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アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
終章 未来への道筋
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第85話 問題問題また問題

「リネア様、実はまた問題が……」

「またなの?」

 叔母とエレオノーラが来てから3日目。既に二人が起こした問題は、軽く両手の指の数を上回ってしまった。

 曰く、部屋に飾られていた装飾品が売られてしまった。曰く、知らないままドレスの発注をされていた。曰く、精霊のアクアと盛大に口ケンカを繰り広げた。などなど、僅か3日でいったいどうすればここまで問題を起こせるのかと、本気で聴きたいほどのオンパレード。アクアなんておやつに吊られ、カゴに閉じ込められたうえで売られそうになったんだから。

 だからあれ程叔母達には近づくなと言っておいたというのに。

 

「それで今度は何?」

 叔母とエレオノーラが起こす問題はお金絡みが6割、その傲慢な性格から揉め事を起こす場合が4割と、非常にわかりやすい状況にはなっているが、事後処理をする身としてはいい加減にして欲しいところ。

 一応私に残った良心的な気持ちから、街での食事や観光ができる程度のお金は用意させたが、それすらも少ないだとかもっと寄越せだとか、不当な言葉を吐かれる始末。

 この時点で私は、一週間もの滞在を許可した事を既に後悔すら感じてしまっていた。


「それがその……オフェリア様がお連れのメイド達にお給料を支払えと……」

「……えっと、ちょっと待って」

 ハーベストが告げた言葉に私は額を押さえながら苦悩する。

 叔母達が連れていたメイド達はハーベストも知らない者達だと言っていた。すると恐らくごく最近に何らかの方法で雇い入れたのだろう。もしかすると一族を追放される前に雇っていたという可能性もあるし、叔母が実家に立ち寄った際に雇い入れたという事も考えられる。

 私はてっきり一族を追い出される際に持ち出した装飾品でも、売って雇いれたものだと思っていたが、どうやら考えが甘々だったようだ。


「一応確認するけど、彼女達が私に自分たちのお給料を払えって言ってるのじゃなく、叔母が私にメイド達のお給料を払えっていってるのよね?」

「どうやらそのようで……」

 ハーベストが言うには、3人のメイド達がハーベストの元へとやってきて、自分たちのお給料は私から貰うよう叔母に言われたのだという。

 まぁ、ちょっとでも良識のある人間ならば、雇い主でもない人間にお給料を支払え、なんて言わないわよね。


「はぁ……なんで私が叔母が雇ったメイド達のお給料を支払わなきゃいけないのよ」

 今の私ならメイド三人分程度のお給料ならなんとでもなるが、理由もなく支払えるほど私は出来た人間ではない。そもそも私と直接契約を結んだ訳でもないので支払う必要はないのだが、ここでもし支払いを渋りでもすれば、そのシワ寄せはこのお屋敷に使えているメイド達にもかかって来てしまう。

 今は叔母が連れてきたメイド達のおかげで、直接的な被害は押さえられているが、もし3人のメイド達が逃げ出すような事になれば、嫌でも我が家のメイド達は叔母との接触は避けられないだろう。


「それで叔母は何って言ってるの?」

「リネア様が支払うのが当然だとおっしゃっておられます」

「……」

 一体どこがどうなって当然だと言うのだろう。確かに二人のお世話を3人のメイドに押し付けたが、叔母が雇った者のお給料を支払う義務など何処にもない。ましてや直接的な雇用契約もなければ、私は三人の名前すら知らないのだ。


「いいわ、私が直接叔母と話をするわ」

「畏まりました」

 極力顔を合わせたくはなかったが、こうも頻繁に問題を起こされては私の仕事にも支障をきたす。今は領地関連の仕事が立て込んでいるため、お屋敷に籠もりっぱなしだが、このままじゃ迂闊に商会へすら顔も出せない。

 最終的にメイド達のお給料はこちらで手配しなければいけないだろうが、一言文句と注意を入れておかなければ何をされるか分かったもんじゃない。

 ここは少し強めに出るべきなのでしょうね。


「それとハーベスト、ミルフィオーレ王国に使いを出した者はまだ戻って来ていないのよね?」

「はい。早馬とは言え王都まで2日は掛かりますので、早くとも明日。情報集めに時間が掛かるようならもう1・2日は必要になるかと」

 叔母達が来襲した日、ハーベストに頼んで叔母達に関する情報を集めるために使者を出した。

 こちらとしても何も分からないのでは対策の打ちようもないし、どんな理由で私を頼って来たかも分からないので、せめて一族を追放された後の行き先が分かれば対策も打てるだろう。流石に今回は身内の絡みになるので他家であるアプリコット伯爵や、グリューン公爵家に頼るわけにはいかないので、場合によっては一週間という期日ギリギリになるかもしれない。

