第三話【過去】
夫との毎日の日課の晩酌の準備をしていた時、夫に声を掛けられた。
「有紀ちゃんが泣いてる」
何となく想像がついた。
きっと親の顔が頭に浮かんで怖いのだろう。
気持ちは十分に分かった。
私はすぐに彼女の元に飛んでいき、抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫。ここにあの人たちは来ないよ」
そう言って落ち着くまでずっと抱きしめた。
しばらくして、泣き疲れたのか、彼女は眠りについた。
子供を授かれなかったか彼女の親を許せないと言ったが
実は、それだけではない。
彼女の痣を見た時、私は震えが止まらなかった。
私もまた、子供の頃に同じような目にあっていたからである。
彼女の痣を見てフラッシュバックしていた。
私は施設に預けられ、親の愛情を知らぬまま大人になった。
たくさん傷ついて、何度も死のうとした。
それでも現実から逃げずに生きていたからこそ、愛する夫に出会えたのだ。
だから彼女にも人生を諦めて欲しくなかった。
必ず、幸せになれると教えたかった。
私たちにその役目を果たせるか、自信があったかと言うと嘘になる。
子は親を選べない。それは私が誰よりも実感していた。
恐らく、彼女もそう思っていただろう。
今まで逃げたくても逃げられなかった彼女が勇気を出してここまで逃げてきたのだ。
誰にでも幸せになる権利はあると私は思っている。
だからこそ、ここまで頑張って逃げてきた
彼女には幸せになってほしいと思い、保護したいという夫の意見に賛成したのだ。




