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アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
一章 精霊伝説が眠る街
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第40話 アクア商会

 言わゆるB級グルメのタコパでおもてなしをした私。男性陣達からのお代わりをひたすら焼き焼きしていたので、多めに作っていた生地も乏しくなってしまった。


「ん〜、流石にちょっと少なくなっちゃったわね」

 この後商会の方へと顔を出す予定だったので、差し入れにとおもっていたのだが、とてもじゃないがこれだけでは足りないだろう。


「ごめんリネア、この食べ物が美味しくてつい……」

「あー、大丈夫よ。足りなくなったって言っても生地はまた作ればいいだけだし、中にいれる具材だってまだ冷蔵庫に残ってたはずだから」

 ヴィルがなんとも申し訳なさそうに謝ってくるので、ここは慌ててフォローをいれる。

 正直ちょっとしたおやつ程度のつもりだったが、お昼からだいぶん時間が空いてしまった事と、男性陣達の食欲を少々見誤ってしまった事で、予想以上に仕込み分がなくなってしまった。

 どちらにせよ、小麦や卵などの食材はまだ倉庫に残っているので、生地から作り直せば問題ないだろう。


「もしかして僕たち、お店で出す分まで食べちゃったの?」

 と、今度はヴィルとの話を聞いていたアレクが、慌てた様子で私に対して謝ってくる。

 居候であるヴィルは、私が毎日この時間に商会へ顔を出す事を知っているが、今日再会したばかりのアレクには知るはずもないであろう。


「違うのよ、ちょっとこの後に商会へ顔を出す事になってて、お手伝いに行ってもらっているアクアと、スタッフさん達に差し入れを持って行こうとしていただけだから」

 お店で出そうとすればそれなりの量を用意しなければならないが、まだ立ち上がったばかりのスタッフさんは僅か数名。その中には精霊のアクアも含まれているのだが、数名程度の差し入れの量ならばそれほど時間もかからないだろう。


「商会ですか? やはりこの村にも商会ができたんですね」

 私の口から出た商会という言葉に、アレクの仕事仲間でもあるゼストさんが反応する。


「えっと、説明するとちょっと長くなるんですが、少し前に領主様の呼びかけによって商会ができたんですよ。まだ規模も人員も僅かなんですが、ちょっとずつ皆んなで歩き出そうって事で」

 彼も旅の商人ならば、私がここへ移住する前にこの村を訪れていても不思議ではない。

 そもそも商会なんて組織はそれなりの規模の街でしか見かけないし、アクアのような小さな村では余程のことがない限り存在する事もないので、彼が驚いたような素振りを見せるのは不思議な事ではない。

 ゼストさんは少し考えたような素振りを見せ、次のような言葉を口にする。


「あの、もしよければその商会に私たちを紹介していただけないでしょうか?」

「紹介……ですか? もちろんそれは構いませんが」

 一瞬頭の中を疑問が駆け抜けるが、旅の商人として商会へと顔を出すのはおかしな事ではない。

 なにより今このアクアの村の商材は、すべてアクア商会を通して売買しているので、アレク達のように旅の商人は、必ずアクア商会を通さなければ取引が出来ない仕組みに切り替えている。


 ただ、私が一瞬疑問に思ったことはゼストさんが言った紹介という言葉。

 本来ならここは紹介ではなく、案内してほしいというのが正解なのだが、あえて紹介という言葉を使った理由は恐らく何かを頼みたいのではないだろうか。

 もっともアクア商会(こちらとしては)は旅の商人さん達はウェルカムなので、物量と価格には相談に乗るし、何かの情報が欲しいと相談されれば、それ相応の対価と交換したっていい。

 要はお互いにメリットが合えば何だって対応するのが商会というものだ。

 まぁ、流石に新型の荷馬車が欲しいだとか、魚の仕入れを独占したいだとか言われれば断るしかないが、彼も商人ならばそういった無茶な要求は求めては来ないだろう。

 私が思っている本物の商人ならばの話だが……


「それじゃちょっと待っててくださいね。差し入れ用のたこ焼きをちゃちゃっと作っちゃいますので」

 気を取り直してノヴィアが持ってきてくれた材料を手早くかき混ぜ、慣れた手つきでたこ焼きを焼いていく。

 いつもより少し遅くなってしまったので、今頃アクアがお腹を空かせて暴れていることだろう。

 この後一体どういった要求を求められるのか気になるところではあるのだが、まずは差し入れ用のたこ焼きを作るのだった。






「お疲れ様ぁー」

「あ、リネアさん。お疲れ様です」

「お疲れ様です、リネアさん」

 アクア商会の本部でもある建屋に入るなり、事務仕事をしている二人の女性スタッフにむけて挨拶をする。

 このアクア商会は大きく分けて3つの部署が存在しており、一つはこの取引全般を管理するこの商会本部。こちらは生産農家さんや漁業関係者さん達と密に連絡を取り合い、その日その時期に採れる野菜や魚などを管理し、店頭に並べたり輸出先でもあるアプリコット領へと送る指示を出すといったもの。

