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アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
終章 未来への道筋
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第84話 叔母とエレオノーラの来襲

 新生ミルフィオーレ王国の生誕祭から約1ヶ月、工業ギルドの支援のお陰でリーゾート開発が急速に進み、アクアは村から街へと姿を変え始めた頃、私に元に招かざる客がやってきた。


「リネア様、少しよろしいでしょうか?」

「どうしたのハーベスト? 少し顔色が悪いわよ」

 執事という立場から普段は殆ど表情を変えないハーベストだが、今は何故その表情に苦悩さが滲み出てしまっている。


「実はオフェリア様とエレオノーラ様が来れてまして……」

「……はぁ?」

 まってまって、いまオフェリア様とエレオノーラ様って言った!?

 オフェリアとは叔母の名前で、ハーベストやマリアンヌ達にとっては少し前まで主人として仕えていた人たち。

 いまこのお屋敷にはそのアージェント家に仕えていた人ばかりなので、少し複雑な気分になるのではないだろうか。


「どういうこと? なんで叔母様達がここに来るのよ」

 確か先日リーゼ様から届いた手紙には、アージェント家は現在遠縁から選ばれた人が爵位を継ぎ、その方の主導の元で領地復興が行われていると書かれていた。

 あえてお家取り潰しにしなかったのは一重にリーゼ様のお力があったというが、恐らくウィリアム元王子とエレオノーラの謀略を防ぎ切れなかった、後ろめたさからではないかと思っている。

 そして当主であった叔父は爵位を剥奪された上で、現在も騎士団の取り調べを受けており、叔母とエレオノーラは同じく爵位を剥奪された上で、一族から追い出されたのだと聞いている。

 私はてっきり叔母の実家にでも帰ったものだと考えていたが、それが何故このアクアの地に来ているのかがさっぱり理解が出来ない。


「私も突然の事でしたので何が何だか。最初に対応した者の話だと、静止も聞かないまま屋敷の中へと入られてしまい、現在は客間の方に居られる状況でして……」

 アイタタタ。多分対応した子は、私の確認が取れるまで屋敷の中へ入れる事を拒んだのだろうが、叔母達からすれば嘗て仕えていた使用人気分で、無理やり押しのけて屋敷の中へと入ってしまったのではないだろうか。

 対応した子も恐らく嘗て仕えていたという事もあり、そこまで強く引き止める事ができなかったのだろう。


「状況は分かったわ、それで来ているのは叔母とエレオノーラだけなの?」

「いいえ、メイドとおぼしき女性が3名同伴しております」

 たった二人で他国であるアクアまで来れるとは思ってなかったが、どこにメイドを3人も雇うお金があったのかと聞きたいところ。

 それよりも今はどう叔母達に対応するかなのだが、目的がわからない事にはどうしようもない。


「はぁ……仕方がないわね、私が行くわ」

 折角生誕祭で会わずにすんだというのに、これじゃ返って状況が悪くなってしまっている。

 このお屋敷にはリアやフィル、そして嘗てアージェント家を解雇された使用人達しかいないのだ。中には叔母達の事を快く思わない人もいるだろうし、顔も見たくないと感じている人もいるだろう。

 だけどお屋敷に入れてしまってはそんな感情を押し殺し、接客をしなければいけないのだから、その抱える心情は相当なものになるのではないか。


 私は半ばヤケクソ気味で叔母達が陣取ってしまったという客間を訪れる。

「ご無沙汰しております、本日はどのようなご用件でしょうか」

 敢えて挨拶を省略させていただいたのは、私や困り果ててしまっているメイド達の代弁だとご理解いただきたい。


「ふん、話には聞いてたけれど随分といい暮らしをしているようじゃない、これなら私たちが使っても問題ないわね。しばらくここで泊めて貰うから部屋を用意しなさい」

 なっ……。

 薄々は泊めろと言われるんじゃないかと覚悟していたが、ここまで一方的な言い方をされるとは思っても見なかった。爵位を剥奪され、屋敷を追い出されて少しは反省しているかと思えばまるで変わっていない。寧ろ2年も会わなかった間に傲慢さがアップしているようにさえ感じてしまう。

 私に仕えてくれているメイド達も叔母の態度に不快さを表しているし、叔母が連れてきているメイド達も私たちの様子にすっかり怯えきってしまっている。


 だが随分と酷い扱いを受けていたとはいえ、一時でもお世話になったのもまた事実。


「はぁ……、わかりました。アイネ、お二人の部屋を用意して」

「畏まりました」

「それで何時までこちらにおられる予定でしょうか?」

 アイネがメイド達に指示を出したのを確認し、まずは一番重要な事を押さえておく。恐らく様子を伺っている使用人達も、この答が一番気になっているところではないだろうか?

