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アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
終章 未来への道筋
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第94話 公妃様の真意

 ドガッ、ボンッ!!

「がはっ!!」

 ドィリの蔦で動けない変態に、私の怒りの聖拳突きが炸裂する。

 ちょっぴり拳に魔力を纏わせたり、インパクトと同時に魔力を爆発させたりしたが、その辺りはご愛嬌という事で許してもらえるだろう。


「ちょっ、やりすぎじゃない!?」

「ちょ、ちょっぴり焼け焦げた匂いが……」

「リネアはん、手は大丈夫なんで? ワテらじゃ傷は癒す事が出来ないのでおますから、無茶しはったらいけませんで」

「い、いいのよ別に」

 変態の成れの果ての姿を見て、精霊達がいろんな意味を含めて注意してくる。

 若干予想以上の効果に一番驚いているのは私なのだけれど、幸い拳は痛くないし、完全に伸びきっている変態にもこれといった外傷も見当たらない。

 どうやら派手な音と煙は出たが、それほど大きな爆発でもなかったのだろう。

 うん、私は悪くない。


「何事ですか!?」

 さすがに今の爆発音はマズかったのか、慌てて部屋に飛び込んで来るメイドさんと騎士らしき男性。

 この変態の侵入を見逃しておいて、何が『何事ですか』だ。


「これは……」

 全身緑の蔦で拘束される変態に対し、私の服装は未だ襲われ破けたまま。しかも変態は完全に白目を向いており、その前に立ちはだかる私を見れば、ある程度の想像はつくことだろう。

 そんな様子を見たメイドと騎士様はそれぞれ慌てたように、騎士様は人を呼ぶため走って出て行かれ、メイドさんは私の姿をなんとかしようとクローゼットに向かわれる。

 ……あれ? この不審者って第一公子様じゃないの?


「あ、あの……、私よりもこの変態……じゃなかった、この男性の方を先に介抱された方がいいのでは?」

 自分がやらかしてしまった事はいえ、変態さんは完全に気を失っているのだ。

 外傷から今すぐ治療がいるような状態ではないとはいえ、この変態が本当に第一公子様なら、まずは其方の介抱が先ではないだろうか。

 敢えて変態に『さん』付けをしているのは、私の心情を察してもらいたい。


「……。取り敢えず先にリネア様のお召し物の方を。すぐに大勢の人が来ると思われますで」

 メイドさんは何故か一瞬変態さんの方に冷ややかな視線を送り、何事も無かったかのように私の破けた夜着を隠すため、薄手のガウンを用意してくれる。

 あれ? もしかしてこの変態、第一公子様じゃないの?

 だけど先ほどメイドさんが見せた反応は、明らかに顔見知りのような感じだったし、よく見ればこの変態さんが着ている服装は、とても野盗や強盗が着る類のものには感じられない。

 いったいどう言うことなの?

 やがて数刻の後、数名のお供を連れた公妃様がやって来られた。




「はぁ……。誰か、レイヴンの様子を見てあげて頂戴」

 部屋へと入って来られた公妃様は一通り様子を見渡した後、ため息を吐きながらまずは変態さん容体を見るように指示される。

 ってことは、やっぱり第一公子様だったのね。

 怒り任せだったとはいえ、私はこの公国の第一公子様に手を挙げた。この事に今更後悔はしていないが、それでもキツイお咎めだけは避けられないだろう。

 最悪この場でバッサリ、なんて事態も有りうるが、理不尽な理由で殺されてあげるほど私は出来た人間ではないので、公妃様の発言次第では逃亡の考えすら抱いている。

 私は近づいて来られる公妃様を警戒しながら、近くで浮遊している精霊達に視線を送り、何時でも逃げられるように体制を整える。


「……その様子だと、体の方は大丈夫そうね」

「……は?」

 公妃様は私の体を上から下へと視線を送り、最後は私の顔を見てから明らかに安堵の様子を見せてくる。

 えっと……これはどういう状況?

 私はてっきり平手打ちの一発ぐらいは覚悟していたのだけれど、公妃様から飛び出たセリフは明らかに私を気遣っての言葉。

 これが含みある口調ならば裏に何かあるのでは、と感じ取れてしまうのだが、今の公妃様にはとても嘘をついている様子は感じられない。


「ごめんなさい、貴女をこんな目に合わすつもりではなかったのよ」

「……えっと、いまいち状況が見えないのですが?」

「そうね、少し説明しないと行けないわね」

 公妃様はそう言うと、ここ数日の間に起こった事の経緯を説明してくださった。

 内容はこうだ。


 公妃様は臣下から私の噂話を耳にされた。

 それはとても盛りに盛られた武勇伝ならぬ領勇伝だったのだが、私の素性や新生ミルフィオーレ王国との繋がりから、息子である第一公子様の妃にと考えられたらしい。

 私は大国と呼ばれるメルヴェール王国の出身だから分からないのだが、どうやらこの連合国家からすれば隣国の軍事力は恐怖の対象。元々メルヴェール王国も小さな紛争を繰り返し、今のような大きな国へと発展したのだから、隣接する連合国家にすればいつ襲われるか分かったもんじゃない。