 それでもただ何もせずに耐え忍ぶよりかは余程いいのではないだろうか。


「それじゃちょっと叔母のところに言ってくるわ」

 私は重たい腰を上げながら叔母とエレオノーラがいる部屋へと向かう。

 その後3人のメイド達には指定された半額のお給料を用意する事で合意。本来私が支払うべきお金ではなく、自分たちが如何に理不尽な要求をしているかを説明させていただき、このお屋敷にいる間の期間分を用意する事で話をまとめた。

 敢えて半分というのは私からの心遣いと、私はあなた達の雇い主ではないのだと、明確な意思表示からだとご理解いただきたい。






ーートワイライト連合国家の中心となるトワイライト公国ーー


「公王、最近のレイヴン様の行動には目に余るものがございます。話を聞けば街娘を無理やり押し倒したと言うではありませんか。今回は幸い宿屋の主人が早く気づき事なきを得ましたが、何時迄も国民達に隠し通せるものではございませんよ」

 信頼の置ける者を集めて緊急会談。公式な会議ではないので何の記録にも残らないが、それでも今後国の未来を左右してしまうかもしれない内容に、全員が全員苦悩な表情で頭を悩ます。


「またレイヴンか……」

 私には今年で19歳になるレイヴンと17歳になるアレクシス、そして今年で14歳になるセレスティアルという子供達がいる。三人は母親が違う異母兄妹になるのだが、正妻でトワイライト公国と同格の、オーシャン公国の公女を母にもつレイヴン。嘗て私が森に出た際に出会った平民の女性を母に持つアレクシスとセレスティアル。

 普通に考えれば正妻の子で、長男でもあるレイヴンが私の後を引き継ぎ、このトワイライト公国の公王となるべきなのだが、生憎と素行の悪さから数々の問題を引き起こしており、一部の貴族達からは非常に疎まれた存在となっている。

 一方弟のアレクシスの方は、その母親の生い立ちから正妻(オリーブ)や一部の貴族から批判的な意見が出ており、本人もその気がないのか殆ど城にいない始末。

 だがアレクシスが持ち帰った数々の知識や技術は、確かな実績としてこの連合国家に繁栄をもたらしているのもまた事実。


「やはりここはアレクシス様を押すべきかと」

「だがそんな事をすればオーシャン公国は黙っていないのではないか?」

 正妻であるオリーブとは政略結婚で結ばれたが、それでも二人の間に愛情がなかったというわけでは決してない。

 今でこそ冷めてしまった関係にはなってしまったが、親友であるヘンドリックの妹という事で、大事に扱っていたと言ってもいいほど愛情も注いだ。それがアレクシスの母親と出会った事で自体が一変してしまったのだがら、反省すべきは私の行いなのだろう。

 だけどあのとき彼女に出会ってしまった私には、自分の感情が抑えきれなかったのだ。

 その結果、妻と友人とは疎遠になり、アイーシャも僅か23歳という若さで死なせてしまった私は、一番の罪深き人間なのかもしれない。


「はぁ……。それでアレクシスは今どうしておるのだ?」

「話によるとアクア領で商会の仕事に従事していると」

「精霊伝説が眠ると言われているあのアクア領か……」

 確かこの2年程の発展速度は目を見張るものがあるのだと聞いている。

 公族が商会で働いているという行為はとても褒められた事ではないが、それでもこの僅か2年の間で、アレクシスが持ち帰ったという知識と技術は目を見張るものがある。

 周りの貴族達はそんなアレクシスを馬鹿者扱いしているようだが、私からすれば自分から馬鹿者を演じ、地位も継承権も求めていないと言っているようでならないのだ。


 アレクシスはそうする事で、レイヴン派の貴族達から自分と妹の命を守っているのかもしれんな。

 民を……、国を守りたいが、頑張れば頑張るほどレイヴン派の貴族達から疎まれ、努力すれば努力するほど覇権争いに加担していると間違えれらる。あやつは自分の立ち位置を理解しておるから必要以上にピエロを演じておるのだ。

 そういえばヘンドリックの息子がアレクシスの近くにおったな。

 私達が嘗ての友人関係であったように、二人も良き関係が築けたのならいいのだが、恐らくアレクシスの行動を父親に伝えるための密偵。二人の間に少しでも良い関係が築ずけているのならば、アレクシスにその気はないと分かるだろうが。


「レイヴンと取るかアレクシスと取るか」

 レイヴンがもう少し自分の立場を理解出来ていれば、ここまで頭を悩ます事もなかったのだろうが、正直一人の父親としても目に余る愚行が多すぎる。

 それでもまだ問題さえ起こさなければまだ救いようがあったのだが、無関係の領民を恥辱目的で襲ってしまえばどうする事も出来ない。

 やはりアレクシスを次期公王に選ばければならないのか。


 本人と妹には過酷な試練を与えてしまう事にはなるが、これも公子として産まれて来た定め。私が愛したアイーシャの息子には、せめて自由に未来を選ばさせてやりたかったが、それも今となっては無理からぬ事。


「我が王よ、そろそろご決断を」

 私は苦悩と罪悪感を抱きながら家臣に命ずる。

「誰でも良い、アレクシスを呼び戻せ」っと。

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