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アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
二章 食と観光の街
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第75話 商業ギルド

 商業ギルド、この世界で商業を生業としている店なら必ず利用しているという存在で、その恩恵はお金の貸し借りに支払いの送金、人を雇いたい時には求人の広告を貼り出せたり、経営に関する事を相談したりと、その役目は多種多彩。

 正式な手続きをすれば一般向けへのお金の貸し借りもする事が出来、其れなりの規模の村や街には欠かす事が出来ない絶対存在。

 ただ店や商会はその規模に見合った保証金を預けたり、毎月の利用料として一定額のお金を支払ったりもするのだが、商業ギルドに登録する事によってお店の透明性や、安心して取引や商売ができるという大きなメリットがあるため、このアクア商会も開業当時に登録させてもらっている。

 そんな商業ギルドが……。


「どうしたのココア、商業ギルドで何かあったの?」

「たった今、このアクアから撤退するって連絡が!」

「な、なんですって!?」

 ココアが放った言葉に私とアレクが凍りつく。


 商業ギルドはもともと大きな都市や発展した街にしか拠点を置かず、このアクアには支部があるカーネリンの街からの出張所が一つあるのみ。だけどその存在価値は有ると無いとではまるで雲泥の差で、商業ギルドが無いという理由だけで、拠点を移す商会まである程だと言われている。


 例えばこのアクア商会では多くの原材料を各地から取り寄せている。その取り寄せている原材料の支払いをどうしているかというと、当然商業ギルドを通して取引先へと送金する。

 これがもしアクアの地から撤退されたとなれば、支払い一つでわざわざ隣町であるカーネリンへと足を運ばないといけず、支払い作業をまとめるにしても、現金を輸送するという危険な業務をこなさなければならない。

 最悪の場合は輸送中に馬車ごと襲われ、現金と輸送に携わった者の命を奪われる可能性だって否定できないのだ。


「なんだって突然そんな事を……」

「わかりません、一方的に10日後にはこのアクアから全面撤退するからという通達だけが来ただけで、こちらから問い合わせても支部が決めた事だからと、相手にもされなくて……」

 国が認めたギルドとは言え相手も立派な商売の一つ。利益が出ないと判断されればその地から去るだろうし、赤字が出ればその規模を見直す事だってあるだろう。

 だけどこのアクアにある出張所は、最低限のスタッフのみが在住する小さな窓口。アクア商会としては毎月其れなりの額を納めているし、村の規模が大きくなるにつれ、その利用頻度も日に日に増え続けており、未だ開業当時に借り入れ借金だって多く残っている。そのうえ最近では小さなお店や商店が増え続けているので、決して赤字なっているとは考えられないのだ。


「おかしいですよね。誰が見ても今のアクアは昔のように活気付き始めているのに、このタイミングで撤退を言い出すなんて」

「そうよね、窓口を大きくする事はあったとしても全面撤退するだなんて……」

 お店や商売を始めるにはまとまった資金が必要。そしてその資金を作るために商業ギルドから借り入れする事ができ、同時にギルドへの登録と毎月の支払いが発生する。

 つまりこのアクアには十分に利益が見込めるはずなのだ。

 もしこの時期に商業ギルドに撤退されてしまえば、これから商売を始めようとしている人たちは足踏みしてしまうし、既に商業を始めている人たちには、支払いや貯蓄といった事が出来なくなってしまう。


「とにかく一度カーネリンの支部へ行って話をしてみるわ。ノヴィア、悪いんだけれどすぐに馬車の用意をお願い」

「畏まりました」

 この時間帯からカーネリンの街へと足を運ばなければならないが、事は一刻を争う緊急事態。預けているお金を引き出せねば傾く商店もあるだろうし、送金が遅くなれば信頼を失い商売にダメージを負う事に繋がってしまう。


 私は急ぎ準備を整えカーネリンの街にある商業ギルドへと向かうのだった。




「ごめんなさい、ダメだったわ」

 意気揚々とカーネリンの街まで出かけたまでは良かったのだが、結果は惨敗。

 こちらが必死に説得するも決定は覆さないの一点張りで、まともに話すら取り合っても貰えない。

 挙げ句の果てにこのあと予定があるからと、突き放す様に放り出されてしまった。

 まぁ、アポもなく突然押し掛けたのだから仕方がないのだろうが、それでも領主である私が直接出向いているのだから、其れなりの対応があっても良いと思うのは私だけだろうか。