 昨今は戦火を免れた幾つもの領地が手を組み、連合国家という一つの国に纏まったとはいえ、ほんの100年ほど前までは戦争が当たり前の時代を経験している。

 しかもその大国であるメルヴェール王国が、より巨大な軍事力を要するラグナス王国と手を結んだとなれば、その恐怖の度合いはこの1年ほどで一気に湧き上がったのだという。


 連合国家の中心とも言えるトワイライトは現在継承権争いの真っ只中。それでも第二公子であるアレクが公位を望んでいない事から、公国は平穏な時を歩んでいた。

 だがそんな平穏な流れもレイヴン公子の素行の悪さと、急激に存在を誇示し始めてしまったアレクの改革で、一気にバランスを崩してしまう事になる。

 これがまだ、一方だけの評価ならばアレクの行動はそれほど目立たなかったのだろうが、不運な事にレイヴン公子の素行の悪さが露見してしまい、家臣達の中に大きな亀裂を生んでしまった。

 公妃様からすればやはり長男であり、自分が腹を痛めて産んだ息子をと思っていたのだが、現状の第一公子ではとても公王として国を引っ張っていくには実力不足。

 最悪政治に関しては臣下達に任せればなんとかなるが、そのカリスマ性だけは天性のものなので、人を引き付けるような存在が必要不可欠となる。そこで考えたのが公王を引き立てるべく公妃の存在だったと言うわけだ。 


 どうやら第一公子派の貴族は、領民達から慕われ短い期間で数々の改革で領地を発展させ、おまけにミルフィオーレ王国の中枢とも太いパイプを持つ、私の存在に目を付けた。

 こちらとしてはかなり盛りすぎの話だとは思うのだが、公妃様は家臣達の話を聞き、私にもしその気があるのならばと期待されてしまわれたらしい。


「私はこの連合国家を束ねる公妃。公国を、連合国家の行く末を一番に考えなければいけない。でもね、その前に一人の母親であり、一人の女性なのよ」

 公妃様は立場上、新たな公王の傍にはより良い公妃を迎えなければいけない。

 そういった点で私の存在は多くの条件をみたしていたのだろう。だけど自分が経験してしまった政略結婚の良い部分と悪い分が、最後の一線として足踏みしてしまった。

 政略結婚とはいえ、幸せな夫婦生活を送る女性も少なくはない。ご自身もアレクの母親が現れるまでは幸せな時を過ごされていたそうなので、政略結婚の全てが悪いとは思われていなかった。

 それでも最後はやはり自分の目で私の意志を確認したく、トワイライトに呼び出されたらしいのだが、ここである問題に直面する。


 数日前の事、家臣達が話している『ある噂話』を耳にされたのだという。

 前々からレイヴン公子の素行の悪さは耳にしていたが、それは公城内での話。それが今回は何の関係もない街娘を、無理やり部屋に押し込め襲ったという内容だった。

 噂話を耳にした公妃様はレイヴン公子を問い詰めた。

 セレスの話では公妃様の性格は非常に厳しく、また優しい心を持ったお方だと言うので、無関係で無力の女性、それも国が守るべき存在の者を襲ったとなれば、厳罰をとも考えられた。

 だけど公子は問い詰めつる公妃様をノラリクラリとはぐらかし、結局今日……いやもう昨日か、まで明確な答えは聞き出せなかったのだという。

 公妃様からすれば噂だけで自分の息子責めるわけにもいかず、被害にあったという女性はすでに家臣達の力によりもみ消された恐れがあり、いまだ真相は闇のまま。

 一方一週間近くも待たせている私もいるため、仕方がなく取り敢えずお見合いの方は進めようとされた矢先、今回の事件が発生したと言うわけらしい。


「情けない話なのだけれど、今回の一件で私にまで届かない話があるのではと考えてね。念のために警護としてメイドを部屋の前に付けさせて置いたのだけれど、彼女が少し離れた隙をつかれてしまったようで」

「それじゃメイドさんの本当の目的って……」

「レイヴンが貴女の部屋へ押し掛けないよう、注意するためのものよ」

 だから先ほどのメイドさん、レイヴン公子に冷ややかな視線を送っていたのね。


「今更信じて貰えないかもしれないけれど、私は愛を切り裂いてまでは結婚させようとは考えていないの、それが身近な存在なら尚更ね。貴女に想い人がいるという事はすぐにわかったわ。だからお見合いをさせた後で私から断ろうとしていたのよ」

 家臣から公妃候補にと挙げられた手前、何もせずに帰すという事は出来なかったのだという。

 レイヴン公子の罪状がわかればそのまま私を帰し、事実無根だと証明出来ればお見合いをさせて断る。

 私の事だから自らを犠牲にする可能性もあったので、お見合いの現場で問題を起こし、不適合としてそのまま帰そうと考えておられた。そうすれば家臣達にも納得させられるだろうし、後ほど謝罪の場を用意する事で私への体面も保つ事もできる。

 どうやら世間の公妃様の評価は余り良く無いらしいので、私への同情はあれども非難されるような事はないだろうと考えられて。


「本当にごめんなさい」

 公妃様は最後にこう言うと、メイド達がいる前だと言うのに深々と私に頭を下げられるのだった。

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