 私の予想では二人は叔母側の実家に戻っていると思っていたが、それが何故か遠く離れたアクアに来ている。普通に考えれば実家がダメなら友人宅にでもハシゴしそうなものだが、それすらもしていないとなると、何処も叔母とエレオノーラを受け入れてくれなかったか、受け入れてもらっても直ぐに問題を起こして追い出されたかのどちらかではないか。

 そうでなければ忌み嫌う私なんかに頼るはずもないだろう。


「何よ、そんなに私達を追い出したいの?」

「こちらとしましても、叔母様方どの様な目的で来られたのかも分かっておりませんし、ご宿泊の日数がわからなければ対応のしようもございません」

 普通に考えて短期か長期かでこちらの対応が大きく変わってくる。短ければ空いている客間で対応すればいいが、長期ともなるとメイド達の役割分担や食事の仕入れなども調整しなければならない。

 できるなら直ぐにでも出て行って欲しいところではあるのだが、これでも両親を亡くした後にお世話になった事もあるので、私の中に残った二人に対しての最後の良心だと思って頂きたい。


「そんなの貴女には関係がないでしょ」

 いやいや、このお屋敷に乗り込んでおいて、良くもそんな言葉が飛び出したものだ。

 このままで有耶無耶にされそうなので、思い切って私の方から日数を切らさせていただく。

「それでは3日という事でよろしいでしょうか? 叔母様達の目的がわからないのではこちらとしても対応のしようがございませんので、今の状態からこのお屋敷で対応できる精一杯の日数です」

 お屋敷としての蓄えがないわけではないが、三食の食事に掃除洗濯、食材やらメイド達の精神的な負担を考えると、妥当な日数ではないだろうか。


「まぁ、なんて心の狭い子なの。エロノーラ、貴女も何かいってやりなさい」

「そうね、折角こんな田舎まで来てあげたと言うのに何のもてなしもないなんて、やっぱり純潔の貴族じゃない子には無理な話の様ね」

 久々に聞いたわね、その言葉。

 お父様は平民であるお母様と結ばれて私とリアが生まれたわけだが、叔父達はそれを快く思っていなかった。それでもまだ両親が存命だった時までは良かったのだが、二人が亡くなってからは随分と批判的言葉を吐き続けられた。

 だけど今はそんな血筋には関係なく、わたしはこの地の領主になっているわけだし、叔母達は爵位を剥奪された上で一族から追い出されているのだから、立場的には自分たちが一番忌み嫌う平民に成り下がったのだから皮肉なものだ。


「先に言っておきますが、私は叔母様達が行ってきた暴言や嘲笑ことは忘れておりません。それでも宿泊を許可したのは、良くしていただいたお爺様とお婆様への恩返しからです。平民の血が流れている私がお嫌いでしたらどうぞ遠慮く出て行ってください」

 叔母達は何か勘違いしているようだが、今の私は弱いままの昔の私ではない。

 この地に来てから守るものが多く増え、守ってくれる人たちが大勢いる中で、私が侮辱されたままでは示しがつかない。

 それに叔母達は未だに自分たちが貴族だと勘違いされているようだが、爵位を剥奪された時点で既に平民。そしてこの地の領主は私なので、態度にとってはこのアクアから強制追放にする事も出来るのだ。その程度の内容、自分たちも少し前まで同じ立場にいたのだから理解ぐらいはしているだろう。


「まぁ、自分がちょっと偉くなったからって……」

「アイネ、どうやら私が間違っていたようだわ。直ぐに追い出して頂戴」

 叔母の嫌味が終わる前に一方的に斬り伏せ、私はアイネに指示を出して部屋の出口へと向かう。

「ちょっと待ちなさい!」

「何でしょうか?」

 焦った叔母の言葉に、私は開かれた扉の前で立ち止まる。

「わかったわよ、1週間。1週間だけ泊めて頂戴」

 はぁ……、初めからそう言えばお互いこんな嫌な目に合わなかったというのに。


「わかりました、それでは1週間の滞在を認めます。ですがこちらも今、使用人達を彼方此方に派遣しておりますので十分な対応は出来ません。幸い叔母様達はご自身の使用人を連れて来ているようですので、基本お世話はそちらでご対応ください。それが条件です」

 叔母とエレオノーラの傲慢さはうちの使用人達が一番理解していること、それを一週間も強要させてしまうのは流石に申し訳がたたない。

 向こうも慣れ親しんだメイド達の方がいいだろうし、食事や洗濯といった必要最低限のお世話だけすれば、メイドが3人もいれば十分すぎるほどに賄えるだろう。


「わかったわよ」

「それではお約束通り1週間後には出て行って頂きますので、お忘れなきようお願いいたします」

 私はアイネに叔母が連れて来たメイド3人に屋敷の案内を告げ、客間を後にする。あとはアイネが立ち入っていい場所や、メイド達の部屋なんかを用意してくれるだろう。

 流石に屋敷中を動き回られる事は無いとは思いたいが、ハーベストに言って立ち入られては困る部屋に鍵を掛けるよう、指示を出しておいた方がいいかもしれない


 こうして短くて苦しい叔母とエレオノーラとの共同生活始まるのだった。

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