「困りましたね、あと9日……」

 カーネリンの街までの往復で無駄に1日消費してしまったので、ギルド撤退まであと9日。

 アクアの領主として一時的なお金の貸し借りは出来るが、支払いや送金といった内容までは肩代わり出来ず、また商業ギルドほどの知識とノウハウを私は持ち合わせてはいない。


「困ったわね……、一時的にメルヴェール王国の商業ギルドを頼るっていうのは?」

「やめておいた方がいいでしょうね。他国のギルドを頼ったとなれば、この国の商業ギルドを敵に回した事に繋がってしまいます。別に仲違いしたわけではありませんので、良い策とはいえないでしょう」

「そうよね……」

 国々でそれぞれギルドの大元は異なってくる。だけどギルド同士の横のつながりはあり、トワイライトのギルドで納めた支払いが、メルヴェール王国の商会へと、振り込む事が可能な仕組みが仕上がっている。

 だけど当然そこにはギルドと商会の絆というものが存在し、所属国のギルドを無視して他国のギルドを頼ったとなれば、今後二つの間には信頼という絆が崩壊してしまう。

 いくら私でも国内の商業ギルドを敵に回す勇気は持ち合わせてはいない。


「それじゃ打つ手はないのかしら……」

 国の外はダメ、国内の商業ギルドは一つだけ、おまけに喧嘩をしたいわけでないので、攻撃的な対策を打つ事もできない。

 現状出来る事といえば、アクア商会が一時的に商業ギルドの仕事を肩代わりをして、このアクアには商業価値があるんだぞと、ギルドにアピールをする事ぐらいだろう。

 せめてもう少し時間があれば組織作りも出来たのだろうが、私たちの残されたのはわずか9日。いったいこの9日で何処まで詰められるというのだろうか。


「他国のギルド……、残り9日……」

「何かいい案はあるかしら?」

 何やらブツブツと独り言をいうアレク、何か妙案がないかと尋ねるも。


「リネア、商業ギルドが出た後の建物はどうなります?」

「出た後? そうね、もともとあそこは領地管理の物件を無償で貸し出していたから、建物の権利は私の元に戻ってくるわね」

「無償でですか?」

「えぇ」

 確か私の記憶だと、前の領主様が商業ギルドの出張所を迎えるにあたり、無償で建物ごと貸し出しているんだと聞いた事がある。

 そうでもしないとこんな片田舎に、店舗を構えてくれる事は出来なかったのだろう。


「一つ質問なのですが、もしその建屋再び無償……、もしくは低賃金で貸し出す事は可能だったりしますか?」

「えっ?」

 アレクには珍しい内容の質問だが、誰にでも無償で貸し出せるかと問われば流石に言葉に詰まらせてしまう。

 商業ギルドに対しての契約は、当時のアクアにとってそれだけのメリットがあったわけで、再び発展途上のある今の現状では、特別扱いは後々問題になり兼ねない。

 せめてこのアクアの為になるならば、家賃交渉で譲歩できるところもあるのだろうが、無償でとなると正直厳しいと言わざるのが現状だろう。


「そうね、無償というのは流石に難しいでしょうけど、低賃金なら内容によっては検討できるわ」

「なるほど、でしたら何とかなるかもしれません」

「ホント!? それでその店舗というのは?」

「それはまだ……。ただ商業ギルドを怒らせず、商業ギルドの代わりになりうる存在、とだけ」

 流石にここまで来て、『知り合いのファンシーショップが入ります』とは言わないだろう。

 恐らくアレクが今言わない理由は交渉が上手くいくか分からないから。

 この世界では国が承認する商業ギルドは一つだけ、その業務もキッチリと役目が振り分けされており、金品の貸し借りから送金受け取りなどスムーズに行える、言わば銀行の代行をお願いしようとしているのだ。

 流石のアレクでも上手く行くかわからない交渉先の名前など、伝えるのを躊躇う気持ちは十二分に理解ができる。


「わかったわ、この一件はアレクに一任するわ」

「承りました。それでは戻ったばかりで申し訳ございませんが、再び出かけてまいります」

「えぇ、お願い。それで帰りはいつ頃になりそうなのかしら?」

 幾ら交渉が上手くいったとしても一ヶ月も二ヶ月待てる状況ではない。


「恐らく8日もあれば」

 8日……。これが往復を考えての日程ならば、行き先は恐らくトワイライトの中心部であろう。

 私は未だこのアクア近辺しか知識がないが、中心部へ行けば行くほど賑やかな街並みが広がっているのだという。


 こうしてアレクに一縷の望みをかけて、再び旅立つ姿を見送るのだった。

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