 他にも会計処理や新規の取引先の確保、このアクアで商売をするお店などのサポートや、製造を生業とする職人さん達とも連携を取っている。

 もう一つは朝市や商人さん達と直接売買する販売店舗。こちらは説明するまでもなく、直接お客さんや仕入れにやってこられる商人さん達と触れ合い、商会で扱う食材や商材などを売買するといったもの。

 こちらはこの商会本部の隣にある建屋で、今も数名のスタッフさん達に働いてもらっている。

 最後にに物流と倉庫を担当する冷凍洞窟。こちらは氷を使った冷凍・冷蔵の倉庫兼、畜産農家さん達から送られてくる牛や豚などの解体保存するための施設。

 もっとも、今はまだ動き出したばかりの状態なので、精々売れ残った野菜や魚を保存する事と、輸送用の氷の製造をしているといった状態で止まっている。


「遅いわよ! 私が飢え死にしたらどうするつもりよ!」

「ごめんごめん、ちょっと食材の発注を忘れてて買い足しに行ってたのよ」

 私の声を聞くなり、奥の方からスイスイと空中を泳いできたのは、言わずとしれた契約精霊のアクア。

 アクアには洞窟内の氷の製造から、隣の販売店舗へ供給する氷の製造をお願いしており、今も差し入れと同時に迎えにやってくる私を、首を長くして待っていたというわけ。


「はい、これが今日のおやつよ。少し多めに作っておいたから、後で隣の販売店舗へ届けておいて」

 持ってきたたこ焼きを商会に置いている取り皿にとり、一つをアクアへ、残りの全て二人のスタッフへと渡す。

 現在この本部で働いてもらっているのはたった二人の女性だけ。月末などの忙しい時は私やノヴィアがヘルプに入るのだが、現状はまだ立ち上げたばかりなので十分にまわっている。


「ホクッ、ホクッ、ごくんっ。ん〜、やっぱりリネアの作る食べ物は美味しいわね♪」

「それは私も思います。いつも差し入れで頂いているお菓子だって、前に暮らしていた街でも売ってませんよ」

「そういえばココアはカーネリンの街からやってきたんだっけ?」

「はい、あの街でも商会の事務仕事をしてたんですが私には合わなかったみたいで、思い切ってこの村に来たんですが今度は仕事がなくて困っていたんですよ」

「なら丁度タイミングが良かったった訳ね」

「そうですね。リネアさんには感謝しなくちゃですね」

「「あははは」」

 一人タコ焼きに飛びつくアクアを横目に、二人の女性スタッフが同調するかのように会話を弾ませる。

 いつもならここに私も加わるところだが、あいにく今日はお客さんを連れており、残念ながら加わることができない。


「ココア、ちょっと隣の応接室を借りるわね」

「えっ? あっ、すみません。すぐにお茶の用意をしますね」

 恐らく私が連れてきた客人なので、商談の相手だとは思っていなかったのだろう。

 慌てた様子でココアがお茶の用意をしようと水場へと向かっていく。


「それじゃ、お部屋にご案内します……ね?」

 アレク達を応接間へと案内しようとして、二人が目を丸くして固まっていることに気づく。

 ん? 何か変なところがあったかしら?

 そう思い、二人が眺める視線の先へと顔を向けると、そこには自分と同じぐらいのたこ焼きにかぶり付くアクアの姿。

 口元がソースと青のりだらけなのはある意味ぷりてぃー。

 恐らく精霊が人の食べ物を口にするのがめずらしいのだろう。

 本来精霊に食べ物を口にするといった行動は必要ない。詳しくは知らないが、精霊は自然界に漂うマナというエネルギーを吸収し、自分の姿を維持するのだという。

 ただ別に、人が食する物が食べられない訳ではなく、美味しいものは美味しいと感じ、お腹に入れば空腹感も満たされるのだと、アクアがそう私に教えてくれた。


「もしかしてお二人は精霊が食事をするのって初めてみます? 私も最初は驚いたんですよね、あんな小さな体のどこに大量の食べ物が収まっていくのか」

 うんうん、わかるよその気持ち。

 戸惑っている二人の様子に、一人納得する私。


「「「「いや、そこじゃない」」」」

 なぜか私とアクアを除く四人から総ツッコミを受けるのだった。


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