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アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
終章 未来への道筋
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第86話 キレちゃいました

 叔母と義理姉がお屋敷に来て一週間が経った。


「やはりそれらしい動きはございませんね」

 ハーベストからの報告を聞き、ため息まじりに酷く落胆する。

 期日となる昨日の夜から二人の行動を細かくチェックしていたのだが、やはり予想通り約束の一週間が過ぎようとしている今も、我が物顔でお屋敷の客間に居座っているのだという。


「どうしたものかしらね」

 これが母国の王都ならば問答無用で叩き出していたのだが、ここの地は叔母達にとっては未開の土地。友人なんて当然一人もいないし、頼れる親族も誰もいない。

 つまり私がここを追い出せば、無一文の叔母とエレオノーラはミルフィオーレの王都に戻れないどころか、二人で彷徨った挙句野垂れ死するしかない。

「いっその事、馬車を手配して強制送還でもしてやろうかしら」


「理由もなく強制送還は、少々問題になるのではありませんか?」

「わかっているわ、ただ心の声が漏れただけよ」

 罪人として母国から手配書でも回っていればそれも可能だが、生憎と国から支援された資金を使ったのは叔父一人とされており、叔母とエレオノーラには罪らしい罪は課されてはいない。

 それでもまだミルフィオーレに所属する貴族ならば、まだ文句を言って引き取ってもらう事も出来たのだろうが、二人は既に爵位を剥奪された上でアージェント一族からも永久追放。

 ならば同じ血が通っている私が面倒を見ろよと、言う人達も出てくるだろう。少なくとも私は一度叔父と叔母のお世話になっていたのだし、今度は私が二人の面倒を見なければいけない立場に見えなくともない。

 早い話が誰も問題児たる叔母達の面倒を見たくないのだ。


「どちらにせよ一度会って話さないといけないでしょうね」

「そうですね」

 残すにせよ、追い出すにせよ、このまま放置では永遠と居座りかねない。

 本音を漏らせば約束通りに出て行って欲しいのだが、これでも叔母とエレオノーラは私の親族に当たるわけだし、このアクアで事件性があるような問題を起こされた訳でもないので、ケヴィンのように即刻追放では、私の中に残された良心がそれを許さないだろう。

 私は再び重い腰を上げながら叔母達がいる客間へと足を運ぶ。


「失礼いたします叔母さ……」

 部屋の扉を開け、挨拶しようとしたところで固まる。

 隣を見ればハーベストと、念のために連れてきたアイネも同じような表情をしているので、衝撃のほどは私と同じなのだろう。


「何をやってるんですか!」

 我に帰ると同時に、目の前に広がった光景に思わず怒りのままに叫ぶ。

 それは何処から集めて来たのかと問いたいほどドレスの中で、二人は取っ替え引っ換えのお着替え中。しかも二人とも下着姿なのだから、ハーベストもどうしたらいいのか分からないのだろう。


「見ればわかるでしょ、明日着る私たちのドレスを選んでいるのよ」

 見て分からないから聞いてるんでしょ!

 聞けば暇を持て余す間にミルフィオーレ王国に使いを出し、このお屋敷で勝手にお茶会のセッティングをしているのだという。

「迂闊でした。手紙を出したいと言われましたので、てっきり次の行き先を探されているのだとばかり」とはハーベストの言葉。

 

 そらぁ普通思わないわよね。居候の状態で、しかも他国まで手紙を出して友人達を招こうなどど、一体誰が考えるだろうか。

 この件でハーベストを責めるのは間違いだろう。


「それでこのドレスの量はなんですか。まさかまた勝手に買い込んだなんて言いませんよ!?」

 私ですら数着しかドレスは持っていないのだ。それなのにこれら全てを買ってしまったなんて言われた日には、流石の私もキレてしまう。

「全部じゃないわ、お茶会で着る服を選んでいるだけよ」

「質問の答えになっていません。買ったんですか? 買ってないんですか? どっちなんですか!?」

 少々言葉遣いがキツくなっているのは見逃して貰えるだろうか。

 先にも言った通りアクアの税収は、嘗ての伯爵領であるアージェントより遥かに低い。そもそも領地の規模的に半分以下にも満たないのだから、その辺りは仕方がないだろう。

 そこにアクア商会の売り上げを足せばもう少しあるのだが、こちらは全てリゾート開発にまわしているので、実質無いに等しい状態。

 それなのに伯爵家に居た時と同じように、ここでも無駄遣いをされてはたまったもんじゃない。


「一着だけよ。そのぐら良いでしょ!」

 一着だけというが、エレオノーラの分を合わせれば二着でしょうが。

「とにかく全て返して来てください。お茶会の件は今更どうしようもありませんので目を瞑りますが、ドレスの購入は認めません!」

「ふざけないで、この私たちが着るドレスはどうしろと言うの!」

「お持ちのドレスがありますよね? それでいいではありませんか」

「嫌よ、一度人前で着たドレスをもう一度着るだなんて」

 この人達は本当に自分たちが置かれている立場が分かっているのだろうか? お金も無く、収入も無く、暮らすための家すらないと言うのに、嘗ての華やかな生活のように振舞おうとしている。

 もしかして同じような事をして、叔母の実家や親友達の家から追い出されて来たのではないだろうか。


「アイネ、このドレスを全て返して来てちょうだい」

「待ちなさい、そんな勝手な事は許さないわよ」

「言いましたよね叔母様。私はこの地を治める領主であり、この屋敷の主人です。私の行いが気に入らないと言うのなら出て行って貰っても構いません」

 私に残されていた良心だとか、嘗てお世話になった恩があるだとか、随分んと甘い事を考えていたが、どうやら私は間違っていたようだ。


「ハーベスト、前に使っていたお屋敷をすぐに使えるようにして貰えるかしら。明日から叔母様達にはそちらに移ってもらいます」

「私たちを追い出すっていうの!?」

「追い出すとは人聞きの悪い。もともと一週間の滞在しか認めておりませんし、叔母様たちの生活を保障するとも約束しておりません」

 このお屋敷に置いておく限り、どうしても甘えだとか贅沢だとかが付きまとってしまう。ならばせめてこことは違う場所で閉じ込めておくぐらいの対策は、致し方がないことだろう。

 あそこならば二人で暮らすには十分な広さだし、メイドが三人もいれば十分に仕事をこなす事だってできる。後は叔母達が立ち寄りそうな店を回り、私の名前を出されても付けで飲み買い出来ないよう、注意喚起をだしておけば大きな問題は防げるだろう。


 こうして私は叔母とエレオノーラをこの屋敷から追い出すのだった。


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