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アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
終章 未来への道筋
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第90話 囚われのリネア

 私がこのトライライト公国へ来て、そろそろ1週間が経とうしていた。


「うーん、暇ね」

 アクアでの生活はあまりにも忙しかったが、今は与えられた部屋に閉じこもり、読書や一人お茶会に勤しむばかり。基本私は机に向かって黙々と仕事をこなすタイプだが、流石にやる事がないとなれば暇で暇で仕方がない。

 いっそこのとこ、こから逃げ出してやろうかしら。


 既にお気づきの方もいるだろうが、とりあえず今私が置かれている状況を軽く説明しておきたい

 あの日、公妃様と初めて面会した日、私はこの部屋に連れて来られてそのまま監禁されてしまった。理由は公妃様のご子息でもある、レイブン公子とのお見合いの為。

 私はてっきり公妃様から適当な男性を紹介されるのかと思っていたが、まさかそれが自分の息子でもある第一公子様だったとは考えもつかなかった。


 だってそうでしょ? アクアなんてようやく村から『街』へと認定されたばかりの小さな領地。そんなところの領主が、一体どうやって連合国家の代表とも言える、トライライト公国の公子と釣り合うというのだろうか。

 私なら間違い無く笑って逃げ出すだろう。いや、逃げられなかったからここにいるんだけれど……。


「それにしても暇だ」

 先ほどは監禁だなんて物騒な言葉を使ったが、実はこの部屋の扉には鍵はかかっていない。ただ部屋の外には見張りと思しきメイドさんが待機しており、何処へ行くにも後を付けられてしまうのだ。

 一応公妃様からは東棟の敷地内なら自由に行動はしていいとは言われているが、完全なアウェイの私にとっては、何処までが東棟の敷地内なのかもわからないし、何処に何があるかも分からないので、結局は第一公子様とのお見合いの日まで、大人しく部屋に閉じこもっていると言うわけだ。


 はぁ……お見合いか……。


「ちょっと、何一人で落ち込んでるのよ!」

「アクア、居たの?」

「初めから居るわよ!」

 一応ここにはアクアの他にドリィとノームの契約精霊達が勢揃いしている。

 その理由は主人たる私と離れすぎると、魔力のバイパスとやらが切れてしまうらしいのだが、別に契約が切れたり命に支障をきたすものでもないらしいので、単純に私の護衛を兼ねた観光だとでもご理解いただきたい。


「それでどうなのよ。逃げ出したいのなら手伝ってあげるわよ」

 精霊たるアクア達はその存在自体が大変希少なため、公妃様を始め、ここにいる全ての人達には教えてはいない。

 本当ならば今頃公都を観光して、帰路についているはずだったのだだから何とも申し訳ない話だ。


「無理に決まってるでしょ。相手は連合国家を束ねる公妃様なのよ? 理由もなく逃げ出したら、それこそ怪しさ倍増でしょうが」

 流石に面と向かって公子様とは結婚したくありません、なんて言えないし、黙って逃げ出せばそれこそ疾しいところがありますよと言っているようなもの。

 もしこのままアクア達の力を借りて領地に戻れば、連れ戻されるか脅迫されるかのどちらかだろう。


「じゃリネアはこのまま言いなりになって結婚しちゃってもいいわけなの?」

「それは嫌ね」

 他人が見ればいい縁談に聞こえるかもしれないが、これでも私は根っからの庶民派人間。仕事も続けたいし、街に出て普通に買い物もしたい。

 今は領主なんて肩書きを背負ってはいるが、いずれフィルに後を継がせて、私は自由気ままに街の食堂でも経営できればと考えているんだ。

 それなのにこんなところで公妃にでもなってみなさい、気ままなお買い物どころか一人でお風呂にも入れないじゃない。


「だったらどうするのよ。このままお見合いの日まで何もしないで待っているつもり?」

 今は何やら準備がいるとかで、お見合いの日程が延びに延びているが、それもそう遠くないうちに公子様と顔見せが行われる事だろう。

「仕方ないでしょ? 一応縁談は断るつもりではいるけど、会う前から嫌だっていったら、今後アクアの地がどんな目に逢うかわからないじゃない」

 別にお見合いをしたからといって、必ず結婚しなければいけないという決まりはない。

 まぁ、立場上断りにくい状態である事には変わりないが、それでも私の人生を左右する事なので、ここは勇気を出して断るしかないだろう。

 それに私はリーゼ様の様に容姿に自信があるわけでもなく、とびきり美人だという自負もない。そんな平々凡々の田舎娘など、彼方から断ってくるのではという、期待も多少抱いてはいる。


「それにね、私あの公妃様のことはそこまで嫌いじゃないのよ」

 あれが叔母の様に嫌味たっぷりな人ならば、その場でハッキリと断っていただろうが、私が公妃様に抱いた感想は、厳しい中に僅かな優しさを感じてしまったのだ。

 そうでなければワザワザ最初に『好きな人はいるのか』とは尋ねてこないだろう。


「ふーん。まぁリネアがそれならいいんだけれど」

「ありがと、アクア。心配してくれて」

「/////// ば、ばか! 誰がリネアの事を心配するって言うのよ!」

 相変わらずアクアはわかりやすい性格をしているわね。

 私が今も平静を装えているのは、アクアやドリィ達がいてくれるから。

 これがもし私一人だけだったら、泣いてアクアの地に戻る事を諦めていた事だろう。

 そう思うと、アクアのこの性格は私を勇気づけてくれている感じもする。


「それはそうと、やっぱり暇ね」

 ゴトゴト……ゴトゴト……

 アクアと話をしていると、突然部屋の壁の一部がおかしな具合に揺れ動く。


「何? 猫でもいるの?」

「ね、猫!?」

 恐怖のあまり私の服の中に隠れるアクア。

 そういう言えばアクアって猫が苦手だったのよね。

 現在私の飼い猫でもあるタマとは随分仲良くはなったみたいだが、それでも寝ている時に食べられそうになったトラウマは消えないのか、野良猫を見ては何時も屋敷に逃げ帰っていた。

 ドリィもノームは今も平然と観葉植物のところで日光浴をしているので、やはり精霊全部が猫嫌いというわけではないようだ。


 ゴトゴト……ゴトゴト……ドンッ。

「ぷはぁー、やっと出れました」

「はぁ? 女の子?」

 部屋の壁が崩れたと思えば、そこから出てきたのは見た事もない可愛らしい少女だった。


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