綾音さんと世界史
いつものように先生から補習プリントを渡されていると、それを綾音さんに目撃されてしまった。
そして引き摺られるようにして、ギャルさんと共に近場のカラオケボックスに連れ込まれた。
「…うちの学校はバリバリの進学校ってわけじゃないから、先生もそこまで厳しく言わないけれども。二人とも、学生の本分は勉強じゃないのかしら?」
どうやらギャルさんも補習プリントを渡されたようである。綾音さんの言っている事は正しいので、ぐうの音も出ない。
先生から、次の期末考査で赤点取ったら夏休み補講なと言われてしまっている。それはちょっと遠慮したい。ギャルさんもそれは同意見だったようだ。
綾音さんが今日から期末まで勉強会ねという言葉に、二人して素直に頷いたのはいうまでもない。
先日、プリントを手伝ってもらった時にも思ったけれど、綾音さんは英語が得意。それだけじゃなく、世界史とかも出来るようで、素直に凄いと思う。
「綾音はいっつも学年五位内に入ってるよ」
自分の成績とは天と地の差がある。綾音さん真面目だもんな、予習復習とかちゃんとやってそうだ。
「うぅ、勉強は嫌いだけど。今回は綾音に頼るしかないか…。私、夏休みにやりたいことがあるって言うか」
バイトのシフトいっぱい入れちゃたそうだ。ギャルさんは勤労少女だなぁ。
そういう自分も、バイト入れてるけどね。姉の店以外のバイトだし、うん。ここはギャルさんと一緒に綾音さんを拝んで助けて貰おう。
二人で手を合わせていると、綾音さんがあわあわと困惑していた。
その挙動不審さが金魚のエリザベスにそっくりで可愛い。
ギャルさんも貰ってた世界史の補習プリントを唸りながら空欄を埋めていく。けども、教科書見てもよく分からない。これは困った。チラリと見たらギャルさんも困ってた。
「……綾音ぇ」
「これはもう、読んで理解しなさい」
「だって眠くなるもん」
だよね。凄く同意する。
「…好きな事と絡めて読めば、結構覚えるよ」
好きな事、好きな事か。
「綾音さんは?」
「なっ、なにっ!?」
綾音さんの好きな事は何かって聞こうとしたら、凄く動揺されてしまった。聞いてはいけない事だったのだろうか。
首を傾げていると、何故かギャルさんがニマニマしてた。偶に姉がするような顔だ。
顔を真っ赤にした綾音さんが、頬を何度も撫でている。ふくふくした丸いラインが可愛いので、実はちょっと触りたかったりする。
でも恋人とか奥さんでもないのに、女の子の体を触りたいってのは、流石にいけない。でも触りたい。
「な、なに?」
動揺している綾音さんに、好きな事を聞いたのは失礼だったかなと言ってみたら、違うからねと返された。
「べ、別に、それは聞いても構わないけど。あの、私は別に、勘違いしたわけじゃなくって、そう、うん、そうなの」
何か変なこと言ったかなと、先ほどの会話を思い出そうとすると、綾音さんが良いからと大声で遮った。
「いいの、思い出さなくっていいの!」
取り敢えずわかったと頷くと、綾音さんはホッと胸を撫で下ろしていた。
「綾音、これでも飲んで落ち着きなよ」
ギャルさんが飲み物を綾音さんに渡した。それをストローで一気飲みした綾音さんは、コホンと咳払いをした。
「わ、私の好きな事だったよね。……その、似合わないって思うだろうけど。……バレエ」
バレーボールじゃなくって、ヒラヒラしたの着て踊る方かな。
「あれってね、結構欧州の歴史とかそういうの知ってると、奥が深いっていうか、色々と面白くなってくの。演目と関連させると、凄く覚えやすくって」
そういうものなのか。
正直バレエってよく知らないけど、外国の人がやってるイメージがある。
ふわふわヒラヒラした服って綾音さんに似合いそうだ。何となく金魚のしっぽみたいで、クルクル回ったら間違いなく可愛いだろうな。
それをそのまま言ったら、綾音さんは真っ赤になってしまった。
「な、なんて事言うのよ!?」
やっぱり金魚みたいだ、綾音さん。