綾音さんと俺の友達
バンドの練習の帰り道。通りかかったスーパーから綾音さんが荷物を抱えて出てくるのを発見してしまった。
夏休みなので綾音さんは私服だ。見慣れないけど、ヒラヒラしたスカートを履いていて、やっぱり似合うなあと思った。
声を掛けようか迷ったのは、バンド仲間兼友人達が一緒にいたからだ。なんていうか、絶対危ない集団だと思われるし、綾音さんに怖がられそう。
一人は長身スキンヘッドだし、もう一人はサングラスしてて如何わしいし、もう一人は鼻ピアス。
うん、声を掛けるのはやめとこう。この面子で女子高生を囲ったら、確実に通報ものだし。
「なに、立ち止まってどした?」
「なんだ、可愛い子でもいたの?」
「おお、鈴樹も遂に思春期か?」
絶対に綾音さんに近付けてはいけない。
何でもないと誤魔化そうとしたところで、綾音さんの小さな悲鳴が聞こえた。
振り返ると、数人の悪ガキが前も見ずにはしゃいで走っていて、そのうちの一人が綾音さんとぶつかったようだ。
しかも邪魔だデブだとか言って、謝りもせず走っていった。なんて奴らだ。
転んだ拍子に買い物袋の中身を派手にぶち撒けてしまっている。これは大変だと、慌てて綾音さんの所に駆け寄った。
「あれ、胡桃くん」
「そんな事より怪我はない? 歩ける? 病院行く?」
どうしよう、よく見れば足が擦りむけて血が出てる。救急車呼ばなきゃと思ったところで、落ち着けと頭を叩かれた。
「ほれ、転がった荷物は拾ったからな。…えーと、鈴樹の知り合い?」
「あ、はい、同じクラスで隣の席の…」
唐突に鼻ピアスの男に話しかけられて、綾音さんが怯えている。これは引き離さねばとした所で、目の前に諭吉さんを突きつけられた。
「これでタクシー乗って送ってやれよ。荷物も多いし、大変だろ」
「そんな、悪いです」
「いやいや、鈴樹がめちゃくちゃ心配してるから、安心させる為にも一緒に帰ってやって。あ、ちなみに俺達は怪しいものじゃないからね。此奴の友達」
「…はあ」
綾音さんがドン引きしてる気がする。やっぱりこんな強面な連中がいる時に、声を掛けてはいけなかったんだ。
後悔に苛まれたまま、いつの間にか目の前に来てたタクシーに押し込められて、綾音さんの家に向かう事になってしまった。
無言の車内がとても気不味い。
「…あの胡桃くん、何だかごめんね。その、せっかく友達と一緒だったのに、私みたいなのと知り合いだってわかっちゃって、恥ずかしかったよね。その、次からは別に話しかけなくとも大丈夫だよ」
スーパーから出た瞬間に、綾音さんに発見されていた事が発覚した。なんて事だ。しかも何だか気付いたのに無視したと思われてる。
実際そうだけど、そうじゃない。
「違うからね! 綾音さん可愛いから、あんな強面連中に囲まれたら、怖がられて俺嫌われちゃうかと思って…!! 綾音さんにドン引きされて嫌われて、もう話してくれなくなるのやだから!! 綾音さんに嫌われたら学校行きたくない!!!」
綾音さんは目を丸く見開いてから、真っ赤になってしまった。
いつものなんて事言うのよなんて言葉もなく、か細い声でそうとしか言わなかった。
その反応に、あれ何か間違っちゃったかなって思わなくもないけど。
車内は相変わらずの無言だけど、さっきよりちょっと気不味くはなくなった気がする。
タクシー降りた時に運転手さんが、青春だねえなんて言われたけどもね。




