第4話 親衛隊強制解散
メリンダはダンスパーティが早く終わることを祈っていた。
親衛隊による恒例のパフォーマンス「王女殿下のための演舞」がなくなったので、ダンスタイムがやたらに長い。
本来、壁の花の時間が長くて退屈なはずだったが、今晩は違った。
ひっきりなしに顔見知りがきて、噂の真偽を尋ねていく。
正直、メリンダは何も知らないので、わかりません、知りませんの繰り返しになる。早く家に帰りたかった。
「でも、ルイスは喜んでついていきそう」
ルイスのロザモンド王女への心酔ぶりは、知れ渡っている。
これは推し活の域にとどまっているのかどうか。
別の婚約者を早く決めてほしい。
メリンダの理想は子どものいる暖かい家庭だ。父親不在の偽家庭なんかまっぴらごめんである。
「しかも父親が推し活に邁進しているだなんて……」
メリンダの子爵家は、某公爵家の分家だ。爵位こそ大したことはない(比較の問題)が、逆に身分がそれほど高くないので、割と自由だった。
しかも、生粋の貴族層出身なのに父には商才があった。貴族階級にはあまり知られていないが、商人間では有名で、彼女の家はとんでもなく裕福だった。
だから、商家の間では彼女の存在は知られた存在だった。
叶うことなら、当家の嫁にと大それた願いを持つ家庭は多い。
なぜなら、商家の場合は、貴族階級の社交界に出入りしたい。無い物ねだりの成金思考は、いかに自分の実力を第一と考える商家にも確実に存在する。
しかしお貴族様との結婚は、乱費と背中合わせ。莫大なはずの資産をいとも簡単に食い潰す、常識はずれの貴族パワーは知れ渡っている。それでも爵位はなんだか欲しい。
そこへ行くと両親から一流貴族の血を受け継いではいるものの、どこの商家にも負けない商才と金銭感覚のメリンダの子爵家は、元金保証付きの安全資産である。
むしろケチかもしれないくらいだ。
垂涎のメリンダ嬢だったが、天下の公爵家の婚約者では手が出ない。
家柄志向で脳みそが止まっているお貴族さま方はどうか知らないが、万一、婚約破棄されたなら、商家の面々は黙ってはいるまい。うまくすると、傷物扱いで手に入るかもしれないではないか!
しかしながら、同様の思考は、貴族の側にもあった。
メリンダの生家が莫大な資産家だということは、現金には敏いが、商売はサッパリな貴族でも理解はしていた。
公爵家が相手では、流石に手も足もでないが、解消されたとなると話は別だ。
商家と同じく、傷物扱いで安く手に入るかもしれない!
メリンダはもちろん、そんな他人の思惑などわからない。
「きっと今頃、ルイス様はロザモンド殿下についていけることになって喜んでいらっしゃるでしょうね。でも、私との結婚はきっと嫌がられると思うわ」
仕方がないので、彼女は、壁に向かって相談した。