままではいけないと、翌日早く起きて、若返ったじいさんは老いたばあさんを泉に連れて行き、水を汲んで飲みました。するとばあさんも二十二、三歳ほどの嫁さんになり、気立てのいい働き者の夫婦としてしっかり生きるようになりました。

 怠け者で欲張りの鰥はそれを見て居ても立っても居られなくなり、夫婦の家を訪ねて泉のありかを教えてくれと頼みました。親切な二人は嫌ともいわずに道を教えてあげました。欲張りは大急ぎで駆け出して行きました。欲張りも若返って戻ろうとしたのかもしれませんが、二人がどれほどまっても老人は帰ってきませんでした。日が暮れても沈んでも、真夜中になっても次の日が明けても……。

 どうしても不安で仕方のない二人は山の中の泉をもう一度訪ねに生きましたが、泉の側に来てみても老人の姿は見えませんでした。

「もしや、虎や狼に捕まって、食べられてしまったのではないか」

 と嘆き、近くを探してみましたが、どうでしょう。向こうの石の間に、大きな服を着た赤ん坊が「おぎゃあ、おぎゃあ」と泣いているではありませんか。何があったのかと見てみると、確かに欲張りじいさんの着ていた服の中で、赤ん坊が泣いていましたから、きっと欲張りじいさんが泉の水をあまりに飲み過ぎたせいで、赤ん坊にまで若返ってしまったのではないかと思いました。

「今まで私たちには子供がいなくて寂しかったから、この子を連れて育てよう」

 と言って赤ん坊を抱きかかえ、降りて行きました。

 心の優しい夫婦に育てられ、赤ん坊は欲張りでもなく、怠け者でもない良い人になりました。

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